real local 鹿児島【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん

インタビュー

2023.02.28
鹿児島県錦江町にて今年3月に『一般社団法人めぐる』が立ち上がりました。代表の内田樹志さんは和蝋燭の材料で大隅半島発祥でもあるハゼノキの育成方法を学びながら、その魅力を広げる人たちを支援する活動をされています。そんな内田さんが和蝋燭やハゼノキに魅力された背景等について伺いました。

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん

和蝋燭が灯してくれた新しい生き方

大学卒業後、大手メーカーに勤務されていた内田さん。

照明(=灯り)の演出が好きだったこともあり、休みがあれば、旅をしながら各地のライトアップのイベントに足を運んでいたといいます。

「数年前、蝋燭をメインとしたイベントで出会った方に和蝋燭の魅力を教えてもらいました。それまで私は誕生日ケーキに刺さっているような洋蝋燭しか知りませんでした。」

「そのことがきっかけで、そのようなイベントに参加した際の視点と意識が変わりました。さらに、和蝋燭について「どんな人がつくっているのか?どこで売っているのか?」といったことも調べるようにもなって。」

「でも、結局、インプットだけで終わっていました。自分で積極的に何かをつくろうとか活動をしようといった領域にはなれなかったんです。」

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん
一般社団法人めぐる・代表 内田樹志さん

35歳の時のこと。

職場の同期が起業家を招いての講演会を企画とのことで

何となく参加してみたそうです。

「講演されたのは学生時代に伝統工芸に関する会社を起業された方でした。その方から私が知らなかった道があることを教えてもらったんです。」

「当時、私は視野が狭かったので興味があることや好きなことを仕事にするという選択肢がありませんでした。」

「でも、その方は「好きなことを仕事もしてもしていいんだよ」と力強くおっしゃっていて。それがきっかけで「自分にもそんな生き方ができるのではないか、今後の人生のことをしっかり考えてみよう」と思ったんです。」

「何をするかって考えた時に、今興味があることに対して、もっと深く知らないといけないと感じました。蝋燭のこと、それをつくっている職人さんのこと、その業界のこととか。」

「そこから職人さんに話を聞きに行ったり、和蝋燭の置かれている現状や歴史について調べたりするようになり、そこでハゼノキのことを知りました。」

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん

2つの顔を持つハゼノキとの出会い

ハゼノキとは別名『蝋の木』とも呼ばれ、そこから採取される実は和蝋燭の原料として知られています。

「ハゼノキは蝋の他にも、昔はワックスや文房具の原料にもなっていることがわかりました。平安時代には染色の材料としても使用されていたそうです。」

「しかし、今は「ハゼノキに触れるとかぶれる」といった印象をもった方が多いのが現状です。なのに、化粧品の材料にもなるという矛盾性を持ち合わせていて、面白い木だなと思いました。」

「さらに深掘りしていくと、ハゼノキが日本の文化に昔から寄り添ってきた木だったことがわかったんです。」

「江戸時代に西日本を中心に享保の大飢饉が発生し、多くの藩が貧困と財政難に苦しんだ時期がありました。その時に、栽培推奨され、藩財政だけでなく、困窮した農村部の人たちを救ったのがハゼノキの実から作られた木蝋といわれています。」

「さらに、ハゼノキからできた蝋燭が江戸時代に城下町や舞台で普及し、明治維新では外貨を稼ぐ手段としても使われました。ハゼノキは人々の生活と文化を支える灯のような存在だったのです。」

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん
写真提供:内田樹志 長崎県島原にあるハゼノキの里山
【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん
写真提供:内田樹志 ハゼノキがもたらす恵みのイメージ図

日本におけるハゼノキの発祥の地は錦江町を含む大隅半島といわれているそうです。

「発祥の地であっても、過去の辛い歴史があったからか、ハゼノキは嫌われている存在のように感じました。」

「実は、薩摩藩は19世紀頃まで借金の多い藩で、対外貨幣を稼ぐことができる農作物に対して非常に厳しい取り締まりを行っていたんです。」

「ハゼノキも対象となり厳しい取り立てが行われ、当時の農家を苦しめたと聞いています。そのため、明治初期に入り、強制的な取り立て政策が終わると、農家の人たちは喜んでハゼノキをほとんど伐採してしまったんです。それまでの反動が出てしまったのかもしれませんね。」

「伝統工芸の中で何が一番の課題かというと、私の中では原料が消えていってしまっていることだと思っています。ハゼノキもその1つです。」

「私はハゼノキに出会って魅力的な要素がたくさんあることに気づきました。それなら、皆がその魅力を知り、ハゼノキを育てられるようにしていきたい。それが今の活動の原点になっています。」

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん

「一緒にやろう」と手を差し伸べてくれる勇気

2022年になると、今後の活動拠点として錦江町へ移住されました。

錦江町を選択された背景にはハゼノキ以外にも理由があったといいます。

「都市部で開催された移住イベントに参加した時に、錦江町も出展していたんです。」

「そこでパワフルな担当者の方と出会い、私のやりたいことを伝えると「面白いね、ともかく一度おいでよ」という話になって、勢いで錦江町へ足を運ぶことにしました。」

「地元の皆さんは居心地良い方ばかりでした。さらにいうと、今後の活動拠点としても動きやすそうでしたし「地域の皆さんと一緒に何かできるのではないか」といった期待と予感がしたんです。」

「移住イベントで声をかけてくださった方から「新しく団体を立ち上げるから力を貸してほしい」と言われました。ハゼノキ以外にも関わる要素ができて、とても嬉しかったです。」

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん
写真提供:内田樹志 漆を植樹している様子

そして、もう1つ。

内田さんの心を大きく揺るがす出会いがあったのです。

「錦江町のゲストハウスで林業の会社と出会ったんです。その場で盛り上がり、翌日職場へお邪魔することになりまして。」

「お話をしていると、創始者の方が幼い頃にハゼノキで遊んでいたエピソードが出てきて、発祥の地が根占であることもご存知だったんです。」

「私の活動を聞いて「協力できることなら、一緒にやらせてほしい」「山のことならサポートできることはするよ」と嬉しい言葉を返してくださいました。それが、ハゼノキに関する仕事が生まれた瞬間でした。」

「都市部から移住してきたばかりの私に手を差し伸べてくれる勇気って本当にすごいなと思いました。その気持ちは大切にしたいし、それも錦江町を選択した大きな要素でもあります。」

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん
写真提供:内田樹志 ハゼノキの里山プロジェクトで再生中の山。小さな紅葉がいくつもできました

ハゼノキと共に自然の恵みが巡る循環を育てていく

2023年3月、活動を通して出会った仲間と一緒に『一般社団法人めぐる』を立ち上げられました。

「私たちはハゼノキという素材にフォーカスを当てて活動をしています。」

「“めぐる”には2つの言葉が合わさっています。それは“恵み”と“巡る”です。」

「自然の素材や、日本人が昔から大切にしてきた自然の“恵み”が今住んでいる錦江町や日本中に“巡る”世界をつくっていきたい。そんな願いを込めて“めぐる”にしました。」

「私以外に2人メンバーがいまして、出会いはオンラインでした。その後、直接足を運んでお話をさせていただき「この人たちとなら同じビジョンを掲げて一緒に歩くことができる」と感じました。」

「オンライン需要が増えた時代だからこその出会いだと思います。そんな時代じゃなかったら2人とは出会わなかったかもしれない。そう思うこともあります。」

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん
写真提供:内田樹志 今後のビジョンのイメージ

最後に今後のビジョンについて伺いました。

「今まさに私たちの活動は錦江町でハゼノキを植えて育てていくという段階です。その次の段階として、地域の方もですが、全国各地の方にハゼノキのことを知ってもらうことだと思っています。」

「その先に、ハゼノキの魅力を知った人たちが各地で育て、その恵みを多くの人が享受できるようにしていきたいと考えていまして。今年は全国を巡りながらワークショップをしようと計画しているところです。理想は私たちがいなくても、各地でそのような動きが生まれるようになったら嬉しいと思っています」

「ハゼノキは元々薩摩藩から日本各地へ広がっていきました。だから、鹿児島でその流れを再度生み出し、地域の産業にして、関わる人たちを豊かにできるような植物になれたら、昔の禰寝の殿様がやりたかったことが実現できるのではないかなと考えています。」

「実は2045年はハゼノキが日本に取り寄せられてから400年になる年なんです。だから、その時には「ハゼノキといえば大隅半島だよね」「地域にとって大切な植物だよね」と皆が話してくれるような状態にしていきたい。それが最初の目標です。」

【鹿児島県錦江町】ハゼノキ発祥の地から自然の恵みが巡る循環を / 一般社団法人めぐる 内田樹志さん
内田さんが所属されている『NPO法人たがやす』の事務所がある旧神川中学校にて
屋号
一般社団法人めぐる
URL

https://www.instagram.com/meguru.hazenoki/

備考

内田さんのnoteはこちら

内田さんが過去に挑戦されたクラウドファンディングの記事はこちら

住所

鹿児島県肝属郡錦江町神川3033番地