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アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん

インタビュー

2020.06.28

2020年6月21日、金沢市広坂にオープンした私設の現代アート美術館KAMU kanazawa。“市設”ではなく“私設”で、館長は若干32歳のアートコレクター。さらには10年以内に10館まで展開予定だそうで-…!? エポックメイキングな美術館の若き館長・林田堅太郎さんにお話をうかがってきました。

アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん
「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん/1987年生まれ。中学まで福岡県で過ごし、高校時代は単身上海へ。その後、日本に戻り、金沢でデザインを学び、現在は東京を拠点に活動をしている。製品デザイナー、ITコンサルタントのバックグラウンドを活かし、プロデューサー、プロジェクトマネージメントなどの立場から、様々な要素を組み合わせたものづくりや施策を生み出してきた。アートコレクターでもある。

“市設”ではなく、“私設”の現代アート美術館。

−−まず始めに…そもそも美術館って、いち個人でつくれちゃうんですね。

林田さん(以下林田):もちろんです。海外だと、公立よりも私設の美術館の方がレベルが高かったりするくらい。世界トップクラスの資産家や財団が建てた、素晴らしい私設美術館が世界中にあります。

日本でも私設美術館がもっと増えたら良いと考えますが、海外のお金持ちは桁が違うというので比較対象にできない。なので日本や自分に合ったスタイルの美術館を考える必要があって、ちゃんとマネタイズするモデルを構築することを重要視しました。アートといえど資本主義の中でマーケットが動いているわけですから、「アートだから」と特別視せずに、その中で成立する手法を考えないと、このプロジェクトもやる意味がないと思っています。

アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん
「KAMU」は「Ken Art Museum」の略。

“未完”のまま、延々とつくりつづける美術館。

林田:そういう想いもあって、この美術館も建物など初期投資にお金をかけずに、やれる範囲で始めています。自分で壁や床を塗ったりDIYも取り入れたり、クラウドファンディング も挑戦させていただきました。オープンしてお客様が来てくれるようになって動き出したら、ビルもどんどん改修していけばいい。そうじゃないとビジネスとしては合わないですよね。この美術館は“完成”を目指してないんです。少しずつ・延々と、改修し続けていけたら。

−−構想から6ヶ月というスピード感や、32歳という林田さんの若さも話題になっています。

林田:僕は上海の高校に通っていたのですが、中国の“やっちゃえ精神”が好きなんですよね。例えば、完成してなくても製品化して、クレームが来たらその都度改善していくとか。中国がIT系のハードウェアが強いのもそういう特質が顕著に現れていると思います。
日本は整ってないものを表に出すのはダメというか、どちらかというと“綺麗につくること”を重んじる文化なので、中国のその価値観は新鮮でしたし、このスピード感は日本にも必要だと思いました。

−−ここはギャラリーとも、企業がCSRとして建てた美術館とも違います。アートをとりまく日本の状況に一石を投じたい、というような想いがあったのでしょうか。

林田:一石を投じたい、とかは全然ないです(笑)。自分がやりたいからやるだけで。「海外はこうだけど、日本はそうじゃないからダメだ」といった方の話をきいて「だったら日本に合うやり方でやったらいいだけでは」と思っていました。どうやったらできるか、とにかくその手法を考えることに価値があるのだから。

アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん
広坂商店街の並びに突如としてあらわれる美術館。「金沢21世紀美術館」からも徒歩数分の距離。

アートは誰でも買えるし、アーティストには誰でも会える。

−−レアンドロ・エルリッヒ、桑田卓郎、ステファニー・クエールと、錚々たるアーティストの作品が並びます。レアンドロに至ってはKAMUでの公開制作(作家は来ません)の予定も。どうやって関係性を築かれたのでしょうか。

林田:基本的には「買いたい」って言えば、誰でも作品は買えますよ(笑)。僕なんかコレクターヒエラルキーでいえば最下層にいるような人間ですから。

もちろん作品はギャラリーを介して購入するわけですが、展覧会のオープニングイベントなどではアーティストに直接会える場があるんです。ここがアートの面白いところで、ミュージシャンや芸能人には直接会えないけど、アーティストはどんな有名人でもオープニングに行けば大体会えるんですよね。無料で誰でも入れるし、勇気を出して自分から声をかければアーティストと話しもできるんです。そうやってギャラリーに通っているうちに、世代が近い作家だと仲良くなったりもします。

アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん
ステファニー・クエールの作品に囲まれて。現物を前にすると動物園の檻の中に迷い込んだかのような緊張感があります。(写真提供:KAMU kanazawa/Photo by Yasushi Ichikawa ©︎Stephanie Quayle)

アートを介して“コミュニケーション”がしたい。

−−個人的なコレクションを公開しようと思ったのはなぜですか。

林田:最初は僕も、単純に好きな作品を買って、自宅で眺めて楽しんでいたんです。男子がスニーカーを集める感覚に近いですね(笑)。でも、あるとき、それだけでは本質的に満足できていない自分に気づいたんです。「そうか、僕はアートを集めたいんじゃなくて、アートを介してコミュニケーションがしたいんだ」と。だったら一人で眺めてないで、みんなに公開しちゃおうかと。

−−“アートを介してコミュニケーションする”とは、どういうことですか?

林田:僕はクライアントや一緒に仕事をしたい人とも、アートを見ながら打ち合わせしたりするんです。現代アートには、まだ世の中で確立してない表現手法や概念が鏤められているので「じゃあ、今後こういう表現手法や概念が一般的になったとき、どこがマーケットになりうるか」とか、そういう話をします。あとは単純にその作品が好きか嫌いか、嫌いだと感じるのはなぜなのか、など。そんな会話をしていると、どんどん相手のことが分かってくるし、ニーズや問題点が見えてくる。もちろんお酒を飲みながらそんな話してもいいんですけど、アートを介せばいきなり本質的な話ができるので。

例えば、クライアントに「イノベーションが起きない」という問題があるときに、桑田卓郎の展示を見たり、創作時の考え方をビジネスに取り入れたら、突破できることもあると思う。アートにはそういう力があるんですよね、特に未来の話をしているときには。

アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん
桑田卓郎氏の作品。(写真提供:KAMU kanazawa/Photo by Yasushi Ichikawa ©︎Takuro Kuwata)

アート関係者が世界中から集う“状況”をつくる。

−−肩書きも「キュレーター」ではなく「館長」なんですね。

林田:これは肩書きを聞かれたときに、よくわからなかったので「じゃあ館長で」って感じで(笑)。僕自身はキュレーターになりたいとかは思ってないんです。知識としてあった方が良いのはもちろんですが、この美術館においては僕がそのポジションでなくていい。美術品やアーティストを紹介するのもひとつの仕事ではありますが、美術館の方針を考えたり、アートを介してどうやって世の中とつながり、世界中からお客さん呼んでくるかを考えるのが僕の仕事だと思うんです。

そのためには自分の美術館だけ盛り上がっていても全く意味がない。街が盛り上がっていないといけないし、街の人たちと連携できていないといけません。
例えば招待したアーティストやお客さんと食事するという一つの行為をとっても、いろんな体験があり得ます。水産会社の人とつながっていて、家を借りて獲れたてのカニを目の前で皆でもぎ取って食べられたら喜ばれますよね。そういう体験ができる環境を僕らがつくっておかないといけない。だからこそ一見アートと関係ないように見える街のいろんな人たちともつながって、連携していることが大切なんです。

うちの美術館が盛り上がって、街が盛り上がって、世界中の人たちも喜んでくれて…そして彼らがまた口コミで世界中から人を呼んでくれる。そういう状況が起こってくると、旬なアーティストも「金沢で個展をやりたい」という話になってくる。そういうところまでやるのが僕らの仕事だと思ってます。

アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん

アートが街をつかい、街もアートをつかう。

−−そういった私設美術館構想を「金沢」で展開しようと思ったのはなぜですか。

林田:いろんなところに住んでいるので、“どこが地元”という感覚が僕にはないんです。そう言う意味ではどの土地もフラットに選べたんですが、中でも“文化を受け入れてくれる街であるか”といったことは考えました。ポテンシャルがないとマーケットもない、僕らのやっていることは決して慈善事業ではないので。

あとは純粋に、金沢が好きだからです。学生時代を過ごした金沢には想い入れもあります。じゃあ今後その金沢がどうなっていくのだろうと。金沢は今地方としては現代アートのジャンルで間違いなくトップクラスの集客力があります。とはいえ青森や瀬戸内なども今すごく頑張っている。金沢は15年早くスタートした分、だんだんコンセプトも古くなっていくし、新しいところができればお客さんも分散していきます。変わらないまま、今の立ち位置を保てるかというと、正直難しいと思っています。だからこそ、「現代アートの街」という状況を保つ、もしくはより良くしていくことができたらと。

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金沢21世紀美術に展示されるレアンドロ・エルリッヒの作品。(写真提供:金沢市)
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金沢21世紀美術館(写真提供:金沢市)

林田:そして、これだけ観光客が来ていたのに“意外と街が潤ってない”ということも気になっていました。廃業するお店は多いし、金沢21世紀美術館から近い商店街にも全然人が歩いていない。そこで注意して観察していると、観光客はバスや車でくるから、動線的に繁華街である竪町や片町あたりを歩かないんですよね。
美術館が街に人を流す一つの手段になり得るのであれば、個人的にコレクションした作品を見せるだけの美術館をつくっても楽しくないけれど、街のことまで視野に入れてやるならおもしろいなと。今後10年以内に、私設美術館を10館オープンしたいと考えています。アートで街に人を回遊させられるようにできたら楽しいですよね。

アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん

現物の力、体感の力。

−−こけら落としとなる展示タイトルは「The power of things」。どんな想いが込められていますか。

林田:これは三作家に共通するテーマを探して名付けました。「物の力」というか。うちの美術館は立体作品が多いというのもありますが、実物から伝わってくるものや、空間に身を置いて初めて感じるものもあると思います。

これだけコロナでオンラインシフトすると言われていても、やっぱり皆「外に出たい」「体験したい」と思ったわけじゃないですか。もちろん、バーチャルマーケットの中に美術館つくってみようかという構想もひとつ考えていますが、同時に現物の力を信じているところもあるので。やっぱ画面越しに見るのとは別物ですよね。

アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん
桑田卓郎氏の作品。2020年6月の超最新作品も。(写真提供:KAMU kanazawa)
アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん
いたるところに作品が!見つけるのも楽しい。

−−いよいよオープンです。どんな方に来て欲しいですか。

林田:どなたでも。お子さんも歓迎です。別に“アート好き”じゃない人も来ていただけるように、レアンドロの作品を入れているところもあるので。彼の作品は美術に興味がない人も、興味を持ち出す“入り口”になると思うんです。金沢21世紀美術館含め、これだけレアンドロの作品が集う都市は世界的に見ても相当珍しいと思います。

アートに興味がなくても「猿かわいいなぁ」とかでいいんです。桑田卓郎さんの作品なんて、意図うんぬんじゃなくて、あそこまでやりきるエネルギーが凄い。そこまで突き抜けるからこそ、人が作品を見たときに「気持ち悪い」とか「綺麗」と感じるんじゃないでしょうか。ぜひ現場で体感していただけたら。

アートが集う“磁場”をつくる。/私設美術館「KAMU kanazawa」館長・林田堅太郎さん
7月から公開制作される予定のレアンドロ・エルリッヒの作品の3Dプリンターで出された模型。
名称

「KAMU kanazawa」

URL

HP:https://www.ka-mu.com/

Instagram:  kamu_kanazawa

住所

石川県金沢市広坂1-1-52

営業時間

11:0018:00(金・土曜日は20:00まで)

定休日

月曜

料金

入場料:800円

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