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再生可能エネルギーに取組む!/ながめやまバイオガス発電所・後藤博信さん(前編)

2021.10.26

日本を代表するブランド黒毛和牛・米沢牛の生産地のひとつである山形県飯豊町で、2020年9月、「ながめやまバイオガス発電所」が完成、運転が開始されました。日本初の「肉牛の」排泄物を利用して電気を生み出す発電所です。

立ち上げたのは、これまで山形県南部や福島県において太陽光発電や小水力発電などの再生可能エネルギー事業を展開してきた東北おひさま発電株式会社。同社代表取締役を務める後藤博信さんは、野村証券副社長、野村総合研究所副会長を歴任してきた異色の経歴の持ち主であり、退任後ふるさと飯豊町に戻り、再生可能エネルギー事業にゼロから取り組みはじめました。

日本初というこの発電所はどんなものなのか。ここから、地域の未来をどう描こうとしているのか。そこにはどんな想いが隠されているのか、後藤社長のお話を伺いました。聞き手は、やまがた自然エネルギーネットワーク代表で東北芸術工科大学教授の三浦秀一さんです。

再生可能エネルギーに取組む!/ながめやまバイオガス発電所・後藤博信さん(前編)
東北おひさま発電株式会社代表取締役・後藤博信さん(左)、やまがた自然エネルギーネットワーク代表・三浦秀一さん(右)

== 後藤さんは野村証券副社長といういわば金融の世界にど真ん中にいらっしゃったわけです。そこから一体どのようなきっかけで再生可能エネルギーに取り組まれることになったのでしょう。

後藤:わたしは飯豊町出身で、中学までこの地に育ちました。高校は米沢で下宿し、その後東京へ出ました。高度成長の真っ只中で、金融という市場原理主義的な世界に身を置き、50年近くを過ごしてきました。そんななか、90年代頃からでしょうか、東京という、自然環境と人間社会との繋がりがないようななかでの営みを「異常だな」と感じるようになりました。おそらくそれはわたし自身に、自然の大地との共生のなかで育てられてきたという原体験があったからでしょう。

よく「地球規模の環境問題」という言葉が使われるのを耳にしますが、「地球規模」とはつまり「地域地域の環境問題の総和」ということにほかならないと思います。地域社会というのは人間と環境との共生によってつくられ、そして地域の文化や風土が生まれていきます。地域の環境をつくることは、自然と人間社会とがどう共生するかということです。もはや東京には自然とのつながりはありません。極端に言えば、四季もなく雨か晴れかもわからないなかで暮らせる場所なのですから。

自然のなかでなにかを生業とし、自然と共生して生きていく。そういうことをやりたくてわたしは東京を離れ、ふるさとに帰ってきました。2009年のことでした。

再生可能エネルギーに取組む!/ながめやまバイオガス発電所・後藤博信さん(前編)

土地とともに生業をつくり
地域資源を地域のために使う

後藤:ふるさとに戻ってから2年後に震災、そして原発事故が起き、「絶対的、神話的といわれたものがこんなことになるのか」と衝撃を受けました。あの事故をきっかけに、ふるさとを離れなければならなくなった人たち、いまも帰れない人たちがいました。その姿を見たとき、「もういちどわたしたちは土地とともに生きていく、土地とともに生業をつくっていく、という原点に立ち返らなければならない」と感じました。では、一体、地域のためになにができるのでしょうか。

こたえは「地域資源を、地域のために使う」ということだろうと考えました。いま地域にある資源をできるかぎり地域のために利用するということ。それは、食料ならある程度成立していると言えるでしょう。けれど、地域にあるエネルギーを活用することはまだできていない。わたしは、再生可能エネルギーに取り組むことによって、地域が自立できるような基盤を作り出せるんじゃないかと考えました。

エネルギーを地域のなかで生み出し、地域のなかで使う。そういうエネルギーの地産地消の仕組みづくりをやってみよう。環境問題は「グローバル」と言われるけれども、わたしたちはまずは「ローカル」だけを考え、「ローカル」に行動することだけにフォーカスしよう、と完全にマインドを切り替えました。めざすは資源や経済などすべてが地域内で循環する仕組みづくりです。エネルギーはその要です。

再生可能エネルギーに取組む!/ながめやまバイオガス発電所・後藤博信さん(前編)
ながめやまバイオガス発電所(発酵槽)

発電所にして産廃処理施設
そして地域課題ソリューション

後藤:わたしたちの再生可能エネルギー事業は、まず太陽光発電からスタートしました。現在までに山形県長井市にふたつ、福島県いわき市にひとつ、南相馬市にひとつ、太陽光発電所をつくり稼働させています。また、身近な農業用水炉をつかった小規模分散型の小水力発電所も長井市につくりました。そしてそれに続いて今回立ち上げたのが、この飯豊町の「ながやめまバイオガス発電所」です。

自然豊かなこの飯豊町は、米沢牛を肥育する主要生産地のひとつ。畜産業の盛んな地域です。しかしそれゆえに、牛の排泄物による臭気の問題、土や川の汚染の問題などによって畜産業者と地域住民のあいだに以前から対立が生まれ、深い溝ができていました。その意味では、わたしたちのバイオガス発電所は単に再生可能エネルギーをつくる施設であるというだけでなく、この地域課題の解決を担うソリューションでもあります。

仕組みはこうです。隣接する牛舎は、このバイオガス発電のために建てたもので、牛の排泄物を自動的に集めて、地下パイプラインを通って溜め込むようなシステムになっています。それを主原料とし、副原料となる果物くずや菓子くずなどを加えて発酵させ、バイオガスを発生させます。そのバイオガスは、カーボンニュートラルなエネルギーです。6割がメタン、4割が二酸化炭素です。メタンガスはパイプでガスエンジン発電機に送られ、電気を発生させるのです。発酵残渣物は、液体と個体に分けられますが、液体は液肥として牧草や農作物の栽培に、固体の方は牛舎の敷料などとして再利用されていきます。

再生可能エネルギーに取組む!/ながめやまバイオガス発電所・後藤博信さん(前編)
バイオガス発電所に隣接する牛舎。米沢牛として出荷される牛たちが肥育されている。一頭ずつ互いにお尻を向けるように並んでいるのが特徴的。その間の通路に排泄された糞尿は自動的にパイプラインに運び込まれる仕組みになっている。

外気との接触がほとんどない仕組みとなっているため、周辺環境に対して臭気の影響を及ぼすことがありません。畜産農家にとっては、牛の排泄物を処理するための手間や労力がかなり軽減されますし、排泄物処理のためにかかっていたコストも大幅に削減されます。畜産業を継いでいこうという若い世代の農家のモチベーションも向上しました。

この仕組みをわたしたちは、北海道・帯広にある乳牛の畜産現場を視察して学びました。肉牛でのバイオガス発電のこの試みは、わたしたちが日本ではじめてでしょう。乳牛と肉牛とでは牛の育て方が違いますし、この牛舎でやっているような肉牛の肥育の事例はどこにもありませんでした。ですから、畜産農家のみなさんにとってはかなりチャレンジングな取り組みでした。「果たしてこの環境で、米沢牛として健康に育つのだろうか」とかなり心配されたようです。しかし発電所の稼働以来、いまのところ牛たちはすこぶる健康で、むしろよい影響の方があるくらいのようです。

再生可能エネルギーに取組む!/ながめやまバイオガス発電所・後藤博信さん(前編)

=== 再エネをつくりだしただけでなく、畜産農家の方たちにとっても思わぬいい影響が生まれている、と。

後藤:そうです。地域住民と対立してしまっては、持続可能な農業はなりたちません。農家のみなさんにとっても、近所の人たちから白い目で見られたり、臭いねと不満を言われたりするというのは、暮らしていくうえで耐えられないことでしょう。ですから、環境をベースに、社会的にきちんと認知される畜産業へとシフトすることが大切なのです。今回の取り組みによってそれが実現できたと思います。

ここの牛舎は、発電の仕組みをつくるために新たに建てられました。いま、8棟に1000頭の牛が肥育されています。「ここで一緒に新しい畜産をやろう」というプランに賛同してくれた農家さんがやってくれていますが、彼らにとってもこれはかなり大きな投資でした。実際「バクチだった」という言葉も聞きました。けれど、このチャレンジがこれからの新しい畜産業につながっていくわけですし、いまではこの牛舎を全国の畜産業者の方たちが見にきて、「こんな飼い方ができるのか」「はじめて見た」ととても驚かれていきます。

バイオマス発電所から
地域の循環が生まれる

後藤:このバイオマス発電所と畜産農家は表裏一体の関係であり、いわば共同体です。牛舎から出た排泄物を原料としてエネルギーがつくりだされ、FIT売電によって収益を得ます。残渣物もでますが、それらは廃棄されることなく、固体残渣は牛の寝床の敷料として牛舎で再利用されますし、液体残渣は液肥となって近隣の田畑に利用されます。これは安全な有機肥料ですから、このあたりで営まれる農業が、化成肥料による従来型の農業から、より安全安心な有機農業へと転換していく可能性も広がっていきます。

そうしてできた有機農産物をこのあたりの特産物としてしてくこともできるかもしれませんし、有機野菜のレストランをつくるのもいいでしょう。そうしたアグリパークの構想へ、アイデアやイメージがどんどん広がっています。地域住民が参加するようになり、さらに多くの住民を巻き込みながら、いろんな発想が広がりはじめているのです。こうしてアイデアはますます活性化し、そしてそれが地域経済となっていくのです。

わたしはこのバイオマス発電所をつくる際、この発電所でやろうとしている構想をこのあたりの住人の方たちに説明してまわりました。多くの方々から「それはいいね、おもしろいね、わくわくすね」という言葉をいただきました。このバイオガス発電所は、畜産農家の方や地域住民の方たちなど、周りのひとがいてこそのものです。この施設ができてから、地域の小中学生たちも見学にやって来ました。牛の排泄物からエネルギーをつくる。そんな現場を間近に見ることで、「SDGs」や「再生可能エネルギー」というものを単なる言葉としてではなく、身近な現実として感じてもらえたのではないか。そして、それがやがて地域の人的エネルギーに繋がっていくのではないか、と期待しています。

地域資源と言ってもさまざまありますが、じつはいちばん重要な地域資源とは、ひとなのです。地域の担い手が増え、育っていくような循環をもまたつくりだしていきたいですね。

後編につづく

text 那須ミノル
photo 根岸功