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創業444年の呉服店「とみひろ 庭多泉」

2021.06.06

創業444年──
日本でも有数の歴史ある企業が山形市にあるのをご存じだろうか。

創業444年の呉服店「とみひろ 庭多泉」

安土桃山時代に創業した呉服屋「とみひろ」。東北エリアを中心に、東京・表参道まで約20店を展開し、日本がもつ着物という素晴らしい文化を継承してきた。

超がつくほどの老舗でありながら、決して守りに入ることはない。

2015年には国内の養蚕農家が著しく減少するなか養蚕事業に参入。そして今年4月、山形県白鷹町に古民家宿泊施設をオープンさせるなど、新規事業にも積極的だ。

創業444年の呉服店「とみひろ 庭多泉」

創業444年の呉服店「とみひろ 庭多泉」

そんな「とみひろ」にとって、特別な意味を持つのが「とみひろ 庭多泉(にわたずみ)」というお店。着物の販売だけでなく、着物で楽しめるイベントを開催するなど体験がテーマの店舗でもある。山形市の北イオンのそばにある、長屋の建物がそれだ。

約450坪という広さにも驚くが、一歩足を踏み入れると、庭を囲むようにして贅沢な空間が広がっている。あたたかく出迎えてくれるスタッフがいて、つい長居してしまいそうだ。

「着物だけじゃなく、ジュエリーや雑貨、カフェなど、お客さまの生活を豊かにするために私たちができることを精一杯やりたい」と話すのは店長の伊藤典子さん。

そんな“お客さまに寄り添うお店” はどうやって生まれたのだろうか。伊藤さんのキャリアとともにお話を伺ってみた。

創業444年の呉服店「とみひろ 庭多泉」

福島県出身の伊藤さんは、東北芸術工科大学に進学し、「とみひろ」に新卒で入社。在学中にイギリス留学をしたことがきっかけで、日本の文化に触れる仕事がしたいと思っていたそう。

入社1年目のエピソードがとても興味深い。

伊藤さんが就いたのは本社の営業職。案内状を送ったり、電話などでお客様に着物をご案内する仕事だ。着物は着ない、いらないと拒否されることもよくあることで、一時は人と喋れなくなるほど精神的にもキツかったという。

創業444年の呉服店「とみひろ 庭多泉」

「自分を変えなきゃいけない、変えないと絶対にできるようにならない、と思ったんです。そんなとき本か何かで、景品でついてくるボールペンのようなものでも、さも素敵だと感じてもらえることができるという考え方を知りました。デザインと同じように、もの単体だけじゃなく、包装紙や陳列の仕方、言い方、持ち方という、ものを取り巻くものによって、そのものがよく見えたり、価値が上がって見える。そのときから考え方がくるっと変わりました」。(伊藤さん)

形式的にやっていたことも見方が変わると、まずはお客様にどうやったら興味を持ってもらえるかという視点が生まれた。

やがて数字となって結果がついてくるのに半年もかからなかった。

創業444年の呉服店「とみひろ 庭多泉」

けれども順風満帆とはいかない。
伊藤さんが27歳のとき、山形駅前にある「ろうまん亭」で店長に就任。それまでの営業職とは違い、スタッフをひっぱり、お店を作り上げる立場に。当時のことを 「ひどかったですよ」と笑いながら振り返る。

「私も働いているスタッフも若く、何を言っても説得力がない。信用されるわけがないんです。売り上げもないし、そういう状況だと人も辞めますよね。自分が情けなくて、毎月の店長会議が憂鬱でした。」

日中はスタッフのことを考え、自宅に帰ってようやく自分の仕事に取りかかる。手加減を知らず、できることはなんでもやろうと全力投球の日々。そんななか、さまざまな“挑戦”を会社に提案する。

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もっとお客さまに着物を手に取ってもらえるよう販売の仕組みを変え、オンライン販売もスタートさせた。お客さまが求めるものを誰より知っているからこそ商品の仕入れにも参加。すると結果は目に見えて現れ、“よく褒められるいい店” になった。

「計算してやったわけではなくて、今でもそれは苦手なんです。でもお客様が喜んでくださることを見つけるということに対しては、かなり敏感だと思います。喜んでもらえることに対して、今の自分の立場で何ができるかしか考えてなかったですね。」

創業444年の呉服店「とみひろ 庭多泉」

伊藤さんが「とみひろ 庭多泉」の店長として異動してきてから、6年が経とうとしている。併設している「マルベリーカフェ」は、こだわりのランチやスイーツを求めていつも人が賑わう。
実はこのカフェはもともと事務所スペースだったところを、伊藤さんが「カフェを作りたい」と社長に提案したもの。

「変えてきたというよりも、異動でお店が変わると、建物が変わり、扱う商品やお客様さまに求められることも変わってきます。その場所で必要なことを一生懸命にやってきたという感じなんです。いまでも必死なのは昔と変わらないですね。」

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着物で来てもくつろげるようにと、椅子にもこだわりが。
創業444年の呉服店「とみひろ 庭多泉」
人気の手作りあんみつ。自社農園で育てた桑を使った寒天がアクセントに。

「店長になったからといってマニュアルがあるわけではなく、社長は『お店はここにあるよ、あとは好きにしなさい』っていう感じなんです。やれる自由があるかわりに、自分で勉強もしなければいけないし、責任を持たなければいけません。でも、自分ひとりでは到底できないことが、会社にいることで自由にチャレンジさせてもらえるので、すごく楽しいなと思います。」

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そんな伊藤さんにとって着物はどんな魅力があるのだろうか。

「この仕事を続けていられるのも、やっぱり着物が好きなんですよね。私は着物の素材感やテキスタイルが好きです。洋服では出せないような織りや染めがあって、とても手間がかかっています。着物を着るとなると着物と帯がメインになりますが、そういう大物がたくさんなくても、帯締や帯留めなどの小物がいろいろあれば広がります」

着物の魅力を堅苦しくお伝えせず、もっと気軽に楽しんでもらえるようにしたいと話す伊藤さん。

庭に泉が多くある場所に人が集まる、という万葉集の歌からとった「庭多泉」というお店は、由来の通りになった。そこに流れる “お客さまを喜んでもらいたい”という想いを、ぜひあなたも感じ取ってみてほしい。

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写真:伊藤美香子
取材・文:昼田祥子

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