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見つける、大拙。/「鈴木大拙館」

「よい雑誌というものは、本当におもしろいところは書かないでおくもんだ」といった旨の椎名誠の言葉を、出典もおぼろげなくせに折に触れては思い出す。

それが「読者が自分で見つけることに価値がある」という意味ならば、「鈴木大拙館」という場所は、大拙にまつわる“名雑誌”であるのかもしれない、などとふと思う。

今回は鈴木大拙館の立ち上げから携わっている、学芸員の猪谷聡さんにお話をうかがってきました。

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鈴木大拙の生家があった本多町に佇む「鈴木大拙館」。

金沢21世紀美術館からも歩いて5分ほど。街の中心地にありながら、エアポケットのような静けさを保つ鈴木大拙館。

「水鏡の庭」などは、外からも自由に出入りできるので、朝の散歩コースとして立ち寄る人や、年間パスポートを購入して、館内の「思索空間」でただひたすら水面を見つめる人−–。地元の人でも各人各様の関わり方を、この場所にもっている。県外はもちろん、海外からの来館者も多く、金沢での滞在中は毎日通うという人も少なくない。

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水鏡の庭

「物」も「説明」もない人物記念館

世界的仏教哲学者で、ZEN(禅思想)を海外に広めた功績者としても知られる鈴木大拙。いわゆる「人物記念館」を想像して同館をおとずれると、少し驚くかもしれない。

まず、お決まりの年表資料といった大拙を“概要”としてまとめたものがなく、展示物にもタイトルやキャプションといった説明が一切ない。聞けば、「スタッフも聞かれない限りは、こちらからは説明しない」というスタイルを徹底しているそうだ。

「通常、美術館や博物館は物を展示して、物を通して伝えるということが一番の基本です。ところが、大拙に関してはまず物がない。しかも、“物”ではないものに対して、大拙は語っている。これは建築家にとっても私たち学芸員にとっても、大きな課題でした」

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学芸員の猪谷聡さん

「もちろん、愛用品の展示や、年表資料を作成するといった、人物記念館としての基本的なやり方もあります。しかし、あえてその手法をとらなかった、ということは個人的にすごくおもしろいと思っています。この建物が大拙を表しているのであれば、“まず感じていただく”ことが大切だろうと」

建築は金沢出身の建築家であった谷口吉郎氏を父に持つ世界的建築家・谷口吉生氏。来館者自身に思索を促す場としての「思索空間」や「水鏡の鏡」を中心に据えた大胆なレイアウトなど、建築という形で大拙の哲学を汲み取った空間は、“建築好き”のみならず、多くの人々を魅了している。

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外から見た「思索空間」。

展示は常設のものはなく、企画展の形をとっている。現在開催しているのは『苦捨の人 −自安居士−』(2020.4/26まで)で、若い頃から大拙を支援し続けた実業家・安宅彌吉がテーマ。まるでキャッチコピーのように、大拙の世界へと誘ってくれる切り口を、止まることなく提案し続けてくれる。

ずっと知っていた大拙と、初めて“出逢った”瞬間。

「『鈴木大拙という人に興味があるか』と聞かれたら、私自身、20代の頃だったらまず『ない』と答えていたと思うんです」と、猪谷さんから意外な一言が。

猪谷さんは金沢出身。“金沢が輩出した偉大な哲学者”として、子どもの頃からその名前に触れることは多かったそうで、成人前後にも大人からの薫陶として大拙の言葉を聞かされる機会もあったが「全く面白いと思わなかった」という。(そう言い切る猪谷さんもすごい)

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大学で美学科に進んだ猪谷さん。旅先で吉田璋也(柳宗悦を師事していた鳥取県の医師・民藝運動家)が開いた料理店にそれとは知らず訪れ、その出会いから吉田璋也という人物の生き方・思想に興味を惹かれるように。

「その吉田璋也が尊敬してやまなかった人が、柳宗悦でした。そして柳宗悦について勉強をしていくと、柳にも尊敬する人がいることを知った。それが鈴木大拙だったんです。そのとき初めて、子どものときから知っていた大拙がピカーン!と光ったんですね」

自分の入り口から、大拙を見つける。

「自分がそういう入り口だったというのもあって、その人が好きな入り口から大拙と出会ってもらいたいと思っています。それに、ここに来たことがスタートにならなくてもいいんです。5年後でも10年後でも『そういえばあのとき…』とふと繋がるような入り口を、できる限り提案していこうと」

禅・仏教といったカテゴリーも、国境や時空をも超えて、多くの人々に影響を与え続けている鈴木大拙。ジョン・ケージやジョン・レノン、土門拳や村上春樹 etc.。音楽・文学・アートなど、現代のいたるところで“大拙のかけら”に私たちは出逢うことがあるという。知識として「知っている」状態では意味がない。ある種の必然性を持って「出逢って」こそ、大拙がその人の中で“起動”する。

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“満足しにくくなった私たち”に、響く言葉。

鈴木大拙館の片隅には、「鈴木大拙のことば」という、A5サイズのカードがあって、現在No.43,44,45。そのカードを、私はちょっとしたおみくじ気分で引いては愉しんでいる。そのとき響く言葉が、自分の偏りの在り処を教えてくれたりもする。なぜ大拙の言葉は、今を生きる私たちにこんなにも響くのだろう。

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「鈴木大拙のことば」

「大拙の語りには、私たちが本来求めているものにつながるという“予感”があるんだと思います」と猪谷さん。

「ZENをはじめ、大拙の思想はビート・ジェネレーションやヒッピーに多分な影響を与えています。彼らはいわば物の豊かさだけでは満足できない世代。それは現代の、“とても満足しにくくなった私たち”とも通じるところがあるのではないでしょうか」

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受付でフォルダーを受け取り、自分で資料を集めていくスタイル

「大拙の言葉は、必ずしも著作を読み込むだとか、全部読んだから達成した・分かった、というのとも少し違うものだと思っています。もちろん読んでいただけるとありがたいのですが(笑)。それは、分析して分析して辿り着く、という西洋的な考え方とはまた違う、日本的なものが本来持っている良さなのかなと。あまりにも私たちが、理屈や情報、知識に捉われすぎているのだとすると、そこからちょっと離れるような促しが、大拙の言葉にはあるのかもしれません」

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思索空間。/photo: RyoNoda

「当館の情報も、大抵はここに来なくてもわかることが多いんですけど、それでもこの場所に足を運んでくださるというのは、頭でわかること以外のことを、皆さん求めていらっしゃるからなのではないでしょうか」と猪谷さん。

ここであまり書きすぎると、それこそ鈴木大拙館の意に反する気もするのでこの辺に。もっと猪谷さんの言葉を聞きたいという方は、月に一度猪谷さんが企画展紹介と館内の過ごし方を案内してくれる「スペースツアー」があるので是非そちらにご参加を。2ヶ月に1回開催される「朝・思索のすゝめ」もおすすめ。(詳細はHPの「イベント」にて)。あなたにとっての“大拙”を見つけていただけたら。

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鈴木大拙館から中村記念館を結ぶ「緑の小径」も、とても気持ち良い散策コース。
名称

鈴木大拙館

住所

石川県金沢市本多町3丁目4番20号

TEL

076-221-8011

営業時間

9:30〜17:00(入館は16:30まで)

定休日

毎週月曜日(※月曜日が休日の場合はその直後の平日)
年末年始 (※12月29日から1月3日)

※展示資料の整理等のため休館する場合があります。

料金

一般:310円

65歳以上・障害者手帳をお持ちの方およびその介護人:210円

高校生以下:無料

(その他、共通観覧券あり)

備考

一般駐車場はありません。ご来場の際は近隣有料駐車場をご利用ください。(鈴木大拙館まで歩いてゆく道程も一興です)

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