【富山県小矢部市】身に纏う音楽、生まれるグルーヴ。/「MUXX」森永さん夫妻インタビュー【B面】
金沢市のお隣、富山県小矢部市で2024年に誕生した新進気鋭のブランド「MUXX(ムックス)」。「音楽を具現化する」ことをコンセプトに掲げ、ファッションアイテムを中心に展開中。6月1日で1周年を迎えました。
【A面】(記事はこちら)では主に古民家リノベーションについてうかがいましたが、今回は、森永さん夫妻や、MUXXというブランドにフォーカスした【B面】をお届けします。
「音を感じ、楽しむ生き方」を提案したい
ーーまずはMUXXのコンセプトなど、ブランドについて教えてください。
森永悠介さん(以下、悠介):MUXXには、「音楽を具現化する」っていう大きなコンセプトがあって、「音を感じ、楽しむ生き方」っていうのを、買ってくれたみなさんに提案していきたいと思っています。より音楽を身近に感じられて、もっと好きになってもらいたいっていうのが大きなミッションで、そういった世界を作りたいなと二人で思って始めたブランドです。
森永万理菜さん(以下、万理菜):そもそもなぜ音楽なのかというと、私は3歳から17歳までの14年間、クラシックバレエやジャズダンスをずっと続けてきて、宝塚を目指していたから演劇とか声楽もやっていた。物心ついたときには身近な存在で、いつもそばにあったのが音楽。
悠介:僕は音楽っていうより最初はダンスから入ったかな。ダンスで使われる曲がどうやって生まれたのか背景を調べるようになったことで、音楽がすごい好きだなって感じて。小5~小6で親の勧めでピアノを習っていて、そのときはちょっと嫌々行っていたんだけど、そのおかげもあって今は音楽も作っています。
万理菜:ダンスっていう共通点もあるけど、二人とも音楽が身近にあったから、掛け合わせて服作りをしていきたいね、という始まりだったね。
悠介:そうだね。だからMUXXは音楽をベースに、今はファッションを売っていくけど、これからは、“さまざまなもの”を組み合わせていきたい。例えば「音楽と旅」とか、「音楽と家具」とか、ジャズに合うお酒をMUXXがセレクトするとしたら、「音楽とワイン」みたいにもなってくるし、その後ろの“さまざまなもの”はこれから自分たちで考えていきたいなと思っています。
ーー立ち上げの経緯も気になります。
悠介:もともと東京で「studioPEACE」という自分たちで洋服を作るようなことをやっていてたときに、なんかちょっとプロ感がないというか、本格的にやっていないアマチュア感があるなとずっと思っていた。
万理菜:うん。すごくハンドメイド感が強かったね。
悠介:そう。それを脱出しようっていうことで、MUXXっていうものを誕生させたっていう感じだよね。
ーーお二人で服を作ることになったのは、ご結婚がきっかけでしょうか?
万理菜:ううん、結婚する前からだね。自然な流れだよね。
悠介:全然意識はせず、自然にやっていたよね。その始まりは7年前ぐらい。何かを生み出していきたい気持ちがすごく強かったし、多分お互い感じていたよね。世の中に爪痕残したいじゃん。形にしたいっていう思いがいろいろあるし、多分僕はその傾向がすごく強くて。音楽とか、DIYとか、料理もするしね。
着たり触ったり飾ったり、音楽を“具現化”する
ーー作りたいという衝動のもと、活動されてきたのですね。ブランド名の由来はありますか?
悠介:名前の由来は「MUSIC×THINGS」で、ミュージックとさまざまなものを組み合わせてみんなが幸せになれるものづくりを目指したいっていうことが最初のコンセプトにあって。MUSIC×X(THINGS=さまざまなもの・何か)で「MUXX」になっています。やっていくうちにだんだんと変わっていくんだけど、今のところいちばんしっくり来ているのが「音楽を具現化する」っていうコンセプトかな。
ーーまさに「RECORD T-shirt」はMUXXのやりたいことが伝わってくる作品だと思います。

悠介:まさにそう。本当にこれが今いちばんやりたいこと。音楽って、目に見えないもので、聴くのが当たり前なんだけど、これからは着たり触ったり飾ったりできるようにしたいなっていうのがMUXXのコンセプトで、それが「具現化する」という意味です。


万理菜:なんかワクワクするものづくりがしたいよね。
悠介:そうだね。びっくりさせたいよね、やっぱり。
ダンス、音楽、宝塚。“新しい自分”に出会うために服飾の道へ

ーー国内外問わず、いろいろな場所で過ごされてきたのですね。
万理菜:私は父の仕事の関係で転々としてきたから、あんまりこう出身っていうところはないんだけど…。
悠介:1個のルーツとして徳之島(※)ね。
(※)南西諸島の奄美群島に属する離島の1つ。鹿児島県大島郡に属する。
万理菜:そうそう。“心のふるさとは徳之島”って言っていて。生まれも育ちも違うからなかなか出身とは言いづらいけど、徳之島はやっぱりルーツとして強く推しているって感じ。祖母と母が徳之島出身だから、2世なの(笑)。
ーー“心のふるさと”と呼べる場所があるのは本当にいいことですね。大切にされているのがとても伝わってきます。
万理菜:そこはもう外せないみたいなところはあるかな。島の良さを発信するアカウントも勝手に作っているし。
悠介:愛がすごいね。島への愛が。

ーーファッションの世界に足を踏み入れたきっかけはなんでしょうか?
万理菜:宝塚は最終面接まで2回進んだんだけど、入れなくて。人生の中であと1回受けられるチャンスはあったけど、踊りたくなくなったし、“新しい自分に出会いたい”っていう気持ちになったから、受けないと決めた。母が手芸屋さんをやっていたこともあるし、友達の誕生日プレゼントも自分で作って贈ることもしていて、おしゃれもファッションも好きだったから、専門学校に通って、テーラーっていうスーツを仕立てる職人さんを目指していました。
ーーテーラーを目指した理由はありますか?
万理菜:もともと宝塚では男役になりたくて。スーツが好きだったし、作りたいという気持ちにもなっていたけど、社会に出て数年経って、スーツを作っていて「なんでスーツなんだろう」と考えたときに、背広を着た男役さんの一糸乱れぬ踊りがやっぱり好きだったんだなと。あとは小さい頃からかっこいい自分でいたいというのがあって、男性のようなかっこよさにはすごい憧れる。今はMUXXをやっているけど、いずれはまたテーラーもやりたいかな。

ーーテーラーの方に仕立ててもらった服は“水みたい”とおっしゃっていましたね。いつか体験してみたいです。
悠介:たしかに、それは言えてる。本当に水みたいだし、絶対にオーダーしないと得られない体験だよね。体型をキープしなくちゃいけないプレッシャーもあるけど、自分のモチベーションにもなるし。
万理菜:本当に水みたいにね、なんか吸いつくっていうか、不思議な感覚になる。全然疲れないしね。もはや体の一部。
悠介:テーラーは1人のお客さんに対して1着を作る技術を持っているから本当にすごい。MUXXでもお客さん1人のために作ってもいいし、あとは数量限定とか。価格はちょっと高くなってしまうけど、それがいいと思って買ってくれるお客さんのためだけに、そういった技術を活かした服を作りたいなとも思っています。
万理菜:せっかくの技術だし得意なことではあるから、それが活かせたらいいなって。
ダンスに明け暮れた日々から、洋服の世界へ

ーー悠介さんがファッションの世界を目指された経緯を教えてください。
悠介:もともと環境問題に関心を持っていて、「いい世の中になるには何をすればいいのかな」ということを高校生の時はすごく思っていたかな。大学に進学して、最初はカーデザインをやってみたいと思っていたんだけど、車の絵を描けばいいだけじゃなくて、エンジンのことや、物理とか数学系のことを学ばなくちゃいけないのは自分にはあんまり合っていなくて。その代わりダンスに夢中になっていました。そのうちにダンスの衣装をデザインしたいと思うようになって、万理菜と一緒の専門学校に入ったという経歴です。
ーー車から始まっていたとは驚きです。もともとデザインがお好きだったのでしょうか?
悠介:小さい頃から塗り絵とかすごく好きだったし、サラダバーではいつも盛り付けにめっちゃこだわってたの(笑)。絶対真ん中にトマトを置いて華やかにして、周りにコーンを置くみたいな、そういうこだわりが自分なりにあって。今思うと、その頃からデザインが好きだったのかもしれない。
ーーパタンナーを目指したきっかけはありますか?
悠介:みんなストリート寄りのダボダボのファッションをしているダンスの世界から専門学校に入って、洋服の世界って深いし幅広いんだということを知って、自由な発想を学びました。本当はデザイナーになりたかったんだけど、当時教えてくれた“師匠”と呼べる先生の仕事がかっこいいなと思って、僕もパタンナーの道を目指すことになりました。
ーーパタンナーとして、どのような経験をされてきたのでしょうか?
悠介:最初に就職した大手衣料品メーカーでは、世界のデザイナーさんの仕事を間近で見て、体感することができて、今MUXXのデザイナーとしての感性にはすごく繋がっているなと思います。ただ、工場のレベルが高いがゆえに、自分が仕様を理解できていなくても結構いいものができちゃうことが僕は腑に落ちなくて。本当にこれでいいのかなって葛藤して、現実を見てものづくりがしたいということで転職をして今に至ります。自分が作ったパターンがどう形になっていくのかという本質的な部分を、仕事をしながら勉強させてもらっています。
「あなたのために」想いを込めて作る
ーーMUXXの強みや、制作するうえで大切にされていることはありますか?
悠介:ものづくりって、作る人とデザインする人が分かれていることも多いけど、MUXXはデザイナーとパタンナーどっちもできることは強みかな。自分たちでデザインも設計もして、縫製して販売まですべて。それをやることでレベルアップできるというか、自分たちも理解して縫製できるし、お直しもできるっていうところにも繋がってくるから、やっぱり自分で手を動かすのって大事なんだなっていうのをMUXXをやっていてすごく感じていますね。
万理菜:あとはやっぱり誰かのために、この人のために作りたい、というところは強いよね。
悠介:それはもう「studioPEACE」の時から変わっていないもんね。「あなたのために私たちが作ります」っていうスタンスって結構大事だなと思うし、お客さんの満足度にもつながるから、想いもちゃんと伝えたいね。
自分から、心を開いて巻き込んでいく
ーーお二人ともオープンマインドな印象がありますが、移住をしてみて思うことや、地域の方との関わりについて教えていただけますか?
万理菜:私は本当にあちこち引っ越してきたから、自分から心を開かないと友達もできないし、自分をアピールしていかないといけないという育ち方をしたかもしれない。自分のことも「万理菜は~」って名前をわざと言うようにしていたんだよね、覚えてもらうために。そういうのがあったから、どこに行っても、知り合いや友達は常にいて楽しく過ごせていたし、それを今も変わらずやっているだけかな。
悠介:僕はね、やっぱりみんな幸せがいいな、そっちの方が楽しいなっていうマインドがあって。あとはここにもともと住んでいた人たちの中に溶け込ませてもらっていることもあるから、その“ありがとう”の気持ちもみなさんに伝えたいなと。地域の人たちが喜ぶこともやりたいし、巻き込みたいと思っている。
万理菜:巻き込むよね。
悠介:うん、巻き込むのは結構好きかも。自分だけ楽しいというのがあんまり好きじゃなくて、楽しいならみんな楽しもうよ、みたいなハッピーマインドがある(笑)。置いていきたくないんだよね、誰も。昔からずっとそうで、僕が一緒にプロジェクトやるんだったらみんなが納得して充実感を持ってやれたらいいなと思っているし、そんなことはいつも意識しながら、難しいけど挑戦しているかな。
万理菜:移住してみて思うんだけど、出会いって本当にたまたまじゃない?小矢部で出会った人とどんどん繋がって膨らんでいく感じが本当にありがたいなと思う。やっぱり移住者ってともすると孤独になっちゃうから、まちの人に受け入れてもらえるのは嬉しいよね。
悠介:二人とも小矢部にはルーツが全くないんだけど、受け入れてくれている感覚はたしかにあるよね。
悠介:この前、区長さんのところに物を借りに行ったらブロッコリーをいただいたんだよね。そういう野菜を分けあったり、物々交換をしたりする“田舎あるある”みたいな文化もすごい僕は好きで。都会じゃ味わえないし、こういうのって大事だよなと、こっちに来てより思うようになった。めちゃくちゃ野菜とかいただくよね。
万理菜:返しきれないくらいもらえるもんね。
悠介:徳之島から来てくれている万理菜のおばあちゃんが、じゃがいもとかを渡しているからかな?あげるっていうよりも、ありがとうございます、よろしくお願いしますって気持ちで渡しているけど、いい具合に関係性は保てているかなと。
万理菜:やっぱりうちのおばあちゃんがね、与えるのがすごく好きな人で。見返りは全然求めていなくて、お裾分けすると喜んでくれるので、その姿を見ることで自分も嬉しい気持ちになるみたい。
悠介:僕も結構学ばせてもらっているもんね。与えるのが大事なんだと。
万理菜:自分から心を開かないと相手も心を開いてくれないだろうし、お裾分けを持って行くことがきっかけになって会話が生まれるとか、そういうのはあるかな。
悠介:本当におばあちゃんは気さくだし、友達作るのも上手だと思う。もうね、お手本。友達作りの教科書。
ーー2025年5月11日にストアをオープンされて、その前日には地域の方向けにお披露目会をしたそうですね。
万理菜:オープンの前日にお披露目会をしたのは、やっぱりこの土地で若者二人が来ていきなりオープンしても地域の人たちが困っちゃうかもと思って。元のお家を知ってる人も多いから、どんなふうに変わったか興味を持っている人もいっぱいいたし、工事中もおばちゃんが遊びに来ていたっていう話も聞いてたから、みんな気になってるんだろうなと。自分たちのことを知ってもらうことで、ちゃんと受け入れてもらえるようにはしたかも。
悠介:それは絶対やりたくて、最初にこの地域の人たちに見てもらおうと。オープン2、3週間前くらいに予告して、ちょっとザワつかせておいた(笑)。
ーー地域の人への配慮、心遣いがすごくきめ細かいなと。リスペクトがあって素敵だと思います。
悠介:たしかに、リスペクトは忘れないね。あとは、自分たちだけがやればいい、じゃなくて、環境もまとめて良くしていこうというのは、あんまり意識していないけどちゃんとやっているかも。
ーーそういった気持ちが地域の方にもしっかりと伝わっていて、気持ちのいい関係ができているんだろうなと感じます。
悠介:前ここに住んでいた方の息子さんとグループラインでもつながっているし、家を見てもらったときにも、区長さんや地域の人に「森永さんたちが来てくれて本当によかったと思っています」と言ってくれていたみたいで。いい関係だなと思えるよね。

直向きに、ひとつずつ積み重ねていく
ーー今後の展望についてお聞かせいただけますか?
悠介:僕は海外でも仕事をしたい。グローバルで仕事をすることを自身の目標としていて、MUXXでも絶対達成したいと思ってる。今はまだまだ事業規模も小さくて、険しい道のりだけど、目標は海外で販売やポップアップを定期的に行えるようにしていきたい。人生の目標としてはニューヨークやロサンゼルスでポップアップのような展示や販売を行うことを死ぬまでに成し遂げたいこととして心に決めていて、その目標を本気で達成するためには何をするべきかを日々考えている。まだまだ先が長いけど、直向きにお客様が喜んでもらえるために何ができるか考えて、今できることをひとつずつ積み重ねている感じかな。
万理菜:私は子ども服を作りたい。娘も生まれたし、周りにも子どもが増えてきて、「子ども服ないの?」と聞かれることもあって。需要がもうすでに発生しているんです(笑)。だから親子で着られるような可愛い子ども服を作っていきたいなと考えています。
屋号 | MUXX |
---|---|
URL | Instagram|https://www.instagram.com/muxx.official/ |
住所 | 富山県小矢部市五郎丸 |