鎌倉御成通り|開店から10年、ワインバー「祖餐(そさん)」が続ける“無理のない場”づくり
鎌倉・御成通りで2015年5月に開業し、2026年5月には11周年を迎えるワインバー「祖餐(そさん)」。1階はビアバー/ワインバー「PILGRIM(ピルグリム)」、2階は座って食事を楽しめる空間という二層構成で、気分やシーンに合わせて過ごし方を選べるお店です。バーでありながら、ご家族で来店される方も多く、大人はもちろん子どもたちも、ゆるやかに気兼ねなく過ごせる空気があります。
一方で、この場所での出会いが、イベントや新たな取り組みにつながるなど、まちの「起点」として人やアイデアが交差していく場にもなっています。今回はオーナーの石井英史さん、美穂さんご夫妻にお話を伺いました。

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何かが始まりそうな御成通りで10年
(英史さん)僕は鎌倉で生まれ育ち、御成通りのあたりも小さな頃から馴染みのある場所でした。店をやるなら鎌倉、それも御成通りの近くがいい。最初から、そんな感覚がありました。
大学を出てからはワイン関連商品の輸入販売会社に勤め、2002年にはイタリアへ渡りました。ワイナリーの現場も経験して、帰国後はレストランの現場を経て、2007年に長谷でワインバーの立ち上げに携わりました。店長のような役割で4年ほど働き、その後は友人のお店を手伝いながら、2〜3年かけて「自分の場所」を探していきました。そして、2015年5月に御成町で「祖餐」を始めました。
当時の御成通りは、飲食店もまだ数えるほどで、「これから何かが始まりそうだ」という気配がありました。気がつけば10年です。振り返ると、あっという間でした。

「ナチュラルワイン」ではなく「自然なつくりのワイン」
(英史さん)「ナチュラルワイン」という言葉には、「こういうものだ」という定義があるように感じられることがあります。けれど実際は、つくり手のアプローチはさまざまで、「こうでなければいけない」と言い切れるような明確な正解があるものではありません。
だからこそ、祖餐で提供するワインには、もう少し自分たちの感覚に近い言い方を選びたいと思っています。「ナチュラルワイン」という表現よりも、「自然なつくりのワイン」と伝えるほうが、一本一本の違いや背景を、そのまま受け取ってもらえる気がしています。ワインを「これはこうだ」と決めて理解するのではなく、飲む人が自分の感性で楽しめる入口を増やしていく。そのための余白を、店の中にきちんと残しておきたいと考えています。

初心者が参加しやすい入口を、きちんとつくる
(英史さん)ワインは、その良さを分かっていないと飲んではいけないのではないか。ワインに飲み慣れていない方ほど、そう感じてしまい、ハードルが高くなることがあると思います。だから僕らは、「ワインのボキャブラリーを、みんなで増やす」という考え方を大切にしています。ここでワインを飲む方の中には、「このワインは、あのアイドルの〇〇さんみたいだ」とか、「最近読んだあの小説みたいだ」と表現する方もいます。
自分の感じた言葉で表現してみる。飲めたことに自信がつく。そうすると、ほかの場所でも飲みやすくなるし、飲み友達もできる。入口が増えると、楽しみ方も自然に広がっていきます。

「無理のない場」が、安心とつながりを生む
(美穂さん)安心して楽しく飲める場所で、楽しく飲む。その時間に無理がないことが重要です。祖餐で目指しているのは、そんな「無理のない場」です。それぞれが無理をせず、安心して過ごせる場であることが、いちばん大切だと思っています。例えば、ワインバーだと、ワインに合わせて食も完璧にしなければいけない、と感じる人もいるかもしれません。でも、祖餐では親しみやすいお惣菜もお出ししています。

2階は座って食事ができる空間としてつくっていて、家族が来ても使いやすいようにしています。子どもがいることで、大人も過度に飲みすぎない。結果として、場としてちょうどいいバランスが生まれているようにも感じています。

誰かの知識や経験だけが正しさになるのではなく、それぞれがそれぞれのままでその場にいられること。そうした空気があると、人は自然に話をしやすくなるように思います。だからこそこの場には、お酒が好きな人も、そうでない人も、大人も子どもも一緒にいられるのだと思っています。最初の頃から、どこか「ファミリーレストランみたいな雰囲気」を大切にしてきました。

面白がれる人が集まると、次の何かが生まれる
(英史さん)鎌倉は、個性的なお店が多いと感じていますし、そういったお店の店主同士がつながっています。お互いがそれぞれの常連になったり、時にはイベントをやる仲間になったり。そうした関係性は、自然に育まれてきました。そして、面白いお客さんが多いことも、祖餐にとって大きいです。この場を楽しんで、「何かしよう」と言える人がいる。知らない人同士でも、話しながら面白くつながっていく。そういう雰囲気があると、常に何かが生まれそうな空気になります。

「進化中」であり続けるために
(美穂さん)お店も組織も、「これで完成です」と言ってしまうと、違うものが来たときに受け入れにくくなります。排除の方向に寄りやすい。そうなるのは、もったいないと思っています。むしろ、新しく来た人を受け入れ、「では、こうしてみよう」と少し形を変えられるほうが、可能性が広がっていきます。変化に対応できる場所や組織は強いですし、そういう意味で祖餐も、ずっと「進化中」でありたいと思っています。出来上がらないことを前提にしながら、少しずつ更新していく。その感覚を大切にしています。

店を飛び出しまちへ、ひらく。
(美穂さん)店の外側の話として、「まちごとオーケストラ」という取り組みも進めています。これは鎌倉に関わる住民が、それぞれの「好き」や「得意」を持ち寄りながら、協働事業を企画・運営していくための取り組みです。、 法人らしく固めすぎず、みんなで共同できる“組織っぽくない組織”として、まちごと動いていくような状態を目指しています。
まちには、飲みながら語らう場が必要かもしれないし、子どもたちの意見を聞けたり、実証実験ができたりする場所が必要かもしれない。そうしたいろいろな役割が、まちの中で重なり合っていく。祖餐は、その起点のひとつとして機能できたらいいと思っています。

| 名称 | 祖餐(そさん) |
|---|---|
| 業種 | ワインバー、ビールバー |
| URL | |
| 住所 | 神奈川県鎌倉市御成町2-9 |
| 営業時間 | • 火~土 23:00頃まで。 • 日 20:00頃まで |
| 定休日 | 月曜日 他不定休あり |
| アクセス | JR横須賀線、江ノ島電鉄線「鎌倉駅」西口・徒歩3分 |













