real local 大阪数字で表せない世界のこと|田中製材所・田中由虎さん | reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

数字で表せない世界のこと|田中製材所・田中由虎さん

インタビュー
2026.05.12

明治26年から続く、羽曳野市の「田中製材所」。5代目・田中由虎さんは、大阪と奈良の県境付近に位置する太子町でシェア工房「TALIMALL タリモール」を運営しています。「今こんなことを考えていて…」と次々に面白いお話を聞くことができました。

太子町に製材所をもつ意味

吉野の木は「密植(みっしょく)」という育て方をするといいます。苗をギュッと密に植えることで、木は上へ上へと競い合いながら成長し、年輪が細かく詰まった強い木になります。どちらが良い悪いではありませんが、暖かい地域でのびのびと育つ年輪の間隔が広い木に対し、吉野の杉は建材として重宝されてきたそうです。

数字で表せない世界のこと|田中製材所・田中由虎さん
製材機。木を切り出す様子はなかなかの迫力です。

「この場所(TALIMALL)は祖父の代から繋がりのあった製材所さんから借りています。
実は前いたところの火事で製材機を失って、しばらく仕入れたものを加工するスタイルでやっていたんやけど、彼女がいなくなって初めて大切さに気づく、みたいな話で(笑)。より流通の上流に行きたい、という感覚もあって、製材機のある場所を借りることにしました。
木工家具職人の知り合いがちょうど場所を探していたから一緒に借りて、その知り合い、そのまた知り合い、といった形で今は四人ほど区画を借りてくれてる。ここは車があればすぐに都市に出られる、都市と山をつなぐ中間領域でもあります。」

数字で表せない世界のこと|田中製材所・田中由虎さん
シェア工房の借り手が各々に作業をしていました。

木材の流通

”流通の上流”とはどういう意味でしょうか。
木材が山から消費者の手元に届くまでには、多くのプレイヤーが介在します。

山主 土地の所有者。多くは都市在住
林業会社・森林組合 育林・伐採
原木市場 丸太を競り落とす
製材所 板・角材に加工
製品市場・仲買組合 製品を流通
工務店・消費者

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「末端価格は原料の何倍にもなるけど、各工程に職人さんの技術と手間賃がある。
逆に言うと、まともに値段をつけようと思ったら誰も買えないからこそ、関係性で値段を決めることも。」

由虎さんは、値段をつけずに”顔で売る”、「闘市」を主催しています。

「こういう値段でこれを売ったから、次何かあったときはこういう値段でこれを買う。
昔は誰が切って、誰が建てて、住んでいる人は誰か、と地域でなんとなく繋がっていたものが、だんだん分断されていった。ただ、その中でも大阪という場所は、もっと昔からあった地方自治や商人文化が根強く、時代の権力者とは別の軸を持っていたから、そういう影響を受けにくい部分もあったんじゃないかな。」

「闘市」は、商人文化・自治文化の根強い大阪にフィットするスタイルなのかもしれません。

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誰が悪いのでもない、構造の問題

農家と農地の所有者がだいたいイコールなのと違って、山に実際に入る人と山主はイコールではありません。明治の地租改正によって、それまでは「入会地(いりあいち)」=みんなのものという側面が強かった山に、所有権が発生しました。山が分断され、山の上の方に所有権を持った人は他の人の土地をまたぐ必要があって管理の手を入れにくい、などの不具合も出てきたと言います。

「山主さんがしっかり管理している場合もあるけど、大体は都会に住んでいて、林業会社や森林組合に任せっきりになっていることが多い。では組合は何に沿って管理するかと言うと、補助金がもらえる方に向かう。例えば、道路を舗装するために間伐を指定された場所の木を、細かろうが太かろうが切る。

拡大造林も同じことだと思っていて。植えたら国から補助金が出るから、いっぱい植えた。ちょうど都市に人が流れる時代で、使わなくなった棚田に植えるとか、川のヘリにまで植えるとか。だから今それを整えないといけない。

杉ばかりじゃなくいろんな木を植えたいと思ってても、泣く泣く杉を選ぶっていうところも多いんやと思う。杉やヒノキはまっすぐ伸びるから、成長も早い。と言っても50〜60年かかるけど、木を育てるって子供を育てるよりもっと長くて、その間は収入がない。
教育に一番コストがかかる人材と同じで、何十年かかる木材への投資を誰がするのか。それが問われてる。」

関わる人それぞれの思い、時代の流れ、都市と山の時間軸の違い。問題が複合的で、複雑な話になってきました…。

「自分が最近感じるのは、林業の視点で社会構造を話して、じゃあどう考えますか、という対話ができたらいいのかなと。それが建築にも繋がるし、森の話にも繋がる。」

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身体知-「書面に載ってへんものはないもの」?

時代が変化するにつれて一次産業の就業人口は減ってきました。私含め、都市に住む多くの人たちにとって一次産業の世界は遠く分かりにくい存在とも言えるのではないでしょうか。

「なぜ分かりにくいかと言うと、木の目の見方とか、育て方とか、枯れそうやなっていう感覚とかは、説明しがたい、なんとなくの世界だからかもしれない。自転車の乗り方をなかなか言葉では説明しにくいみたいに、「身体知」と言って、体で得た知識。それが今、都市部のルールでは「書面に載ってへんものはないもの」扱いになってしまっている。」

AIが台頭してきた今、翻って「身体知」こそが人間の最後の砦になるのかもしれません。

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「始末」を良くする

「最近レンタルやリースというあり方について考えています。

例えばイベントで使ったものは主催者側で処分するのが通例だけど、まだ使えるものはまたこっちで引き取る。

生産・供給する側が、終わりまで責任を持たないといけないなと。

「始末」って日本語があるけど、まさに「始まり」と「終わり」を指していて、始まりから終わりまで全プロセスに責任を持つということ。サステナブルとかSDGsとかも良いけど、日本には元々そういう言葉がもともとある。環境を意識するなんて大それたことでなく、ちゃんと始末しろよっていう話で完結するような気がして。」

これは、建築基準法が変わったことで廃棄コストを次世代に先送りにする施工が選ばれやすくなっている、という話ともつながります。

4号特例の対象が縮小し、今までは確認申請が必要なかった木造2階建ての家屋も、大規模な修繕・模様替えをしようとすると確認が必要になりました。しかし、現実的には完了検査を受けてない建物が多く、大規模な修繕・模様替えに該当しないように、既存の床版の上に貼ってしまえばいい、という施工が選ばれるようになっていて、始末が悪い施工方法になっているという噂。厳しく制限しようとしたら、もっと悪い方向に流れができてしまったという皮肉な現状です。

「建築基準法はどんどん厳しくなっているけど、それは、増えすぎた住宅ストックに対してのけじめ。戦後、住戸が足りなかったから、住宅ローンをつけたり、行政も絡んで、実際には1970年頃には世帯数よりも住宅ストック数の方が増えていたのに、作り続ける産業構造が出来上がってしまった。

本来、家っていうのは誰もが買えるものじゃない。知識もないとちゃんと楽しめない。お金を出したらペットが飼えるわけじゃないのと一緒で、ちゃんとした知識がないと家を持ったらあかん、というか、持っても楽しめない気はする。」

あるものをどう使うか。「仲買組合アカデミー」

今後の展望として、仲買組合で「アカデミー」を構想していると言います。

「今のプロダクトのあり方って、料理に例えたら、オムライスを作りたいってところからスタートして、卵を調達して、ご飯を調達して、という形なのかなと。でも、暮らしをベースに考えたら、冷蔵庫にあるものを組み合わせて料理する方が自然だと思う。それをするには技術と知恵が必要。材木も一緒で、杉はこういう風にしか使えませんじゃなく、こういう使い方をしたらかっこよくなる、という発想で、改めて学ぶ場を仲買組合でアカデミー的に設けたいと考えています。」

数字で表せない世界のこと|田中製材所・田中由虎さん

 


書面や数字では表せない、AとB、1と2の間の中間領域があると知ること。
消費者は生産者の視点を持ち、生産者は消費者の視点を持つこと。
身近な建材がどこからやってきて、今の役目を終えた時にどこへいくのかを考えること。
 
”何から解決を図っていけばいいのか、今、誰も答えを持っていないというのが、今の答え”と話す由虎さんの言葉通り、一筋縄ではいかない複合的な問題だからこそ、知ったり、考えたり、少しの気付きが大切なのだと思います。
 

数字で表せない世界のこと|田中製材所・田中由虎さん

屋号

田中製材所/TALIMALL

URL

https://tanakayoshi.co.jp/news/talimall-wood-creative-hub-taishi-osaka.html

住所

大阪府南河内郡太子町  

アクセス : 上ノ太子駅からバスで20分(山田停留所下車)