real local 名古屋【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。 - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。

インタビュー

2022.08.20

名鉄犬山駅から国宝・犬山城へ向かう道なりにお店を構える「shirushi」。地元でとれる果物や食材の、旬を迎えた美味しさを詰め込んだ、季節の焼き菓子を販売する小さな菓子屋です。2020年の秋にオープン以来、お菓子の販売はもちろんのこと、食材の生産者や地域の人たちをつなぐ取り組みにも力を入れているという黒部さんにお話を聞いてきました。

【real,local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。
菓子屋shirushi / 本屋tsuide 店主の黒部恵さん

 

店をやるなら、犬山がいい。

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。

 

温泉観光地として有名な岐阜県下呂市に生まれ、実家は漬物屋さん。たくさんの人たちが訪れては行き交うことが日常にある町で育った黒部さんは、子どもの頃からいつか自分もお店を持ちたいと思っていたそうです。京都の製菓学校を卒業し、名古屋の洋菓子店で修行。結婚後、地元となった江南市でカフェや喫茶店のパティシエとしてデザートづくりを担当しながら休日にはイベントにも出店していました。

「6年ほどイベント出店をしていましたが、そこでいろんな女性に出会えたことが、自分の店を持つという目標に向けて具体的に動き出すきっかけになりました。子育てをしながら自分の道を切り開く人たちから刺激を受けて、視野が広がっていきましたね。そして、お店のデザートとしてではなく、自分のお菓子が作りたいという想いが強くなっていきました。」

自分のお店を持つなら、大好きな犬山城のそばに店を構えたい。と、物件探しを始めた矢先にコロナが感染拡大。そればかりか、コロナの影響で働いていたカフェが閉店してしまうことに。地元で愛されていたお店だけに、ショックも大きかったと言います。

 

そのお店に合わせたお菓子づくりから、
自分のこだわりを詰め込んだお菓子づくりへ。

 

それぞれのお店に合わせてお菓子を作るのではなく、自分が美味しいと思う食材をふんだんに使ったこだわりのお菓子を作りたい。そう思い始めていた黒部さんにとって、カフェの閉店が、「動くなら今」と背中を押してくれるものとなりました。同時に、お客様からの励ましの声にも心を動かされたと言います。

「コロナ禍で自粛生活を余儀なくされる中、これまでのお客様や友人たちが、私のお菓子を食べたいと声をかけてくれたことが本当にありがたかったです。自宅まで届けにいくととても喜んでくれて、その笑顔が悩んでいた私を救ってくれました。自分にもできることがあるんじゃないかと強く感じたことを覚えています。」

働いている時には考えもしなかった「なぜお菓子を作るのか、なぜお店をやるのか、なぜ自分の店じゃなきゃだめなのか」、それが見えてきたことで、店づくりでの迷いはなかったとか。

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。
「困ることと言えば、こだわり出したら止まらないこと。特に材料については、生産者の皆さんに会いに行くのはもちろんのこと、もっともっといろんな農園を訪れたいという思いが溢れてきます。」と黒部さん。

 

季節とともに、素材も表情も巡り変わるお菓子。

 

菓子屋shirushiには、クッキー缶やタルト、マドレーヌなどの焼き菓子が並びます。そしてお菓子には、旬の食材を中心に使っています。だから、旬が終われば、そのお菓子も店頭から消えてしまうのです。そして来年のこの季節にまたお目見えするのを楽しみに。

「季節とともにお菓子が過ぎていき、お菓子で季節を感じるようになってもらえたらすごく嬉しいです。ちょうど和菓子のように、巡る季節と一緒に素材も表情も巡り変わっていく洋菓子が理想。京都の製菓学校で学んだこともあり、そこでは京菓子の先生による授業もありました。そのお菓子を眺めるだけで、季節の情景が浮かぶような表現やおもてなしの心を学びました。そうした季節を体感できる豊さを、洋菓子で届けたいと思っています。」

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。

フランス菓子だけど、日本らしさを取り入れたshirushiのお菓子。お店を始めて、季節ごとの素材を大切にするようになって、なおさら日本の暦にある二十四節気や七十二候というのが、季節を表す上で上手いことできていて、今の時代にも合うと感じているそうです。

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。
季節のお菓子を毎月届けてくれるという「お菓子の定期便」は、この二十四節気をもとにしており、季節とお菓子の便りを毎月楽しみにしているお客様がたくさんいます。例えば5月なら二十四節気で「立夏」と「小満」のお菓子が届き、「ああ、もうすぐに夏が来るねぇ」といった具合に、お菓子が初夏の訪れを知らせてくれます。その時々で季節の包装紙を変えているところも素敵ですね。

 

ほんのしるしに、shirushiのお菓子を。

 

季節が巡ることと、お菓子が巡ることがリンクして、その移ろいを味わい楽しめるのがshirushiのお菓子ですが、shirushiには、ほんのしるしにお菓子を選んでもらえたらという想いも込められています。ご挨拶のしるしに、感謝のしるしに、大切な日のしるしに、犬山を訪れた記念のしるしに。いろんな場面で、その時の想いや思い出に寄り添ってくれます。
【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。

 

ついでに立ち寄るなら、本屋tsuideへ。

 

shirushiのオープンからおよそ1年後、お店の2階で菓子屋がつくる本屋tsuideが始まりました。店舗が空きビルだったことで、当初から2階も活用したいと考えていた黒部さんですが、本屋ができたのはとても自然なことでした。
【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。

「私が本好きだからです(笑)。本に囲まれた空間に心地よさを感じるから、その心地よさを皆さんと共有しながら、shirushiとは違う役割の、人が集まれる場所や、地域にとって必要とされる場所を作りたいと考えていました。それに、せっかく本屋をやるのなら、自分の好きな本だけを集めたい。お菓子や料理を作るのも食べるのも大好きな店主がつくる、食をテーマにした本屋です。」

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。
今やネットでどんな本にもアクセスできるけれど、そのほとんどが目的買いとなり、自分の好みから外れたジャンルの本に自然と触れられる機会は、大型書店であってもなかなかありません。本屋tsuideには、思いがけない本との出会いがあり、そうした出会いをイメージしながら本を選ぶことも黒部さんの楽しみのひとつになっています。

 

また、shirushiでつながった農家さんが作る美味しいジャムや蜂蜜などを扱いながら、農家さんによる面白い取り組みなども紹介しています。もちろん、お菓子と一緒に大切な人に送る本やギフトを選ぶこともできます。

「こうしたことは、菓子屋のshirushiではできないけれど、本屋のtsuideならできる。思いがけない本との出会いに加えて、農家さんとの出会いや、地域の素敵なお店との出会いもあって、自分の視野以外のところで何か新しいことを見つけられる場所になればと思っています。本屋tsuideは、菓子屋shirushiに来たついでに、犬山を訪れたついでに、お買い物のついでに、ふらりと立ち寄ってもらえるお店でありたいですね。ついでに訪れたきっかけで生まれる出会いの場にもなれたら嬉しいです。」

 

shirushiとtsuideの、その先で。

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。

“本”はいい意味でニュートラル。だから本と器、本とハチミツなど、いろんなものを繋げられる存在になれるはず。また“食”はすべてのことと繋がっています。料理、旅、農家、子ども、ペット、健康など、どんなジャンルにも食があって、誰でも食への入り口を持っている。そう思うと、shirushiとtsuideからいろんな可能性を広げられるんじゃないかと、tsuideでは様々取り組みが始まっています。shirushiで繋がった農家さんと一緒に企画するイベントもそのひとつ。

「様々な地域で生産者の方々と知り合い、話を聞いてきて思うのは、「やっぱり、こだわりを持って作られた果物などは、本当に美味しい」ということ。8月にはぶどう農家さんと一緒にイベントを開催します。ぶどうって、本当は種がある方が美味しいんです。今は種なしぶどうのほうが流通していますが、ぶどうは種があるからこそ甘みがいきわたるのだとか。それを体験してもらうイベントです。食育として、ぜひお子さんにも体験してもらいたいですね。そこにしかない匂いや空気を感じながらの景色は、決してVRでは得られないもの。自分が田舎で育ったせいか、漬物工場や近くを流れる沢で遊んだ記憶と、その時に感じた風や匂いは今でも覚えていて、今の自分のもとになっています。その時の体験が、今の自分を作っていると思うと、子どもたちにもそうした体験の場を作ってあげたい。人の感覚はシンプルにできていて、体験しないと分からないことや、体験から伝えられることがあると思っています。」
【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。

今後も本屋tsuideでのイベントを定期的に開催しながら、すでに次なる構想が膨らんでいるようです。店舗ビルは4階建てのため、3階と4階も使えることから、ゆくゆくは宿をやってみたいという願望も。犬山市とその周辺部には素敵なお店がたくさんあり、犬山の花火もここから眺めることができます。ふらりと訪れた人が、いろんな楽しさに出会える場所となり、ここから犬山散策を始められる拠点になることをめざしたいと話してくれました。

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。

屋号

菓子屋shirushi
本屋tsuide

URL

https://kashiya-shirushi.com/

住所

〒484-0081 愛知県犬山市大字東古券224-4

備考

・Instagram
菓子屋shirushi
本屋tsuide

・営業時間 11:00〜17:00
・定休日  月・火曜日(祝日含む)
※臨時のお休みについてはInstagramの投稿をご確認ください。
※駐車場なし

【愛知県犬山市】季節とともに巡る菓子屋と、思いがけない出会いのある本屋。