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福井のみなみの季節と養生#10 雨水・啓蟄「若狭町熊川宿の熊川葛」

連載

2022.03.14

福井のみなみの季節と養生は、福井の南に位置する敦賀でユニットを活動する養生デザインのお二人(青木さん、山中さん)と、reallocal福井ライター牛久保で、季節ごとの養生についておはなししていく連載です。
※養生…身体の状態を整えること

立春を過ぎて、雨水・啓蟄と迎えました。この時期は雪が雨に変わり、草木が芽吹き始め、冬眠していた生き物たちも外に出てきます。長く感じられた福井の冬もようやく春の気配。私たちの住む嶺南地方も今年はたくさん雪が降りましたが、寒さの中にも明るさも出てきて春の訪れを感じています。
この時期は身体も同じと考えて過ごすと良いです。少しずつ早寝早起きをして、季節の変化に身体を慣れさせていく。「春だから!」と急に意気込んで頑張りすぎることなく、少しずつぼちぼちと。身体も心も春に向けての準備をはじめましょう。
福井のみなみの季節と養生#10 雨水・啓蟄「若狭町熊川宿の熊川葛」

足をもんで触ってポカポカに

春の暖かさを感じる日が増えてきていますが、まだまだ足元も冷えます。
足は心臓から1番遠くにあり、冷気がこもる床に近いところにありますよね。そんな足を温めると、戻ってくる血流も冷めにくくなり冷えの予防にもつながります。特にお勧めしたいのは足湯ですが、意外とタイミングが難しかったりめんどくさかったり。

それならば、足湯でなくても足を触ったりもんだり両手で包んだりと、足を触ってみることで血流を良くしていくことから始めてみましょう。

ポイントは次の3つ。
 
 ❶指の間を一本ずつなぞる
 ❷手のひらで包んで温かさを感じるむ
 ❸丁寧に曲げ伸ばしをする

触れると手の温度が伝わるだけでなく、脳からも「足への血流も良くしよう!」と指令がいきやすくなります。食後30分ほどは避けて、少しお腹が落ち着いてからはじめましょう。他にも、スマホを見ている時の広告タイムなど少しの合間時間に足を触れてあげて。ハンドクリームなどで、乾燥している部分をケアするのもお勧めです。

暑い時期には裸足になることもあり、指の形を目で見たりサンダルなどで足指に直接触れることも多いですが、寒い時期は足の指のことを忘れがちです。靴下などの上からで良いので触れることからぜひはじめてみましょう。

じんわり足先がほっこりポカポカすると同時に、朝であれば一日スタートのスイッチが入ります。また、夜にゆったりとした気持ちでさすると、身体が緩んで眠る前のリラックスになりますよ。

寒さ厳しい冬の間が生産のピーク。清らかな水の贈り物、葛を求めて熊川宿へ

今回の取材先は葛粉の生産地。寒さが厳しい冬の間が収穫と生産の時期となる葛の故郷を訪ねました。向かった先は、今年は例年よりも雪深かった若狭町の南端に位置する熊川。ここで熊川葛(くまがわくず)を生産している熊川葛振興会の西野徳三さんにお話しをお聞きしました。

福井のみなみの季節と養生#10 雨水・啓蟄「若狭町熊川宿の熊川葛」
会長の西野さん。とっても穏やかで力強い方。葛粉を大切に思う気持ちがお聞きする言葉からも伝わってきます。

江戸時代から変わらぬ製法で

ここ熊川は、御食国(みけつくに)と呼ばれる若狭と京都をつなぐ若狭街道の宿場町でした。

福井のみなみの季節と養生#10 雨水・啓蟄「若狭町熊川宿の熊川葛」
熊川の風景の一部。この豊かな自然から貴い葛粉が生まれます。

江戸時代の記録から、古くから熊川では葛粉を生産し京の都へ送っていたことが伺えます。厳しい寒さの中で、美しく豊かな水を用いて精製された上質な葛粉は京都でも評判が高かったとのこと。現在熊川葛を生産するのは熊川葛復興会のみですが、江戸時代から続く製法を受け継ぎ、今でも純粋に地元で取れた葛だけを使って高い品質の葛粉をつくっています。

工場を見せてもらいました。どの工程も機械を使うとはいえ、全て手作業が入り、それはそれは丁寧に作られていることにとても感動を覚えました。

1年に収穫される葛粉の元となる葛根の量は2トン半近く。収穫は本格的に寒くなり始める11月から、雪が積もるまでの短い間です。この時期に集中して収穫するのは、秋後半から根に栄養分が入るから。また、この季節を越えて春になってしまうと成長に栄養が取られてしまうため、冬の厳しい寒さの中、重労働である葛根の収穫が行われます。

福井のみなみの季節と養生#10 雨水・啓蟄「若狭町熊川宿の熊川葛」
葛粉の元になるとても立派な葛の根。間近で見ると迫力に感動します。

作業の工程も伺いました。純度高い葛粉ができるまでには、葛の根を機械で潰したものをタライに入れてふみ、絞り出す。この絞り出した葛を綺麗な谷水で晒して漉すという作業を24〜5回繰り返すそう。100kgの葛根がこの作業を経て3~5kgほどになるとのことでした。

この製法は江戸時代から続くもので、変わったことは足袋が長靴になったくらい、と笑ってお話しされていました。どの工程も水温を冷たいまま保てる冬の間でないと腐ってしまうため、収穫してからがまさに本番。寒さの厳しい中で作業は続きます。

福井のみなみの季節と養生#10 雨水・啓蟄「若狭町熊川宿の熊川葛」

福井のみなみの季節と養生#10 雨水・啓蟄「若狭町熊川宿の熊川葛」
丁寧に漉されて乾燥し完成した葛粉は真っ白でなめらかなくちどけです。

貴重な熊川葛は小浜市内の和菓子屋さんで味わって

お話を聞いていて納得したのは、美味しい葛粉は水の良いエリアではないと作れないということ。主に葛は海山・田烏地区を中心とした海際の地域で掘られていますが、それを熊川に運んでここの綺麗な水で晒すことで貴重な熊川葛へとつながっているのです。

この葛の一部はお隣小浜市の和菓子屋さんで、若狭名物葛まんじゅうの原料として使われています。量産ができないため、現在市場には熊川葛復興会の葛は流通しておりません。良質な水でできた熊川葛を味わいたい方はぜひ小浜の和菓子屋さんを訪ねてみてください。

熊川葛復興会の会長西野さんは御年76歳。様々な地域産業と同じく後継者の問題を抱えていますが、近年熊川葛が生産される熊川宿では、若い世代が入り、宿場町の古民家を宿にしたり、オンラインストアでこの地域の自然のめぐみを提供する新しい動きが出てきています。https://yao-kumagawa.com/ 

福井のみなみの季節と養生#10 雨水・啓蟄「若狭町熊川宿の熊川葛」
八百熊川を運営する関係者のお一人、(株)デキタ代表の時岡壮太さん。熊川を盛り上げる動きと熱い思いを語ってくださいました。

暮らし方や働き方、関わり方の可能性がひろがりつつあるエリアです。熊川葛や、熊川宿に興味のある方はぜひアクセスしてみてください。

花冷えや季節の変わり目には温かく、夏には冷やして楽しんでほしい葛

漢方薬の中でもメジャーなお薬、葛根湯(かっこんとう)に使われる生薬として馴染みのある葛根。今回紹介した葛は生薬ではないのですが、胃腸に優しい食材です。
この時期、風邪を引いた時や、とても疲れた時など少し弱った身体には葛粉を温かいお湯でといて、黒砂糖と生姜のすりおろした汁を少し足して食べるのがおすすめです。汗をかいていないくらいの熱っぽい身体を冷ますのを助けてくれたり、口の渇きを補ってくれますよ。

嶺南では、井戸水で晒されて良い具合に冷えた葛まんじゅうが夏の風物詩でもあるのですが、ほてった身体を落ち着かせてくれるのも納得です。
季節に応じてそれぞれの楽しみ方で美味しく食してみてください。