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創業30年を迎える「鎌倉ビール」の今までとこれから

インタビュー
2025.08.02

創業30年を迎える「鎌倉ビール」の今までとこれから1998年に創業した、鎌倉市初のビール醸造所「鎌倉ビール醸造株式会社」。鎌倉の海や街並み、季節の移ろいなどさまざまなシーンにも寄り添う鎌倉ビールは、地元に根ざし、観光客にも親しまれるクラフトビールとして、30年近く愛されてきました。今回はビールの営業担当の宮野友輝さんに、背景やこだわり、そして地域とのつながりについてお話を伺いました。
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創業30年を迎える「鎌倉ビール」の今までとこれから
お話を伺った「鎌倉ビール」の宮野友輝さん

鎌倉とビールをつなぐ、偶然のご縁
私は東京出身ですが、以前から海や街並み、鎌倉独特の落ち着いた空気がとても好きで、鎌倉にはよく遊びに来ていました。結婚を機に移住をしてからは東京まで通勤していましたが、まさかこの地で働くことになるとは思っていませんでした。
広告代理店での営業を経て、その後は元サッカー日本代表選手のマネジメントを手がける会社で、マネジメント業務を担当しました。その仕事の一つとして、日本酒や日本の食文化を国内外にPRする仕事をさせていただき、日本酒の蔵元の方々とお会いする機会を得て、地域に根ざす作り手の魅力に触れました。営業やマーケティングの経験と、“お酒の世界”の知識。その両方を鎌倉で生かせたらいいなと思っていました。そんな時に出会ったのが、鎌倉ビールです。

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地域にあるからこその価値
鎌倉駅から徒歩で20分程の距離にある醸造所で、4名の醸造家が繁忙期には毎日のように仕込みをしています。創業当初からの釜を使い、手仕事で丁寧に醸造しています。
この街で手づくりされている事実は、飲む人にとって特別な価値になります。
地元の方が馴染みの店でいつもの味として楽しむこともあれば、観光の方が、旅の思い出の味として家に持ち帰ることもできる。ビールは単なる飲み物ではなく、コミュニケーションのきっかけです。カップルや家族、友人同士で飲むことで会話が生まれ、時間が豊かになる。そんな時間を鎌倉ビールと共に楽しんでいただけたらうれしいです。

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特別に工場見学させていただき、出来立ての一杯をいただきました!

創業の原点にある“まちづくり”の想い
鎌倉ビールは1998年に誕生しました。元々は、大正時代から三代続くまちの酒屋で、地域の方からはまちの萬屋(よろずや)として親しまれていました。地域のお酒を扱い、コミュニティの場にもなっていたその店で、当時、鎌倉には地場産の特産品が少なかったこともあり、「まちを盛り上げる特産品をつくろう」という声が上がりました。ちょうどその頃、1994年の酒税法改正で、小規模なビール醸造が可能になったタイミングで、ビールに着目しました。

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品質安定への挑戦と出会い
とはいえ、まったくのゼロからの挑戦。創業当時は品質を安定させるのに苦労し、何度も試作を重ねてはやり直し、という日々だったと聞いています。そんな時に力を貸してくれたのが、大手ビールメーカー出身の醸造専門家でした。何度もお願いを続け、ようやく協力を得られたことで品質を安定させることができました。その結果、販路は大きく広がりました。地元の方には「食事と一緒に楽しめる一杯」として、観光で訪れた方には「鎌倉でまた飲みたい」と思ってもらえる存在として、信頼を築くことができました。

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鎌倉のアイコンを背負った配送車

クラフトビール市場と鎌倉ビールの個性
今、日本には約900の醸造所があります。コロナ禍をきっかけにさらに増え、今では東京のビルの一角でもクラフトビールがつくられる時代です。多くはタップルーム併設型で、その場で消費されるスタイル。私たちのように直営店を持たず、お店へ卸す形で成り立っているところは少ないと思います。
鎌倉ビールの特徴は、鎌倉にある様々なお店の料理に寄り添うビールであること。クラフトビールは個性を出せる楽しさもありますが、強い個性は料理を邪魔してしまうこともあります。だから、食と合わせやすいバランスを重視しています。飲みやすく、でも鎌倉らしさを感じられる味。そこに私たちのアイデンティティがあります。

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工程の多くは一つ一つ手作業で行われていました。

鎌倉の食に寄り添うビールづくり
鎌倉には、和食からイタリアン、フレンチまで幅広い飲食店があります。私たちは、その料理に自然に寄り添うビールをつくっています。例えば「月」は和食やお蕎麦に合う、すっきりとした味わい。「星」は洋食と相性が良く、肉料理とも好相性です。そして「花」はスイーツに合うビールで、「江の島ビール」は湘南の名物である生しらすと合わせるのがおすすめです。実際、醸造スタッフは「こんな料理と合わせたい」というイメージも持ちながらレシピを設計しています。

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麦の種類や焙煎方法だけでも様々な種類があるそう。麦、ホップ、水と原料はシンプルながら掛け合わせによって様々な味わいを実現させています。

パッケージで伝える鎌倉らしさ
ボトルのデザインにも、鎌倉らしさを込めています。2022年に発売を開始した、「ROUTE134BEER」のパッケージデザインは鎌倉在住のイラストレーターの横山寛多さんに依頼しました。空と海の青を基調に、国道134号線からの景色を描いていただいてます。コロナ禍には「鎌倉の景色をおうちで楽しんでほしい」と、由比ヶ浜、材木座、七里ヶ浜の地元のアーティストや写真家とコラボレーションし、地元の方に地元のビールを楽しんでいただくための地元シリーズも展開しました。地元の方、観光の方双方に「鎌倉らしさ」を楽しんでもらえるように工夫しています。

創業30年を迎える「鎌倉ビール」の今までとこれから

30周年、その先の展望
鎌倉ビールは、まもなく30周年を迎えます。
2024年には唯一の直営店である横浜そごうの「鎌倉海街テーブル」もリニューアルオープンしました。家族で楽しんでいただけるよう、キッズスペースを設けるなど、食事とビールをより楽しんでもらえるような空間作りを行い、場作りについてもさらなる挑戦を続けています。
現在年間でおよそ60万本を製造し、おかげさまで手に取っていただく機会も増えてきました。その一方で、繁忙期には生産が追いつかないこともあり、製造体制の強化が今後の大きな課題です。そのため、将来的には製造規模の拡大に対応できる新たな拠点への移転を考えています。
「地元の人も観光客も気軽に立ち寄れる場所」「地域の交差点のような空間を」――そんなイメージを描きながらも、まだ具体的な計画はこれから。これまで培ってきた信頼やつながりを大切にしながら、これからも鎌倉のまちに根付きながら成長していきたいです。

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鎌倉の街とともに歩んできた鎌倉ビール。次の10年、20年も、鎌倉の風景とともに楽しめるビールを届けてくれることでしょう。

名称

鎌倉ビール醸造株式会社

業種

クラフトビール製造販売

URL

https://www.kamakura-beer.co.jp/

住所

神奈川県鎌倉市大町5-9-29