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【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー 島田麻也子さん

インタビュー

2022.03.10

関東を離れ霧島へ移住した島田さん。しかし自身のキャリアを活かせる仕事がなく、近くに子どもを預けられる場所も少ないという現実に直面。「ないなら、つくるしかない!」霧島で事業を立ち上げました。

【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー  島田麻也子さん

鹿児島県霧島市にて「放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー」の代表を務める島田麻也子さん。そんな麻也子さんから放課後児童クラブを始めた背景や今後の展望についてお話を伺いました。

すべて手の届く範囲で完結したら

横浜生まれの麻也子さんは学生時代から会社員時代を関東で過ごしてきました。高校時代、周りが進学を決めていく中で「何のために進学するのか?」と自分の中で腑に落ちず、将来の進路に迷いが生じていたそうです。

結局、友達から相談を受けることが多かったことから、大学では心理学を専攻しました。

しかし、在学中は学んでいることが将来の仕事に繋がる自信を持てなかった麻也子さん。

「社会経験もないままカウンセラーとして人の心に寄り添うなんてことが本当にできるのだろうか……」と迷いが生じ、まずは多くの人が経験する就職をし、企業に勤めようと考えました。

そして、心理学とはまったく違う分野である店舗開発や運営を行う企業へ就職し10年間勤務したといいます。

その間に結婚や出産を経て感じたのは、組織の中で女性が働いていくことの難しさ。

子どもたちと一緒に過ごす時間の少なさや子育てをしながら仕事をこなす大変さを痛感していく中で、ある想いが生まれてきました。

「子育ても仕事も手の届く範囲でできたら」

新卒採用から勤め続けた仕事、生活の安定を考え、一生勤めていくものと考えていました。

しかし、いつの日か、仕事と子育てのバランスに葛藤を抱えつつ現状にしがみついて生きていくことに疑問を感じるようになっていきました。

「子育ても仕事もしやすい方法や環境がどこかにあるかもしれない」

そう思い、生まれてからずっと過ごしてきた関東を離れ、霧島へ移住することを決断しました。

【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー  島田麻也子さん
島田麻也子さん(写真中央) 写真提供:パレットカラー

ないなら自分で作る

霧島は自然も豊かで利便性も良く、生活するには困らない環境でした。しかし、思い描いていた理想とは裏腹に自身のキャリアを活かせる仕事がなく、近くに子どもを預けられる場所が少ないという現実が待っていたのです。

「地域の中で子育ても仕事もできる環境がない……」

一時は自分の選択を悔やみ、絶望的な気分にもなりましたが、「ないなら自分で作るしかない」という考えに至りました。 

そして、霧島では、多くの若者が進学や就職のため街から出ていく現状を知り、「地域で育つ子どもたちがここで学び、成長したことを誇りに思え、そして、この街で働きたい・生活したいと思えるような街にしたい。子育て環境・就職先として魅力的な事業を霧島に作りたい」そう決心し、放課後児童健全育成事業の立ち上げのため動き始めます。移住間もなく、未経験からのスタート、すべてが初めてで手探りでした。市役所・銀行、地域、同業種など様々な人に相談したといいます。

【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー  島田麻也子さん
放課後児童クラブ パレットカラー パステル(1号施設) 写真提供:パレットカラー

次第にいろいろな人がサポートしてくれるようになり、無事に「放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー」(以下:パレットカラー)が誕生しました。それが7年前の冬になります。

開所当時は綱渡りのような状況、かつ、数か月間は補助がない状態で、3か月後に取り壊しが決まっている建物でスタート。児童は10名程でした。今も事業所を支えてくれている初期メンバー2名と一緒に試行錯誤の繰り返しだったといいます。

例えば、クリスマスパーティーや理科の実験、英会話など。気がつけば自然と児童もスタッフも増えていき、平成27年に放課後児童クラブ専用施設として「パステル」、令和3年度2号施設となる「ビビット」も誕生しました。

パレットカラーの特色である活動も、ものづくりや体幹・思考トレーニング、英会話、空手道、絵本読み聞かせ、動物触れ合いとバリエーション豊かになりました。

【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー  島田麻也子さん
「動物ふれあい」で河川敷でのお散歩や、お世話をしている様子 写真提供:パレットカラー

パレットカラーはみんなで作り上げる場所

現在コアメンバーとしてパレットカラーを支える園田麻衣さん。

「最初はパレットカラーとしての方針をどうして皆で決めようとするのか不思議でした。民間企業では上に立つ人が決めたことに対して一緒に動いていきますよね」

「そんな島田さんのことをもっと知りたいし、自分の目で確かめたいと思ったんです。それがここで働く決め手でした」

「ここではみんなで話し合ってパレットカラーの世界観を作り上げていく。そして、子どもも大人も自分の思い・願いを実現できる施設を自分たちの力で作っていく、そんな感覚です」

【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー  島田麻也子さん
園田麻衣先生による「体幹トレーニング」 写真提供:パレットカラー

放課後児童クラブの支援員として数年間、地域の子育て支援に関わってきたお二人。そんな二人は幾度となく夜遅くまで語り合い、共通の夢が出来たそうです。

「パレットカラーでは、発達障害のある、なしにかかわらず、児童が生活の中で何か困り事を抱えた際に、きめ細やかな配慮・個に合わせた関わりを通して発達を促し、また、同時に、集団生活への適応について支援していけます。地域の中での様々な子育ての悩みをオールインワンで対処していける子育て支援の仕組みを実現しようと奮闘中です」

“制度の範囲内・業務範囲内”に捉われて出来ないではなく、“子どももたちにとって必要な支援だと思うから”動く。

児童に関わるスタッフや学校・保護者・行政・その他関わるすべての人との間で、その意識や価値観が共有され、同じ方向を向いて前進していかないと、子どもたち一人一人に対して一貫した支援を行き渡らせる仕組みの実現は難しいといいます。

【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー  島田麻也子さん
島田麻也子さん(左)と園田麻衣さん

1+1=2ではない感覚

パレットカラーではどんな育成支援を目指しているのでしょうか。集団の一人としての子どもたち、一人ひとりの個としての子どもたち、どちらの満足も高まるように支援します。特に、成長段階にある子どもたちへ“ルールだから”“やるべきことだから””善か悪か”といったスケールだけで接するべきではありません。

1+1=2、ではなく、子どもたちそれぞれの目線、置かれている状況・環境を多面的に理解した上で、その子の今あるレベルやペースを見極め、気づきを促し適切な行動やステップアップへと導く必要があると麻也子さんは話します。

集団・個への対応についてのバランス感覚、そして先生たち同士の連携が求められます。

「大人になるとつい自分の中で、子どものあるべき姿像を作り出してしまいがちです。今まで積み上げてきた価値観を崩すのは難しいです」

「でも、その価値観を崩し、何度も新しく作り上げていくことで初めて子どもたちと心が通じた対話ができ、子どもたちの願いに寄り添う支援が出来ます」

【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー  島田麻也子さん
「長期休暇イベント」夏キャンプでの思い出 写真提供:パレットカラー

児童の特性もさまざま。時には問題やトラブルが生じることも。そんな時、先生たちに出来事の背景や支援の方法・目的等をきちんと理解してもらって児童の一人一人の成長を目指した一貫した行動を実践してもらっているといいます。

子どもたちの間に起きた一見ネガティブな出来事も、大人の支援が入ることにより、子どもたちの成長に資することができる、大変やりがいのあるお仕事です。

短時間労働が一般的な放課後児童クラブですが、パレットカラーではどこよりも早く、放課後児童支援員の正社員化を実現し、地域の子育て支援を担う人材育成・職業の確立に努めています。

放課後児童クラブは学校でもない、家でもない、子どもたちがありのままの姿でいられる居場所です。そこでは家や学校では見せることのない、子どもたちの姿が見えるそうです。

また、子どもたちの中には、集団での活動を十分楽しめるタイプとこぢんまりとした付き合いの中で力が発揮できるタイプと分かれるといいます。

子どもたちそれぞれの個性が生かされ、一人一人の願いを叶えることができる環境を作りたいと考え、令和4年度の春に3号施設となる『ルミナス』をオープンさせる予定です。

「私たち大人だって間違えることだってあります。その時は素直に子どもたちに謝ったり、失敗を隠したりごまかしたりしません」

「私たちは時にはカウンセラーのように子どもたちに寄り添ったり、時には教師のように導く存在になったり、時には母のように心から思いを伝えたり、時には一緒に悲しみや楽しみを分かち合える親友になったり、子どもたちが成長の段階で必要とする大人の存在・役割をしっかり担えるように、そして、将来新しい時代を作っていく子どもたちと一緒に成長できるように接していきたいです」

【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー  島田麻也子さん
ジェイク先生による「英会話教室」 子どもや大人という枠に縛られず、目の前にいる人と人とが向き合い続けること。 写真提供:パレットカラー

それはとても身体面でも精神面でもエネルギーを使うことだと思います。

でも、麻也子さんのお話や子どもたちと向き合う姿からは、そんなことも微塵も感じさせません。

子どもたちや大人たちにとっての思いが受け取られ、願いが実現されていく、放課後の世界の広がりを強く感じました。

【鹿児島県霧島市】1+1=2ではない子どもの世界の広がりを/放課後児童クラブ コミュニティースペース パレットカラー  島田麻也子さん

屋号
特定非営利活動法人パレット&キャンバス  放課後児童クラブ コミュニティスペース パレットカラー
URL

https://www.instagram.com/communityspace_palettecolor/

住所
鹿児島県霧島市隼人町住吉町295-1