【西会津町】アートのちからで面白く豊かになっていくまちの多様性。草木まとってきました!「西会津国際芸術村」
施設情報
福島県西会津町。そこは郡山市から新潟方面へ車で2時間ほど走ったところにある自然豊かなまちです。向かう道中は山、ひたすら緑。ときには、サルや熊が出ることも…。そのくらい山深い場所です。郡山市出身の私は、幼い頃から何度も会津地方に訪れることはありましたが、西会津に足を踏み入れるのは人生初!でした。「西会津国際芸術村」に行ってきました。
田んぼだけじゃない、アートがある
なぜ私がこのまちを訪れたかというと、西会津町ではアートが盛んだという話を聞いたからです。
私にとってアートは、自分の暮らしや人生を豊かにしてくれるもの。昔から絵を描くことや美術に触れることが好きでした。
ただ、田んぼに囲まれた昔ながらの田舎町でアートがどんな形で存在しているのか想像ができなくて、かえって興味がわいたのです。
訪れたのは「西会津国際芸術村」(以後、芸術村)。この場所が、まちにアートを巻き起こす中心地となっています。旧新郷中学校の木造校舎を活用した施設。階段をのぼり、廊下を歩き、教室に入る、そうしていると何だか昔の学校にタイムスリップしたようなワクワク感がありました。芸術村は、アーティストによる作品の展示やイベントが行われるだけでなく、国内外からアーティストが集い、一定期間滞在し、制作活動を行う場「アーティストインレジデンス」としての機能も持っています。
なぜ西会津にアートがあるのか
このまちでアートが盛んな理由を探るため、芸術村の運営などを行う「一般社団法人BOOT」の代表理事を務める、矢部佳宏さんにお話を聞きました。西会津出身の矢部さんは大学卒業後、「風景をデザインする」ランドスケープデザイナーとして国内外で活躍し、東日本大震災をきっかけに西会津にUターンしました。そして今、アートをひとつのテーマに、まちに新しい動きを生んでいます。
矢部さんは、まちが豊かになるためには変化が必要だと語ります。
「今まで全然自分が触れたことのないものが身近でちょっとでも生まれることで、変化が起こるでしょ。その新しいものに対する違和感がまちの中に入ってくるっていうのは、すごい大事なんですよ。考えるきっかけを与えられるから。アートもまちに変化を及ぼすきっかけの1つなんです。」
美術館に行くことが好きな私も、作品を見たとき、不思議でよくわからないと思うことがよくあります。自分なりに、これは何を意味しているのか、どんな物語が背景にあるのかを考えます。このことに似ていると思いました。
まちの外から滞在アーティストが来て作品を制作し、それに触れたとき、「何だかよくわからない」と思うかもしれません。でも、「わからない」からこそ考える。その過程が変化のきっかけになります。
アートがひとを引き寄せる
アートは多様なひとを引き寄せる力を持っています。今回は、アートを入り口として西会津につながりを持つようになったお2人を紹介します。
まず、山口佳織さんです。佳織さんは、芸術村に関わっていたアーティストのご友人に誘われたのをきっかけに、初めて芸術村を訪れました。
美術系の学校に進学し、元々ご自身もアーティストとして活動されていた佳織さん。
「作品を見たときに、心を揺さぶられるようなものをつくりたい。「綺麗な絵を見た」という言葉としての記憶よりも、何を見たのかよくわからないけど、そのときの心の動きだけが感覚として残る作品をつくりたかった。」
と語ります。芸術村に来たときも「感覚として残るもの」を大切にしている場所と感じたそうです。
「真っ白で平坦な壁で、ほかの要素がないからこそ作品の訴えたいものを100パーセント見ることができる、というのがよくある展示スペース。芸術村や西会津は場所や土地の力が強い。独立した“絵”ではなく、“空間の中に飾られている絵、その空間にいる私”が感じられる。」
昔ながらの建物が好きだったこともあり、すぐに芸術村のトリコに。東京や地元名古屋で働きながらも、長期休みにはこの場所に訪れていたそうです。そして、2018年には西会津に移住し、地域おこし協力隊として活動を始めました。
次は、詩人・演出家として活動されている野宮有姫さんです。野宮さんは西会津出身の俳優、星善之さんとの出会いがきっかけで、芸術村を知ることになります。「面白そう!」と思い遊びに来たのが2年ほど前だそうです。
その後、芸術村で「注文の多い料理店」や「銀河鉄道の夜」などの体験型の演劇企画を行っています。
主に東京で活動されている野宮さん。西会津と東京、それぞれの演劇のかたちには違いがあり、その土地ならではの面白さがあると言います。
「どの“場所”でやるのかは私にとっては影響が大きいものです。東京は、電車に乗って、地下を潜ったところにある小劇場でやる。まちのなかで、山を通ってきた場所でやるのは、西会津ならではだと思います。自然や野生の力が強い場所は元々好きで、そういう場所の力を借りながら何かやることや、実際に“まち”という動いている社会と関わりながらやることは、すごく憧れがありました。今までできなかったことをトライさせてもらえています。」
西会津で活動することによって、東京という場所を捉え直すきっかけになったとも言います。
草木をまとって山のかみさま
今回ご紹介した矢部佳宏さん、山口佳織さん、野宮有姫さんが携わるイベントが6月に開催されました。それが、芸術村のイベントの1つ「草木をまとって山のかみさま」です。統括が矢部さん、制作は佳織さん、演出は野宮さんが担いました。このイベントは、演者が草木をまとい、パフォーマンスを通して神様へ御奉納するというもの。そして、観覧に来られた方も草木をまとうことができます。「三年続けてお詣りすれば、一生に一度はなじょな願いも開きなさる山の神様」と伝えられる大山祇神社にて開催されました。
「草木をまとって山のかみさま」は東日本大震災の影響で大きく傷ついた福島の再生のために、美しい自然と人々が愛しみ育ててきた豊かな森林文化をテーマとした「森のはこ舟アートプロジェクト2014」の事業の一部としてスタート。今年で8年目を迎えました。主催は、華道家の片桐功敦さんによるI am flower project。「草木をまとう」ワークショップから生まれたプロジェクトです。
今年の演目では春夏秋冬の季節の流れが表現されていたそうです。
舞いや演奏のほかに、「祝詞」が取り入れられたのが例年との大きな違い。詩人として「ことば」を大切にしている野宮さんならではの演出です。
草木、まといました!
私も草木をまとう体験をさせていただけることに!草木を身にまとうことなんて初めてで、こんな顔の近くに緑があるのはなんだか不思議な感覚でした。しかし、ずっとまとっている間に愛着が湧き、自分の一部になったような気がして、なかなか外したくない気持ちも芽生えてきました。
パフォーマンスの様子も間近で拝見させていただきました。様々な音とことばと動きが神楽殿の中で繰り広げられ、どれも見逃したくない、聞き逃したくない、そんな思いで釘付けになっていました。当日はあいにくの雨でしたが、雨音、雨が引き起こす匂いが相まって、「雨」という自然現象までもが演出の一部のように感じられました。
肌身で感じた、アートが引き起こすちから
西会津町、訪れたことのないその場所に対する私の中のイメージは、田んぼ、山、おじいちゃんおばあちゃん、そのくらいでした。
ですが、実際に訪れてみると、思わぬ出会いがたくさんありました。「草木をまとって山のかみさま」を作り上げる方々も西会津で生まれ育ったわけではない方がほとんどです。西会津から離れた場所からイベントを見に来る方もいらっしゃいました。まちには外国人の方もいらっしゃいました。神社の参拝に来た地元の方が、今回のイベントに気づき、足を止める光景もありました。
このまちに多様なひとが集まって交流している様子を、たった数時間という短い滞在時間の中で目の当たりにすることができました。
私自身もアートがきっかけで西会津に訪れました。その意味では、このまちに集まる多様なひとの1人なのかもしれません。矢部さんの言うアートが引き起こすちからを、少しでも感じられたように思います。
名称 | 西会津国際芸術村 |
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URL | Official web: https://nishiaizu-artvillage.com/ facebook: 西会津国際芸術村 NIAV (facebook.com) Instagram: 西会津国際芸術村(@niav_public) • Instagram写真と動画 twitter: https://twitter.com/niav_public YouTube: NIAV 西会津国際芸術村 - YouTube |
住所 | 福島県耶麻郡西会津町新郷大字笹川字上ノ原道上5752番地 |
TEL | 0241-47-3200 |
営業時間 | 10:00~17:00 |
定休日 | 毎週月・火曜日(祝祭日除く) |