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食彩やまがた12カ月 神無月「紅エビ」

地域の連載

2020.10.23

 このコーナーでは今が旬のやまがたの食材にフォーカス。その天の恵みを育んだ風土や歴史、ひとの営みにも手をのばしていきたいと思います。

食彩やまがた12カ月 神無月「紅エビ」

 これからますます海水温がさがるにつれて、その美しい赤色の輝きが増す、紅エビ。広くは甘エビの名で知られるこのエビは、全国の漁師たちが自信をもって勧める「プライドフィッシュ」の山形代表に指定されています。

 山形産が「紅エビ」と呼ばれているのは、そのあざやかな色彩はもとより、紅をさした女性のくちびるとこのエビが似ているから。魚種にはさまざまな呼び名や通称がありますが、紅エビのネーミングはその名を広く伝えるのに秀逸と言ってもいいのではないでしょうか。

 ただ海に囲まれた島国日本にあって、山形県の日本海側、庄内浜の海岸線は約135キロメートル、全国で2番めに短いという限られた漁場なのです。それでも年間で130種という多種多様な魚種を誇るのが庄内浜。おもに家族単位で操業にはげむ漁師たちの勤勉や工夫は、プロの目利きや食通をうならせる海の恵みにあふれています。

 そのためか庄内浜で獲れる全漁獲量の約50パーセントは県外へとひきとれていきます。それがさらに紅エビとなると約80パーセントが石川県や新潟、東京へと出荷され、高級料亭などの食膳を飾ることになります。それだけひきあいのあるということは、高品質の証しと言えるでしょう。

食彩やまがた12カ月 神無月「紅エビ」

 鶴岡市の南西、新潟と県境を接する鼠ヶ関(ねずがせき)。紅エビはほかにも酒田港、由良港でも水揚げされますが、漁獲量では鼠ヶ関が群をぬいています。この浜に生まれ育った佐藤洋生さん(44歳)は2代つづく紅エビの漁師です。

「親父からあとを継ぐように言われたことはありません。小学5年生のとき、遊びにつもりで漁船に乗せてもらったのがはじめてのこと。そのときは操業中、ずっとゲーゲーはいてましたけどね(笑)。それでも高校卒業したら自分の意志で漁師になりました」

 佐藤さんが船頭をつとめる大洋丸が紅エビ漁にむかうのは、鼠ヶ関の沖合25キロほどのところ。水深300メートルほどの深層水水域に生息する紅エビを底曳き網で引き揚げます。

 数あるエビ類のなかでも10年も生きる紅エビは長寿の部類に挙げられます。その生涯でユニークなのは選択的両性具有種であり、繁殖のために性転換すること。ヒトからすると不思議に感じるかもしれませんが、紅エビをはじめとする海洋生物だけでも約500種、そのほか植物にも両性具有種はあり、数百年前から変わらぬ繁殖法で子孫を残しつづけてきたのです。

 佐藤さんが紅エビの漁に出るのは21時ごろ。翌日の夕方におこなわれる競り(セリ)に間に合うよう帰港するまで、夜を徹して漁をおこないます。その間、網をしかけ引き揚げる回数は3回。乱獲を防ぎ、先々まで漁がつづけられるよう、網にかかるのは丸々と大きく成長したものに限ります。サイズの小さいエビがすり抜けられるよう、網の目が大きくなっているのです。

「船の設備や漁法など、親父がやってころとほとんど変わりありません。ひとつだけ大きな違うのは、海上衛生管理システムを積んでいることです」

 これは海水をきれいにし、その水で引き揚げたばかりのエビをただちに洗浄、身を閉め、鮮度を保つための装置です。海水を使うため、よけいな資源の無駄にはならないというメリットもあります。この洗浄ののち、船上で氷とともに箱詰め。帰港してからおなじ作業をするのにくらべて、ぐっと鮮度の高いエビを出荷できるのです。

 紅エビ漁をつづけて25年を超える佐藤さん。その間、海の様子やエビの生態に変化は感じているのでしょうか。

「時化(しけ)のありかたが変わってきてるね。いまは時化ても海面が荒れるだけで、海の奥深くまで大きくかきまぜられるような時化が減ってきてるかなあ。それとやっぱり気候変動の影響なのか、以前だったら見かけることのなかった魚種が揚がるようになったね」

 そこで佐藤さんが例に挙げたのがエチゼンクラゲ。世界最大級ともいわれるこの大型クラゲ、その大量発生のニュースが記憶に新しい人もいるかと思います。このクラゲは漁そのものにも悪影響をおよぼすことがありますが、もうひとつ深刻なのは死骸が海底にたまり、海を汚すこと。

 ところが佐藤さんたち漁師の仲間うちではクラゲがエビの餌になっているのではないか、と話しているそうです。実際、エビは動物性プランクトンなどを補食、海中の浄化に貢献しているといわれています。

 また一方で海に出た多くのサケ、マス類の身が赤いのはエビやカニといった甲殻類を食べているためといわれています。海中というヒトの眼が届きにくい環境でも、生命の営みはバランス維持にむけての秩序が働いているのです。

 ふたたび佐藤さんのはなしに。佐藤さんたちが努めているのは紅の鮮やかな色彩や身のプリプリをいかに維持して水揚げ、出荷するということ。そのために力を発揮するのが、海上衛生管理システム、エビもやはり鮮度がいちばんというわけです。だから漁のあいまに船上で食べる、いわゆる漁師メシに優るものはないものの、紅エビ漁師だから知る家庭で味わう美味しい食べ方を披露してもらいました。

「シンプルに塩茹でがいいよ。身がプリッとして、海の幸の甘さがクチに広がるから。ただ茹ですぎは注意してな」

 最後に紅エビをはじめとする庄内浜の鮮魚がそろう、山形県漁協直営「庄内海丸」の情報を以下に記します。また「紅エビ」をつかった当店のレシピを別掲します。

山形県漁協直営「庄内海丸」
 山形市城西町5-26-28生活協同組合共立社コープしろにし内
 年中無休
 詳しくは、Facebook「山形県漁協直営庄内海丸」で検索

 

今月の旬菜メモ
紅エビ

 タラバエビ科タラバエビ属ホッコクアカエビ、日本では甘エビと総称。北太平洋の冷水域に広く分布、ベーリング海、アラスカ湾、カナダのコロンビア湾、オホーツク海から日本海などの海域に生息。

 北陸地方では甘エビ、新潟は南蛮エビ、山陰地方では赤エビなどとも呼ばれている。

 沖合底びき網、小型底びき網、えびかご によって漁獲される。1970年代に漁法の改良により漁獲量が飛躍的に増大するが、80年代に入ると世界的に乱獲が進み、大幅に落ち込む。以降、地域ごとに資源保護策が施されるようになった。

ワインビストロのレシピ
紅エビのマーマレードソテー、ローズマリーバター風味

食彩やまがた12カ月 神無月「紅エビ」

 当店のパエリアは紅エビありきのレシピ。そのため夏の禁漁期や時化で不漁がつづくとメニューからはずすことに。ポイントはエビの頭を徹底的に炒めてからとったブロード(出汁)で炊くこと。
 以下のレシピはワインにあわせるために考案したもの。

塩と片栗粉でエビをもみこむように洗い、水で流しよくふきとる。頭と身をはずし、頭はブロードなどに使う。

フライパンにオリーブオイルをひき、にんにくを低温でじっくり炒める。にんにくがキツネ色になったら取り出し、フレッシュのロースマリーボウルと無塩バターをくわえる。

バターが溶ける際の粒立ちがこまかく落ち着いてきたら、エビをくわえ、色がかわるまで炒める。火をとめてからマーマレードをくわえ、大きくまぜあわせて完成。

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