謎の現代作家アート展「トライアングル」展に込めた想い/ S&T アートディーラー上村哲也さん
世界的な現代アーティストの作品を、それほどにはまだ有名にならないうちに、つまり価格が高騰する前の、黎明期のようなタイミングのうちに日本に紹介する、ということもやってきた上村哲也さんは孤高のアートディーラー。たとえば、この国ではほとんど誰にも知られていなかったアンディ・デンツラーの作品をいち早く気に入って取り扱ってきました。その目利きのチカラは、日本各地に生息しているアートを愛してやまないジャンキーたち(!)からの信頼厚く、その眼力によって海外から取り寄せられた作品の数々は、本物のアートを渇望してウズウズしている彼らジャンキーたちをこの山形の片田舎にまで吸い寄せてきました。
眼が肥えに肥えたそんな上村さんの視線はいま、日本の有望な若手アーティストたちにも注がれています。この夏にやまがたクリエイティブシティセンターQ1内のギャラリー「THE LOCAL 」にて行なわれる「トライアングル」展もそうした活動のひとつ。作家名が非公開という、かなり謎に包まれたアート展です。
主催するS&T上村さんに、この「トライアングル」展に込めた想いをお聞きしました。
上村:「たとえば『若冲』って謳えば、たくさんの人が群がってくる。でもそれって、アートとして見たいから、というより、ただ『若冲』っていう名前や情報に集まってくるだけでしょ。あるいは『なんとか女流作家展』ってよくあるけど、女流かどうかなんてそもそもアートに関係ないでしょ……?」というようなことを若い作家さんたちと話していたことが、この企画のはじまりです。
そこからいろいろ話したり考えたりしているうちに自分自身に対して気づくこともあって、それこそ「女流作家ってなによ?」なんて言っているわりには、なにかの絵画を見てふと「コレはなんか女性っぽいねぇ」とか言ってしまっている自分がいるんじゃないの?とか。アンコンシャスバイアスみたいなものがいつの間にか自分にもかかっているんじゃないの?とか、ちょっと反省しなくちゃいけないかも、ということです。
そんな経緯もあって、今回若い作家たちと一緒にやってみようというのが、事前情報をなにも提示せずに展示するというこの「トライアングル」展です。やまがたクリエイティブシティセンターQ1の「THE LOCAL」をメイン会場にして作家たちの作品を並べますが、会場にはキャプションもなにも情報らしきものは一切つけず、ただ作品のみを飾ります。情報から得られるフィルターがまったくない状態で、お客さまにじっくりと作品に向き合っていただき、観ることだけに集中してもらい、楽しんでもらおう、と。
ただし、THE LOCALの隣のギャラリー「famAA」もお借りし、そこに1部500円のパンフレットを準備することにしました。値段は安いですが中身がすごいパンフで、作家ひとりひとりに対する批評文を大学教授などから書いていただいています。なので、最初は、なんの情報もないままに会場でじっくりと作品を鑑賞していただき、あーでもないこーでもないと唸っていただきます。見終わって会場を出たら、隣でパンフを買って読んでいただき、そうしたらもういちど会場に戻ってもらって、再びじっくりと鑑賞をお楽しみいただく、という仕掛けです。もちろん、気に入った作品をお買い求めいただくこともできます。
上村:私の仕事である「アートディーラー」には、単純に右から左に商品を動かすだけの人もいますし、詐欺師みたいなのもいますけど、私の場合はアートが本当に好きで、作家や作品をきちんと理解してもらいたいという気持ちをずっと以前から持ち続けてきました。ある海外アーティストの作品を仕入れているのが日本でウチしかない、みたいなこともよくあるのですが、それは海外のメガギャラリーが「この作家を日本で広めてくれるならお前のところに出すよ」と言ってくれるからですし、またその度にしっかりと実績をつくることで信頼してもらっているからです。お客様にも、できるだけ安いうちに買っていただければ、やがて評価が高まったときに「自分が買い求めた絵が認められた」という嬉しさや金銭的にトクした気分を味わっていただけるというのが、この仕事の面白さでもあります。
また、今回の展示について、作家名だけでなく作品写真もチラシに載せていませんが、それは「作品は、写真ではなく、自分の目で見てほしい」という想いがあるから。芸術作品というのは画像ではわからないものです。今という時代はインスタで売買されているものも多いですが、写真のほうが実物より良いなんてことが起きてしまっている気がします。
でも、本当に良い作品というのは意外と映えないものです。そのかわり、実物を見たときの驚きがすごい。「なんじゃこりゃ!全然違うじゃん!」くらいの驚きがあるものです。だから、やっぱり本物を見ないとダメ。画像で満足すると知識も浅くなるし、本当の感動もない。にもかかわらず、それでわかった気になってしまっている。スマホで完結しちゃうと美術館にも行かなくなります。それじゃダメです。ちゃんと美術館に行って、実物を体験するということをしてもらいたいと思いますね。
今回の展示についてここでは詳しくは言えません。けれど、「この子たちを応援したい」という気持ちにさせられる、間違いのない作家たちばかり揃っています。しかも、今回のために新しくつくったモノばかり並ぶことになるでしょう。ぜひ、ご期待いただきたいと思います。
「トライアングル」という名前にしたのは、「アングル=観ること」を「トライ=試す」ということがテーマだからです。「観る」に「挑戦してみよう」ということですね。日本人というのはどうしても頭でっかちで、美術館に貼ってあるキャプションをまずじっくり読んでから見るクセがついてしまっていますけど、まずは何も知らなくていいから、じっくり観てみようよ。そんなメッセージをお伝えできれば、と思っています。

トライアングル 展
・会期 8月5日(火)~8月17日(日)
11:00 ~ 19:00 *最終日のみ17:00まで
*8月16日(土) 14:00 ~ 15:30 座談会開催予定
・会場 The Local TUAD ART GALLERY
・参加作家 非公開
Photo : 布施果歩(Strobelight)
Text : 那須ミノル