【愛知県・春日井市】木工を子どもたちの憧れの仕事に 「アーティストリー」大西功起さん 後編

【real local名古屋では名古屋/愛知をはじめとする東海地方を盛り上げている人やプロジェクトについて積極的に取材しています。】
春日井市にある木工メーカー「アーティストリー」。営業開発部長でクリエイティブディレクターの大西功起さんは、3D CADや5軸CNCなどのデジタルファブリケーションと職人の技術をかけ合わせた「3D木工」による新しい木材表現に挑戦しています。大西さんのこれまでの歩みをお聞きしたインタビュー前編に続いて、後編では、アーティストリーが手がけた3D木工プロジェクトやサウナビルダーとしての活動、そして大西さんが目指す木工の未来について話を伺いました。
新たな木材表現に挑んだプロジェクトの数々
ー有機的な曲面が印象的な「わの休憩所」。この作品をきっかけに、アーティストリーの認知が広まったと思いますが、3D木工の依頼は増えていったのでしょうか。
そうですね。これまでは特注家具や什器等の売上がほとんどでしたが、プロジェクト以降、3D木工による建築や内装の売上が25%まで増えました。

「わの休憩所」をきっかけに声がかかった仕事の一つに、名古屋駅前の「第2名古屋三交ビル」があります。三重県産の木材を象徴的につかったエントランスをつくるというプロジェクトで建設会社から依頼があり、木材に包まれたスタイリッシュなエントランスになじむ、流れるようなシルエットの木製ベンチを製作しました。施主さんにも喜んでいただき、今も別のプロジェクトに発展しています。


アーティストリー初の建築への挑戦は、建築家・隈研吾氏が設計した英国アンティーク博物館「BAM鎌倉」です。美術館の顔となる全長14メートルに及ぶ正面ファサードの木材加工を担当。伝統技法の「鎌倉彫」を表現するために、最適な加工プログラムを検討し、エッジラインの精度を追求しました。


渋谷ふれあい植物センターでは、コルク材を3D加工した内装空間や家具の製作をしています。松坂屋名古屋店のリニューアルの際は、レストスペース用に愛知県の木材で作ったベンチを製作しました。そして、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、複雑な加工が求められるアシンメトリーデザインのバス停を手がけました。
今でも8割はクレジットを出せない仕事ですが、施主・デザイナー側からアーティストリーの名前を出したいと言っていただくこともあり、ものづくりのパートナーとして声をかけていただける案件が増えたことは有り難いと思っています。
業界に新旋風! ととのえ親方とつくった3Dサウナ

ー最近では、3D木工によるサウナルームも手がけたとか。特注家具屋さんがサウナをつくるというのは驚きです。
初めて手がけたのは、北海道知床半島にある老舗ホテル「北こぶし知床 ホテル&リゾート」のサウナです。ここは、湾内に着氷する流水を眺めながら宿泊できる魅力あるホテルですが、コロナ禍に何か目玉をつくって集客力を高めたいということで、サウナを改修することになりました。
アドバイザーを務めたのは、サウナブームの火付け役として知られているととのえ親方こと松尾大さん。松尾さんの提案で世界に4例しかない3Dサウナを日本で初めてつくろうという計画でした。温浴業界ではつくり手が見つからず、「わの休憩所」を見た松尾さんから製作依頼がきました。
イメージ写真を見て形状的には実現できるだろうと思いましたが、サウナをつくるのは初めてのこと。高温多湿の空間でどんな木材でどう構成すればいいのか、いろいろなサウナ施設に行ってベンチの裏をのぞきこんだりしながらリサーチ。北海道にいる施主さんや松尾さんとオンラインでやり取りしながら進め、半年ほどで3Dサウナを完成させました。

ー洞窟の中にいるような没入感を感じられそうなサウナですね。木材の温かい雰囲気や3D木工の有機的なラインが印象的です。
竣工式に参加し、プレオープンの日はサウナにも入らせてもらいました。そうしたら、サウナに入っていた皆さんから「すごいサウナだね」「つくってくれてありがとう」と、声をかけてもらって。エンドユーザーから直接お礼を言われるのは初めての経験で、心身ともにととのった瞬間でした。
愛好家として、サウナ業界を盛り上げたい

ー「北こぶし知床 ホテル&リゾート」以外にもユニークなサウナを手がけていますね。
先日引き渡しが終わったばかりなのは、熊野古道のほど近くにある「大泰寺」の禅寺サウナです。元々アウトドアサウナを運営していた住職さんから、全天候型の常設サウナをつくりたいと相談がありました。
以前は蘭の花を育てていたという小屋を改装。木材を買い付けて3D加工し、現地の工務店と協業して完成させました。座面には一枚板を使い、だるまが座禅を組んでいるようなシルエットの木を加工して壁面に配置。サウナの中で瞑想や自問自答ができる禅サウナをイメージしました。外気浴エリアは空気の流れを計算し、サウナに入ってととのった状態で枯山水に模様を描いてもらう仕掛けも用意しました。たくさんサウナに入ってきた僕の人生の中で5本の指に入る、ととのうサウナができたと思います。
ー大西さんもサウナ愛好家なのですよね。
そうですね。サウナは我慢大会をする部屋というイメージで以前は苦手でした。ととのえ親方に入り方を教わって、ととのう体験をして以来ハマって、いまではすっかりサウナーです。
ーサウナの本場フィンランドへ渡航し、ワークショップツアーにも参加したとか。
いつかフィンランドに行ってみたいと思っていたところ、機会に恵まれて2023年夏にフィンランド大使館が主催するサウナビルダー向けのワークショップツアーに参加しました。現地に2週間ほど滞在し、フィンランドのサウナ文化やサウナづくりの思想にたっぷりと触れてきました。
ー現地でサウナづくりを学び、生かしているのですね。
サウナビルダーとして知見を深めたことで相談件数も増え、いまは10件ほどの案件を同時進行で進めています。サウナに関しては、僕が監修だけ入るパターン、デザインがあり製作のみ依頼を受けるパターン、ゼロからサウナ施工会社と協業してつくり上げるパターンの3つがあります。アーティストリーの製造現場を稼働させることがベストではありますが、サウナ業界が盛り上がり、良いサウナが増えていくことを目指しているので、そのためにできることはやりたいと思っています。
最近は、サウナ好きの若い子がアーティストリーで働きたいと応募してくれるようになり、
採用活動の広報にもなっていると感じます。
いつか死ぬまでに、木工を憧れられる仕事にしたい

ー大西さんは会社の枠にとらわれず活動しているように見えますが、その原動力はなんですか。
入社してから業界構造にもやもやした時期があり、自分のやりたいことを整理して一つの人生目標を立てました。それは「自分が死ぬまでに、木工という職業を子供たちの憧れの仕事にする」ということです。
木工はとても魅力的な仕事ですが、一般的にはあまり認知されていないですし、価値を伝えきれていない。それなら、アーティストリーが木工業界を盛り上げるファーストペンギンになろうと決めました。アーティストリーが面白いことをしていれば、業界全体に派生し、木工業界全体を盛り上げることにつながるだろうと思っています。
ー多方面での活動は人生目標あってのものだったのですね。木工を憧れの仕事にするために何が必要なのでしょうか。
憧れの仕事ってなんだろうと紐解いていくと、まず認知度があること。木工でどんな面白いことができるのかを発信し、知ってもらうことが必要です。森林が多い日本で木工は欠かせない仕事だということも広めていきたいですね。
そして、憧れられる職業像をつくっていくこと。木工職人として名前が出て憧れてもらえる存在になり、3D木工をブランドにして価値を高めていく。スーパーで野菜を買うと、生産者の名前が書いてあることが増えました。そんなふうに、木に関わる仕事も誰がどこの森から木を切り出し、製材し、加工したのか。商流の川上から川下まで、顔が見える仕事にしていきたいです。
もう一つ重要なのは、しっかりと稼げること。いくらやりがいがあっても、他の業界に比べて稼げない職業だとしたら憧れの対象にはなりません。日本を代表する産業である自動車業界の平均水準程度の収益性は目指していきたいです。

ー収益性を上げるというのは林業や木工業界の共通課題ですね。アーティストリーではどのような取り組みをしていますか。
社内の仕組みづくりに力を入れています。まず一つはカンパニー制の導入。製造業によくあるライン生産ではなく、チームごとの独立採算制をとっています。製造部には5つほどのチームがあり、それぞれのチームがプロジェクトを複数抱えて、売上目標の達成を目指します。職人は毎日の作業時間を15分単位で記録。プロジェクトごとの作業時間を明確にして製造コストを見える化し、生産原価を把握することで、精度の高い見積りを出せるようにしています。
さらに、ドイツのマイスター制度のような教育制度をつくりました。職人が何年もかけて技を盗んで一人前になるといった属人的な仕事の仕方ではなく、入社3年以内にひとり立ちできるようにチーム内で先輩と若手が一緒になって技術力・人間力・経営力を高めていくという“共育”を大切にしています。
アーティストリーが業界を牽引するファーストペンギンとなって、木工を憧れの仕事にする。そのためにできることは、まだまだあると思っています。
名称 | Artistry(アーティストリー) |
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住所 | 愛知県春日井市西本町3-260 |
TEL | 0568-33-3719 |
