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福井駅前realpeople#1 「駅前の変化を映画で撮る」俳優・映画監督片山享さん

インタビュー

2021.08.26

福井の地域情報誌であるURALAとタッグを組んで、変わりゆく福井駅前に関わる人たちに焦点を当てた連載をスタートします。関わり方はみな様々。リアルな横顔を切り取っていきます。

第1回目は、俳優・映画監督の片山享(かたやまりょう)さん。
「3日間で映画を撮る」をコンセプトに始まったふくいムービーハッカソン第2回の「いっちょらい」(2017年)の初監督を皮切りに、様々な作品を世に出しています。
現在、新幹線開通を前に刻々と変化している福井駅前の日常を題材にした映画を撮り始めているという情報をキャッチし、片山さんにこれまでとこれからのお話しを伺いました。

福井駅前realpeople#1 「駅前の変化を映画で撮る」俳優・映画監督片山享さん
鯖江市の河和田出身。高校まで過ごし、大学入学を期に上京。俳優活動を、大学卒業してから本格的にスタートさせます。

役者と映像編集の2足のわらじ

―監督業はいつ頃からどんなきっかけでスタートしたんでしょうか。
元をただすと2004年の自主映画に参加したことがきっかけです。その時に、一人ずつ映像の編集をして、「お前才能あるね」と言われて。そこからまず映像編集歴がはじまりました。

編集って役者の仕事の邪魔にならないんです。自宅作業で、納期を守ればいい。特殊能力なのかもしれないですけど、僕、編集がめちゃくちゃ早かったんです。役者を始めて10年経たないくらいから、徐々に編集を仕事として依頼されるようになって、俳優という好きなことをやりながら編集をやるというスタイルが出来上がりました。

嘘をつきたくない、ちゃんと生きていたい

―これまでのターニングポイントを教えてください。
僕はうまい役者さんがすごく嫌いなんです。うまいというのは嘘をつける人のことで、監督がやってほしいことを察知して、嘘をつく。僕もそういう芝居をやっていたし、それがいいと思っていました。
でも32歳を超えたあたりで芝居の評価が下がっていった。先輩、上司という上の立場の責任のある役をやることが増えて、僕の嘘は薄っぺらかった。だから当然、評価されなくなってきたんです。俳優として一番もがいたのがその時期です。何をやってもうまくいかなかった。

そんな中で一筋の希望が見いだしたのが、自分の感覚を信じることでした。マネージャーから「ドラマの撮影日と被ってしまったので落ちてください」と言われて受けたとある広告のオーディションがあって、これに受かったのが突破口でした。その時は、受からなくていいからと気を楽に受けられて。だから自然と嘘のないお芝居になったんだと思います。嘘をつかない人は、心底本当のこと言っていると分かるから、印象に残る。だからお芝居の印象も強くなる。それに気が付いたきっかけでした。

35歳、好きなことをしよう、映画を撮ろう

―映画を撮り始めたのはいつ頃ですか。
ずっと映画は撮りたかったんですよね。35歳になった時、ふと考えたらあっという間だったのに、それをもう1回繰り返したら70歳だと。だからもう周りの目とか気にせずに好きなことをやろうと思いました。その頃に安楽涼(あんらくりょう)という役者仲間が、監督をはじめて。彼に触発されたというのもありますね。

色々なことが重なって、2017年36歳の時にふくいムービーハッカソンの2回目で「いっちょらい」という短編映画の監督をしました。
前年の1回目は招待俳優として出ていて、その時に思う事が沢山あって、「次は監督をやらせてください」と言いました。

「いっちょらい」の福井の舞台挨拶は、とても緊張していたんですけど、ありがたいことに反響が大きくて、またそこから別の作品を撮っていくことになりました。もうひとつ短編映画を撮って、そしてそのあと福井を舞台にした長編映画「轟音」(2018年)につながります。

僕は福井がすごく嫌いだったんです。でも希望の話を作りました。「轟音」ってすさまじく暗いんです。まあ僕の映画だいたい暗いんですけど笑。

福井駅前realpeople#1 「駅前の変化を映画で撮る」俳優・映画監督片山享さん
真摯な眼差しと言葉で、俳優について、監督についてお話し頂きました。

暗いから希望が描ける

―暗い映画、実は苦手で、もっぱら平和なアニメーション映画ばかり見ちゃっています。
どうして暗いかというと、良いことは悪いことの対比がないと際立たないんです。
特にご当地映画と呼ばれるものは、良いと思われているその幻想を追いかけているだけだと思っていて。良いと思われているものをさらに良いものとして描きがちなんで、ふわふわしすぎちゃって何が良いのか分からなくなってしまう。

僕は幸せのレベルが低いんです。今こうやって座ってお話しができていることが一番幸せだと思っています。当たり前のようなこんなほぼゼロの状態を良いと思われたいから、マイナスに振り切っていかないと表現できなくて。
だから僕はすごく悪いところを原点に置く。悪いことを表現することで、この日常が幸せだと表現したいんです。だから不幸な話がとても多くて。めちゃくちゃ苦しんでいるけど、その苦しみを抱えながら生きていくことで幸せを表したいです。

「日々」。福井駅前の変化を劇映画で撮っていく

―今新しく撮り始めている映画のことを教えてください。
福井駅前の三角地帯がなくなるということを2020年に聞いて、これは残さなきゃだめだなと思いました。タイトルは「日々」です。
ストーリーに大きな紆余曲折はないですけど、福井駅前で頑張って生活をしている人たちが愛おしく思える映画を撮りたいと思っています。

監督を務めて、今夏公開された地元企業の映画「くもりのち晴れ」のタッセイの田中陽介(たなかようすけ)さんと話をしたんです。彼はこの再開発に深く携わっている人だから。ちょっと言い合いになったんですけど、まちを新しくすることでまちにとっての希望になると信じたいと彼は言っていて、それはそれで素敵なことだなと思いました。
僕はどちらかというと古いものが好きなんです。これは映画のセリフにも描いたんですけど、古いものは僕たちには新しいものでもあるって。だからこの駅前の変化も、変わらないことも、新しいことではあると思うんです。

福井駅前realpeople#1 「駅前の変化を映画で撮る」俳優・映画監督片山享さん
インタビュー後に観に行った「くもりのち晴れ」。建設業で働く若者の葛藤と支える周りの人たちの姿に、静かに心を打たれました。

あと、「いっちょらい」や「轟音」と同様に、「日々」も役者ではない福井の人が沢山出ています。たぶん分からないと思う。それくらい、映画の中でみんな一生懸命に生きてくれています。僕は役者だから下手な芝居を見せることは嫌なんで、そのあたりのクオリティは絶対に妥協していません。

一生懸命生きている、だから愛おしい

―嫌いで出た福井に対して変化した思いはありますか。
映画を福井で撮るようになって、福井駅前に寝泊まりするようになって、片町や色々な場所へ連れて行ってもらいました。そこで、こんなにも面白い人たちが福井にもいるんだと気が付きました。えらそうですけど、それにすごくほっとしたんですよね。

あと自分が大人になって生活をしなきゃいけなくなって、僕の嫌いだった福井に住んでいる大人たちも、一生懸命生きていたんだということを気づいたら、ものすごく愛おしくなってしまった。あの噂話をしていたおばちゃんもちゃんと生きているんだなと思ったら、嫌いになれなくなりました。

10年後くらいにはこの変化は落ち着いているでしょうけど、その時に「日々」を観て、こんなこともあったねってみんなが笑いながら言えたらいいなと思っています。賛成派であろうが反対派であろうが、そこでグズグズ言っていない福井の人たちであってほしいです。

月刊URALA https://urala.jp/sp2/