【愛知県豊川市】SNS発信して、時に店頭でチヂミを焼く。豊川の農業をデザインする佐藤光さんの挑戦
【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】
JAひまわりの佐藤光さんは、大葉の魅力をSNSで毎日発信し、「大葉を365日食べる人」としてテレビに取り上げられるほどの注目を集めています。その一方で、自らスーパーの店頭に立ち、チヂミを焼いて消費者に大葉を届ける地場での活動も続けています。
その地道な姿が農家の方々を「仲間」として巻き込み、産地に新たな活力を生み出しました。さらに、加工品開発や農福連携、海外輸出など、産業全体を一つの「ハッピーなチーム」として捉え、豊川の農業をリデザインする佐藤さんの挑戦を追いました。

画面の向こうのバズと、目の前の畑
新卒でJAに入社後、約7年間は金融・共済部門で働いていた佐藤さん。29歳の時に農業部門へ異動し、大葉の担当となりました。
金融時代は「誰のために、何の仕事をしているか分からなかった」と振り返ります。自分の成績やノルマのために商品を販売している感覚が拭えず、どこか腹落ちしない日々を過ごしていました。しかし、農業部門に異動したことで視界は一気にクリアになります。「農家さんのために全力で売る」という、シンプルで明確な目標ができたからです。
とはいえ、農業の知識や栽培技術ではベテラン農家さんに到底敵いません。そこで佐藤さんが目をつけたのが、農家さんが苦手とする「情報発信」や「見せ方」のサポートでした。「まずは自分にできることで役に立とう」と、個人のSNS(InstagramやTikTokなど)を立ち上げ、大葉に関する情報を毎日欠かさず発信し始めました。
自宅のキッチンを使い、仕事と家庭のバランスを取りながら料理動画を編集して毎日投稿する作業は、「めちゃくちゃ大変でした」と佐藤さんは笑います。それでも「やるって言っちゃったからやめられない」という責任感から、365日休まず継続。
最初は「誰が見ているんだろう」と半信半疑のスタートでしたが、徐々に「大葉が大好き」という消費者の声が画面越しに届くようになり、有名テレビ番組への出演を果たすなど、予想もしなかったほどの大きな反響(バズ)を生み出しました。


チヂミを焼く姿が、農家さんの心に火をつけた
佐藤さんの挑戦は、オンラインの枠にとどまりません。市場に出荷して終わりという従来の販売体制を変えるべく、自ら「出口(消費の場)」を作る活動に乗り出しました。
月に1回は必ずスーパーなどの店頭に立ち、大葉をたっぷり使ったチヂミを焼いて試食販売を行います。
100枚入りの大容量パックを特売し、消費者に直接、美味しい使い方や長持ちする保存方法を伝えています。
実はこの店頭販売には、佐藤さんだけでなく農家さんも参加することがあります。最初は「恥ずかしい」「時間を取られる」と渋っていた農家さんも、自分たちが手塩にかけて育てた大葉が次々とカゴに入れられ、飛ぶように売れていく光景を目の当たりにすると、ノリノリになって販売を楽しんでくれるそうです。
消費者の喜ぶ顔を直接見ることは、作り手にとって何よりのモチベーションになります。「中途半端なものは届けられない。品質にもっと気をつけよう」と生産者の意識も高まりました。中には「まだまだ待っている人がいるから」と、新たにハウスを借りて栽培面積を増やす農家さんも現れたほどです。佐藤さんの行動が生産現場の意識を変え、産地に素晴らしい好循環を生んでいます。


黒くなってしまった大葉。失敗も大切なプロセスのひとつ
順調に見える活動の裏側には、もちろん失敗や大きな壁もあります。現在、豊川の大葉産業が抱える最大の課題のひとつが、夏場に発生する「チャンスロス(機会損失)」です。
夏になると大葉の需要は急増しますが、同時に生産現場は過酷を極めます。猛暑日にはハウス内の温度が50度近くにも達するため、人が到底いられない環境となり、朝5時頃からの限られた時間でしか収穫作業ができません。また、大葉自身も暑さで蒸れることで傷みやすくなります。結果として、大量のオーダーが来ているにもかかわらず収穫が追いつかず、泣く泣く断らざるを得ない状況が発生していました。
この供給課題を解決するため、佐藤さんはある実験を試みました。「0度の環境で大葉の呼吸を止め、保存できないか」と考えたのです。これが成功すれば、収穫した大葉を1週間ほどストックし、需要に合わせて安定供給できます。
しかし、結果は失敗。大葉は寒さに弱いため、温度が低すぎて葉が真っ黒になってしまいました。
冷蔵庫に入れすぎれば黒くなり、暑いところに置けば蒸れてしまう。生の青果をベストなタイミングで届ける難しさに直面していますが、佐藤さんは決して諦めていません。失敗を恐れず、大葉ペーストなどの加工品を展開して消費の裾野を広げながら、「どうすれば求めている人へしっかり届けられるのか」と、日々試行錯誤を続けています。
誰もが働く誇りを持てる「チーム」をデザインする
佐藤さんは、単なる「大葉の販売促進」を超え、大葉産業全体の仕組みを「デザイン」する領域にまで活動を広げています。その象徴的な取り組みが、企業を巻き込んだ新しい形の「農福連携」です。
現在、大葉の選別やパック詰めを担うパートや内職の方々は、高齢化により減少しています。そこで佐藤さんは、法定雇用率の達成を課題とする食品卸などの企業と連携。企業が雇用した障害者の方々に農業の現場へ出向してもらい、大葉の出荷調整作業を担ってもらう仕組みを構築しました。
さらにその作業の中で、味は同じでも見た目の問題で弾かれてしまう「規格外の大葉」を刻み、出向元の企業などでソーセージやフランクフルトとして商品化・再利用してもらうプロジェクトも進めています。
佐藤さんが目指すのは、誰もが働く意義を感じられる環境づくりです。自分が選別し、一度は弾かれた大葉が美味しい商品に生まれ変わってスーパーや企業の食堂に並んだ時、「これ、私が関わっている商品だよ」と誇りを持って言える状態を作りたいと語ります。労働者と雇用者という垣根を超え、生産者、消費者、そして作業に関わるすべての人を「ひとつのハッピーなチーム」にするのが佐藤さんの願いです。
また、そのチームの目は海外にも向けられています。大葉を「ジャパニーズハーブの王様」と位置づけ、和食文化のある国はもちろん、タイや香港などの東南アジアへも「日本の大葉」としての差別化を図り、専門業者とともに輸出の準備を進めています。

この街の農業の未来を、少しずつ、一緒に変えていく
佐藤さんはご自身の役割を、生産者と欲しい人を繋ぎ、双方のニーズを調整する「ディレクター」や「デザイナー」だと表現します。
彼を突き動かしているのは、「この農家さんたちとずっと笑っていたい」というシンプルで温かい思いです。「一緒に笑い続けるためには、今までとは違う何かをしていかないといけない」という危機感が、すべての挑戦の原動力になっています。
また、佐藤さんは「一人称を大きくしていくことが成長に繋がる」という考えを持っています。「自分」から始まり、「私たち」、そして「豊川市」や「愛知県」、さらには「大葉産業全体」へと主語を大きくしていく。同じ大葉の産地である大分県を「ライバルとして出し抜く対象」ではなく、「一緒になって大葉という作物を盛り上げていく仲間」として捉えるのも、こうした視座があるからこそです。
人口減少や高齢化が進むローカルな環境において、ひとつの産業を維持し、次世代へ残していくことは決して容易ではありません。しかし、佐藤さんのように枠にとらわれずに行動し、関わるすべての人を「チーム」として巻き込んでいく存在がいれば、未来は確実に変わっていくはずです。豊川の大葉産業を守り、未来へ繋ぐディレクター・佐藤光さんの挑戦は、これからも力強く続いていきます。
大葉という一つの産地、一つの産業をその場だけで完結させるのではなく、愛知、ひいては日本全体を見据えて「みんながハッピーになる方法」を模索する佐藤さんの姿勢。それは、この地域でメディアを運営し、街の動向を伝えるわれわれにとっても、深く共感し、見習うべき視座だと感じさせられます。
今後、豊川が世界に誇る大葉のブランドになる日が来るのか。日本の大葉が世界的なハーブとして流通する日が来るのか。彼らが耕すその先に、一体どんな未来が待っているのか、今から楽しみでなりません。















