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食彩やまがた12カ月 水無月 「月山竹」

地域の連載

2020.06.23

 このコーナーでは今が旬のやまがたの食材にフォーカス。その天の恵みを育んだ風土や歴史、ひとの営みにも手をのばしていきたいと思います。

食彩やまがた12カ月 水無月 「月山竹」

 今月の食材は月山竹。

 食用の<たけのこ>には大型で肉厚な「孟宗竹」、筆のような形状の「根曲がり竹」の2種類があります。県産品では前者に湯田川、後者は月山周辺といったぐあいに、それぞれの名産地があります。

 たけのこや山菜にきのこ、海辺に目を転じれば庄内浜のアオサや亀の手など、そこに自生する生き物を採取する原始的なヒトの営みをイメージさせる食材に、山形は恵まれています。大陸から農耕がもたらされる以前、原始ニッポンの自然環境や風習に思いを馳せるきっかけも、これらの採取文化にはあるのかもしれません。

 なかでも月山竹が自生するのは霊峰・月山。そこは山伏の修験の地。その歴史をひもとくと国造りの神話以前の古代にさかのぼり、大和朝廷の成立から仏教伝来、武士の台頭、明治維新から大戦後と、教科書どおりの正史つかず離れず生き抜いてきた修験者たちのたくましさに気づかされます。

 それは宗教史の細道などではなく、現代のわたしたちの日常を取りまく生活様式や文化に深く影をおとしています。たとえば、こんなこと。

 出羽三山など東北に古くから伝わる信仰によると、死者は近隣の小高い山にしばらくとどまり、そののち月山など高い峰へと登り神になると言われています。ひとたび神さまになると山にとどまらず、春には水の神となって田畑や動植物に潤いをもたらし、秋には実りや収穫の神となり、ふたたび山へもどってくる。そして冬ごもり中の神さまはエネルギーを蓄え、増殖すると考えられ、この季節を「殖ゆ」と呼び習わしたそうです。

 こうした言霊の生まれた時代と場所に山伏の祖先たちは立ち会ってきたのです。彼らはかつて「日知り(ひじり)」と呼ばれ、天体の運行を知り、暦を司る祭祀者としてコミュニティの中心を担う存在でした。自然を信仰の対象とし、森羅万象を知り抜こうという生き方でした。

 現代の山伏も峰入りという修行を積み重ねつづけています。なかには「山こぎ」という野宿を重ね、山野を踏破する行があります。その際携行できるのは最小限の塩とそばの粉だけ。ほかは山野草などを摘んで調理し、栄養と空腹の足しにするそうです。

 月山竹も山伏の日常に深く根づいた食材のひとつです。たとえば出羽三山の合祭殿のある羽黒山の斎館で古くから受け継がれてきた精進料理には「月山の掛小屋(月山竹の油揚げ煮)」、「聖山の春秋(月山竹、しいたけの天ぷら)」、「月山の焼山(月山竹の三杯酢)」といった献立が。この地域の得意な自然条件や風土の恵みとして、月山竹がいかに珍重されていたかがうかがいしれます。

 志田靖彦さん(68歳)は50年近く山に入り、月山竹を採りつづけています。はじめは同世代の仲間たちと、やがてひとりか自らが経営する月山志津温泉「変若水の湯 つたや」という旅館のスタッフを連れて。

「どんどん奥のほうへ、容易にひとが立ち入れないようなところで採るようになりましてね」

 そう語る志田さんは旅館の経営者であるとともに山伏のひとりでもあります。

 夏スキーでも有名な月山(標高1984メートル)で志田さんが採取へ向かうポイントは、2時間ほど歩いた先の12001300メートルの高所。雪渓を越えていくため、アイゼンが欠かせないそうです。

「月山の雪解けは山頂からはじまるんです。そこは強風が吹き荒れるところで、雪でさえ地表にとどまっていられない。山頂部から吹き飛ばされた雪は8合目あたりにたまります。そのあたりは雪崩の雪が積もりたまったデブリと呼ばれる地帯でもあります。月山竹はその硬い雪のなかから芽をのばしてくるのです」

 こうした特異な環境に育つ月山竹には、ほかの産地のものとくらべてふたつの特長があるそうです。ひとつは収穫期がながいこと。そして食用に適さない硬く青みの強い根の部分が少なく、1本のなかでおいしく食べられる部分が多いそうです。

 竹は自生力が強く、群生化に旺盛な植物でもあります。志田さんがいちどに収穫するのは30キロほど。それは竹林にとってもほどよい間引きになり、明くる年の生態系にもいい働きかけになるそうです。

 こうした山の知恵者が手入れした月山竹に育つ環境には、群生地がめっきり減ったとされているシラネアオイという貴重な高山植物もきれいな紫色の花を咲かせています。

 最後に月山竹をつかった当店のレシピを紹介しておきます。
(次回は7月上旬の掲載予定。なお5月は全国緊急事態宣言期にあったため取材を自粛、休載させていただきました)

参考文献
『山伏ノート』坂本大三郎著、技術評論社刊
『聞き書 山形の食事』木村正太郎ほか著、農山漁村文化協会刊

食彩やまがた12カ月 水無月 「月山竹」

志田さんが経営する月山志津温泉「変若水の湯 つたや」周辺にて。ブナの原生林が広がる景色のなかに五色沼が静謐な水面をたたえている。「つたや」ではこの時期、月山竹づくしのコース料理が提供される。くわしくは下記のホームページまで。http://www.gassan-tsutaya.co.jp

今月の旬菜メモ
月山竹

 イネ科タケ亜科ササ属チシマザサ。ササの仲間では最も北部に分布し、おもな分布域は本州から北海道、朝鮮半島、千島列島南部、樺太。地域によって根曲がり竹、姫竹、山竹、月山竹など呼称多数。

 春に出回る孟宗竹は18世紀に中国から伝来した外来種。古来、日本の山林に自生していたのは月山竹などのタケノコだった。

 初夏の山菜として人気。皮をむいてアクぬきせずに味噌汁や煮物にしたり、皮付きのまま焼いたあと皮をむいて食べたりする。中空の茎は竹細工やそばのザルなどに。国産オーディオメーカー製スピーカーの資材に使われたことも。

ワインビストロのレシピ
月山竹とローストビーフの牛すじジュレ寄せ

食彩やまがた12カ月 水無月 「月山竹」

 牛すじ肉でスープをつくる。ネギの青い部分とスライスしたショウガと牛すじを鍋に水を張り沸かす。一度沸騰したら弱火にして、コトコトと4時間ほど煮る。アクが頻繁にでるので丁寧にとる。火を止めたらボウルに移し、十分に冷めたらひと晩冷蔵庫に。表面に油の層ができるので、きれいに取りのぞく。牛すじからでたコラーゲンによってジュレ化する。

 月山竹は皮をむいて5分ほど下茹でしてから、あさりのだしでさっと炊いて下味をつけておく。

 薄切りしたローストビーフを皿に並べ、根元部分を小口切りにした月山竹、煮詰めたバルサミコ酢をかけたトマトを散らす。

 皿全体に牛すじのジュレをスプーンでかけ、仕上げに香菜を飾る。