real local その他福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん

インタビュー
2025.09.16

2024年11月、福井駅前に新しくできたワークラウンジPLAYCE」。

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん

朝から夕方までの日中はコーヒーの香りが漂うカフェとコワーキングスペース、夜にはさまざまなイベントが開催されるこの場所は、一般社団法人PLAY CITYによって運営されています。(新体制になったreal local福井も、ここにジョイン。詳しくはこちらの記事をご参照ください)

私たちreal local福井は、ここにゲストを呼び、トークイベントと取材を兼ねた「公開取材」企画をスタートしました。第一弾のゲストは、(一社)PLAY CITYの代表理事である高野翔さん。

福井のまちに新しく誕生した「PLAYCE」とは、一体どんなところなのか?

今回は福井のまちづくりを語る上で欠かせない重要人物、高野さんのこれまでを伺いながら、PLAYCEに込めた想いについて深掘ります。

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん

高野翔(たかの・しょう)

福井県立大学地域経済研究所 准教授 / 一般社団法人PLAY CITY 代表理事 / ウェルビーイング学会 理事
83年生まれ、福井出身。ウェルビーイングを深める「居場所と舞台」に注目した研究・まちづくり活動を行う。2014-17年には、ブータン王国にて、Gross National Happiness(GNH)を軸とした国づくりに協力。地元福井では、人の魅力を紹介する観光ガイドブック「Community Travel Guide 福井人」の作成、豪雪によってできなくなった事業を市民一人ひとりのできることで復活させる「できるフェス」を開催し、共にグッドデザイン賞を受賞。まちの拠点”PLAYCE”を運営する一般社団法人PLAY CITY の代表理事を務める。

「あなたは自分の国で何をしているの?」海外で気づいた自分の足元

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん
聞き手の髙橋(左)と川上(右)

 世界に飛び出して活躍するスポーツ選手への幼少期の憧れからか、グローバルな働き方を志した高野さんは、2009年に新卒でJICA(国際協力機構)へ入社。ラオスや東ティモール、ブータンなど、さまざまな地域を訪れました。現在は福井を拠点に活動されている高野さんが、地元へ意識を向けるきっかけは何だったのでしょうか。

一度途上国で意識を失って倒れてしまったことがあって。その時に現地の食べ物を身体が全く受けつけなくなったんです。当たり前なんですけど、自分が生まれ育った場所がここではないということを、その時初めて強く意識しました。いつか生まれた土地に帰ってやれることをやりたいなって

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん

 海外での経験をきっかけに、自分が生まれた場所である日本に意識が向き始めた高野さん。同時に、JICAの職員として都市計画や社会基盤づくりの仕事に関わる中で、抱えていた葛藤もありました。

「若いとき、途上国へ出張に行く数週間前から、その国の情報や歴史的背景などを一気に頭に叩き込んで、現地でまちの在り方や都市計画の形を議論・提案してくるのですが、正直これで貢献できているのだろうかと。自分は住んでもいないのに出張で滞在できるたった1週間ほどで現地の状況を理解するなんて当然ながら十分にはできませんので。それでも必死に自分なりに学んだり考えたり、貢献できることを探しながら仕事をしていくのですが、やっぱり本当に大事な時に自分の言葉に重みがないというのは強烈に感じました。20代のペーペーの自分と国を背負う意思決定の責任がある現地の方。『じゃあ、あなたは自分の国や町で何をしているんだ?』ってなんだか言われたような気がしたんです

 異国の地で都市計画やまちづくりに関われば関わるほど、自分の場所で何をしているのか?と自身に跳ね返ってくる。「誰かをちょっとでも笑顔にしたい、そのまちを楽しくしたいって考えた時に、やっぱり自分の現場が欲しいなと。その時浮かぶ場所が、自分には福井以外なかったですね」高野さんは、自分が生まれた福井のことを考え始めるようになりました。

東京で小さく始めた福井のまちづくり

 「生まれた場所に自分の役割がある」と思った高野さんは、東京でJICAの仕事をしながら、福井に関わる活動を小さく始めました。

まず東京で福井にゆかりのある人たちと飲み始めました。週末福井に帰ったりもして。国内に面白いまちづくりの事例があることは知っていたので、それを書くことならできる!と思って、ウララ*さんにボランティアで1年くらいまちづくりに関することを書かせてもらえませんかって話をしに行かせてもらいました。チャンスをもらえて、興味あるところへ取材に行って、いろんな国内の事例を紹介していくことにありがたいことになったんですけど、結局まちとか都市計画という単位よりも、この人の動きが面白い、この人の熱意が物事を変えているという記事が結果的に多くなって。人に焦点をあてるのが面白いんじゃないかって思うようになりました」

*ウララ:イベント、グルメ、観光スポットなど幅広く福井の魅力を伝える株式会社ウララコミュニケーションズ。雑誌『月刊 URALA STYLE』などがある。

 さらに2013年、福井で生きる魅力的な人々を100名以上を紹介する『福井人』を作成・発行。「これをきっかけに福井が変わり始めた」と語る人もいるほど、福井のローカルムーブメントの分岐点になった一冊。発行から10年以上経った今も存在感を放ち、色褪せません。そして東京にいながら福井のまちづくりを少しずつ始めた高野さんには、福井に帰りたい気持ちもありました。

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん

帰ってこようと思ったのは、何か一緒にやりたいとおもう人の顔が福井にはたくさん浮かんでくれたので。福井以外考えづらかったですね。20人、30人と想像できる場所は自分には他になかったです」

 福井の大学教員の仕事に就いた2020年、高野さんは福井にUターンしました。

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん
2018年豪雪によってできなくなった事業を市民一人ひとりのできることで復活させる「できるフェス」

PLAYCEの由来。自分自身と福井のまちに願うこと

 高野さんは現在自身のさまざまな活動を貫く理念として「居場所と舞台」というキーワードを掲げています。
 JICAで働く中で、人はどうやってより良く生きられるのか?人の幸せは地域においてどのように支えられるのか?という問いが湧き出たことがきっかけだったと言う高野さん。国際協力の場で「小さな巨人」と呼ばれた緒方貞子さんの人間観を受け、「尊厳をケアする居場所、可能性をエンパワーメントする舞台を小さい範囲でも大事にしたい」と語ります。居場所と舞台の視点からPLAYCEについて、高野さんが考えていることを伺いました。

ここが居場所と舞台になってくれたらいいなと思っています。PLAYCEで、少しでも人の尊厳と可能性に寄り添うことができたり、地域のウェルビーイングに少しでもよいことがあればいいなと。今の日本社会では、ほっとできる居場所と活動が生まれる舞台って、分かれていることが多いので、一緒の所に居合わせられないかなと思っています。それができると、これまで活動していなかった方も、ここにふらっとコーヒー飲みに来た時に『何かできるかも』って思えるかもしれないですし。居場所と舞台の2つの顔を持てると、福井の真ん中として、いろんな人が集まり、会話が生まれ、なにかが生まれる可能性が拡がるかなと思っています」

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん

 高野さんは「playの態度をこのまちに増やしたい」と、PLAYCEの名前に込めた願いについて語ってくれました。

まずもって、自分の人生にplayという動詞を増やしたいですね。playの後に来るのは、sportsとかguitarとか、楽しくて人生を豊かにするものが多いですよね。それが、自分自身もまちも欠けているとつまらないなと。私は自分自身と福井のまちの捉え方が相似形なんですが、福井のまちが持つべき態度・動詞として足りないのもplayなんじゃないかなと。私もそうだし、まちも、多くのみなさんもplay/楽しむを増やすことが、ウェルビーイングな生活においても、まちを変える上でも、1番の原動力になってくれるのではないかと

 一方で、団体の名前であるPLAY CITYについては「メンバーの顔を見ていたらこれがいいかなと思った」と微笑む高野さん。

「集まったここのメンバーは、playfulなメンバーが多くて。まちづくりのアプローチとして、playfulで、playな視点を持っている人たちと組めるんだったらPLAY CITYと言えるんじゃないかと思いました。こんなにplayfulな人たちとやれることは、多分一生で一度だと思ったので、せっかくなら新しいことをしたいなと。私たちは『まちをたのしむ(play city)を生活文化に』と掲げているので、新しい文化を生み出す時に、playという動詞が非常に原初的な力を持っている気がしました。そこに賭けたいなと

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん
(一社)PLAY CITYのメンバー

 人生への根底的な態度としてのplayを、自分も、福井のまちも、みんなも増やしていくー。遊ぶ・楽しむという原初的な力に、新たな文化創出を賭けている想いを語ってくれました。そして、場所論としての重要な意味合いも、PLAYCEに込められています。

「PLAYCEは、新山くん((PLAY CITYの副代表理事/TSUGI代表)がつくってくれた言葉です。学問としての場所論で、space(スペース)からplace(プレイス)へというキーワードがあるんですね。spaceという”ただ単なる物理的な空間”を、そこに人や経験を介しながら、placeという”愛着ある場所”へと変化させることを意味します。ここへみんなに来てもらって、遊ぶことや楽しむこと(play)を通じて、この空間をただのspaceから愛着あるplaceに変えることを着想してくれたんじゃないかなと思って(play +place→PLAYCE)、すごく良いなと思っています」

ほっとできる場所であり、何かが生まれる場所。PLAYCEは「まちのリビング」

 PLAYCEには、もうひとつの願いが込められています。それは「まちのリビング」でありたいという思いです。最後にPLAY CITYが掲げている「まちのリビング」にまつわる想いについて伺いました。

いろんな人と一緒にこの場所をつくっていく中で、どういう場所になったらいいかな?って話をしました。その時に浮かんできたメタファーが”まちのリビング”です。家のリビングを想像してみると、ほっとできる場所だったり、会話が自然と生まれる場所だったり。居場所性の意味でのリビングでありたいということ。あと、何かを生み出すことに関して、リビングラボという言葉があって、生活環境の延長で日常の課題からプロジェクトを生み出す場所という意味です。ほっとできる場としてのリビングだけでなく、何かが生まれる発露としてのリビングであることも、この場所にとって重要なことだと思っています。みんなで”まちのリビング”としていろいろと活用することができれば、新しい会話やプロジェクトも生まれてくるんじゃないかって」

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん

 ほっとできる場所であり、何かが生まれる場所でもありたい。高野さんは「まちのリビング」がみんなの共通言語だけでなく、共通体験になってくれたらいいと語ります。

「夜は、みなさんがいろんな形で使ってくれています。例えば、文化芸術をやられている方々が、ここで月一回、福井の文化芸術に触れ合える企画を作ってくれています。他にも、モルックやヨガの体験型のイベント、観光に関する集まりや多文化共生の相談会などなど。また、ここでのつながりをきっかけに、新しく劇団も生まれてくれて。様々なアートパフォーマンスを見ることができます。こういうリビング経験を積み重ねていけたらいいなと思っています。多様な分野のいろんな方が集まってくれてはじめて、新しいことって生まれてくれるとおもいますので。ここが、まちのリビングとして機能してくれると、人が出会いやすく、言葉がひきだされ、何かが生まれやすい。結果として、未来につながるたのしい会話や新しいプロジェクトが生まれてくれたら嬉しいです

 福井駅前というまちなかで、さまざまな人が行き交い、「リビングとしての経験」を積み重ねることで場が「まちのリビング」になっていくー。理念だけでなく、実際にそうした動きが既に生まれていることに、感激を受けます。

 モーニングから日が暮れるまでは、ふらっとコーヒーを飲みに。夜は、定期的に行われている多彩なイベントへ、ぜひ足を運んでみてください。そしてあなたも「まちのリビング」をつくるひとりになりませんか。

 


PLAYCEは、PLAYCEという拠点を活用して一緒に福井のまちを楽しくしていく仲間を「メンバーシップ」として募集しています。月2回のコワーキングスペース利用ができるライトプランと、使いたい放題のフルプランがございます。詳しくは、こちらをご参照ください。

福井駅前「PLAYCE」に込められた想いー「まちのリビング」をみんなの共通体験に 高野翔さん

 

名称

playce

URL

https://playcity.or.jp/playce#about

住所

福井県福井市中央一丁目3-5 FUKUMACHI BLOCK 1階

TEL

050-8880-7226

営業時間

CAFE・WORK LOUNGE:月-土 10:00-18:00/日曜定休
RENTAL SPACE:月-土 18:00-22:00/日 10:00-22:00 

アクセス

福井駅から徒歩3分

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