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【EVENT REPORT】山形国際ドキュメンタリー映画祭2023|浴びるように映画を観て、街を歩いた1週間。

イベントレポート

2023.12.26

2023年10月5日から10月12日までの8日間、「山形国際ドキュメンタリー映画祭2023」が開催されました。4年ぶりの通常開催となった今回は、国内外から22,000人を超える観客のほか、監督や審査員を中心としたゲストが参加し、多くのボランティアや短期スタッフの協力のもと無事に閉幕。当記事は、本映画祭に参加した著者による体験記です。

【EVENT REPORT】山形国際ドキュメンタリー映画祭2023|浴びるように映画を観て、街を歩いた1週間。
いよいよ映画祭開幕というときに、開会式前の会場で偶然見た幸先の良い虹。思わず写真を撮っていたら、同じような人を見かけた。

多様なドキュメンタリー作品を上映し
人々の交流を通した出会いの場を創造

世界的にも評価の高い映画祭として有名な「山形国際ドキュメンタリー映画祭(Yamagata International Documentary Film Festival 以下:YIDFF)」。1989年より隔年開催され、今回で18回目となります。以来、国内外の映画ファンや山形市民に支持され続けてきました。

山形市が映画の街といわれる理由はいくつかあります。アジアで最初にドキュメンタリー映画祭が開催された場所であること。2017年には日本で初めて「ユネスコ創造都市ネットワーク」の映画分野で加盟認定され、翌年は米国アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門公認映画祭に指定されたこと(YIDFFの2部門* で最高賞に選ばれた2作品がアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門へのエントリー資格が得られます)。さらには、日本初となる市民出資による映画館「フォーラム」の存在も大きいといえるでしょう。

8日間にわたって開催されるこの映画祭では、世界の最新ドキュメンタリーを上映する「インターナショナル・コンペティション*」やアジアの新進ドキュメンタリー作家の作品である「アジア千波万波*」のほか、特別招待作品、日本の新作、テーマや地域を設定した特集上映、山形にまつわる作品、映画批評ワークショップなどのプログラムから構成されます。さまざまな作品を上映することはもちろん、人々の交流を通して国際的なネットワークを育もうとする精神を大切にしているのは、本映画祭開催にあたり奔走した故小川紳介監督(1992年没)の理念にも由来しています。

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山形国際ドキュメンタリー映画祭2023メインビジュアル。福田真子さん(東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科・3年)による作品。

シネフィル「ではない者」にとっての
山形国際ドキュメンタリー映画祭とは?

私自身、映画そのものも好きですし、映画館で鑑賞することも好きです。ただ、いわゆる映画オタクでもなければシネフィルでもありません。YIDFFは過去に一度だけ、10代のころに行ったことがあります。おそらく当時の私の中で背伸びし過ぎたんでしょう。ドキュメンタリーの楽しさというものを見出せておらず、作品を理解できないままポカンとして終わってしまった記憶だけがずっと残っていました。
そのため大人になってからの参加は今回が初めて。自分の中で作り上げてしまった「コアな映画好きのための祭典」というイメージを払拭し、それによって高くなりすぎたハードルをどうにか下げて、今回、思いきって10枚綴りのチケットを購入しました。

映画祭に行こうと思ったら、まずはYIDFFのサイトにアクセスする人が大半だと思います。ここではチケット(1回券、3枚綴り、10枚綴り、フリーパスの4種類。いずれも前売券と当日券あり)を購入できるほか、随時更新される最新のタイムテーブルをダウンロードすることが可能です。

映画祭が始まると、黄色い紙を持ち歩いている人を街中でちらほら見かけます。「見つめる」をテーマにした横顔は、目の部分にカメラレンズのようなものをコラージュしているそう。興味のある人は、デザインコンセプトもごらんになってみてください。過去のメインビジュアルのアーカイブはこちらから見ることができます。

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街のあちこちに貼り出された2023ポスタービジュアル。建物や人との一体感によって、この時期だけの風景が生まれる。

チケット購入後は、タイムテーブルと作品情報を見比べながらプログラムとにらめっこです。鑑賞作品を決める際、監督名や作品名だけで選べる人もいると思いますが、私はけっこう迷ってしまった部分がありました。そのときはオフィシャルInstagramYouTubeをチェックするとイメージが湧いて決めやすかったです。とはいえ、予備知識無しで観たものがほとんど。調べれば情報は出てきますが、自らの感覚で選んだり興味を持ったりすることも大切な気がします。

今回の映画祭では、空音央(そら・ねお)監督によるオープニング作品『Ryuichi Sakamoto | Opus』に始まり、クロージング作品『リスト』までを含む全8作品を鑑賞しました。私の場合、いわゆる受賞作品はほとんど観ておらず、戦争と音楽にかんする作品を多く選んでいたようです(以下、鑑賞作品リスト)。

『Ryuichi Sakamoto | Opus』(監督:空音央/日本/2023)
『クレイジー』(監督:エディ・ホニグマン/オランダ/1999)
『ブリング・ミンヨー・バック!』(監督:森脇由二/日本/2022)
『東部戦線』(監督:ヴィタリー・マンスキー、イェウヘン・ティタレンコ/ラトビア、ウクライナ、チェコ、アメリカ/2023)
『どうすればよかったか?』(監督:藤野知明/日本/2023)
『言葉の力|火の娘たち』(監督:ジャン=リュック・ゴダール/フランス/1988|監督:ペドロ・コスタ/ポルトガル/2023)
『絶唱浪曲ストーリー』(監督:川上アチカ/日本/2023)
『リスト』(監督:ハナ・マフマルバフ/イギリス/2023)

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写真左上から時計回りに_山形市中央公民館ホール(6F)で行われた開会式の様子。右上_左から、認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭理事長・伊藤光一郎氏、オープニング上映作品『Ryuichi Sakamoto | Opus』の監督であり、2023年3月に逝去した音楽家・坂本龍一氏の息子の空音央氏、山形市長・佐藤孝弘氏。右下_表彰式での集合写真。左下_『どうすればよかったか?』藤野知明監督による上映後トークショー(提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)。
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鑑賞作品の中でとくに印象に残っているのは、藤野智明監督の『どうすればよかったか?』。20年以上にわたり統合失調症の姉とその家族の葛藤を記録している。タイトルが迫ってくる作品だった(提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)。

初日の開会式と最終日前日の表彰式は、いずれも入場無料。各作品の上映前後に行われる監督や司会の挨拶は日英通訳がつき、式典には手話通訳も加わります。開催期間中は近隣の託児室(要事前登録・予約)も利用できるので、小さいお子さんがいる方でも映画を楽しむことができます。多様な作品を上映すると同時に、多様な鑑賞者を想定した配慮があるということも知りました。

体感として、“浴びるように”映画を観た1週間だったけれど、まだまだ観たい作品がたくさんありました。ドキュメンタリーといってもその視点や表現の形はじつにさまざまで、観れば観るほど世界が広がっていくのも大きな魅力であり、奥深さであると実感しました。

映画祭関係者の方と話す機会があり、前述にある私の映画祭にまつわるエピソードを話したところ、「その“ポカン”も大切な気がします」という言葉が返ってきました。まさにその通りで、この体験があったからこそ自分の中に記憶として刻まれ、10数年経ってこうして再び参加することができたのです。当時の“わからなかった”という体験が、結果的に今の自分につながっています。

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山形駅西口すぐの、やまぎん県民ホール前に大きなスクリーンを設営して行われた『ブリング・ミンヨー・バック!』の野外上映の様子(提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭)。

日常と非日常が交差する風景と
山形の街と共にある特別な映画体験

山形市内には5つの会場があり、8スクリーンに分かれ上映されます。会場間の移動はほとんど徒歩でしたが、コミュニティサイクルや循環バスも便利です。地元の人であれば交通手段は車がほとんどかと思います。ただ、ご高齢の方や体が不自由な方でなければ、この期間はぜひ街を歩いてみてください。あくまでも私の考えですが、映画を観終わったあとには「ぼんやり」する時間があったほうが良いと思うからです。鑑賞後の余韻というか、ただ歩くという時間や1杯のコーヒーを飲むといった時間が映画体験をさらに深めてくれるはずです。

10月の山形は過ごしやすい季節。ちょうどいいサイズ感のエリアなので街歩きを楽しめます。県外から訪れる人であれば、芋煮をはじめとした郷土料理を味わうのもおすすめです。YIDFFにおけるフードイベントも豊富で、3連休中に開催された「ドキュ山マルシェ」のほか、だれでも参加可能な映画祭ゲストとファンの交流の場「新・香味庵クラブ」といったものもありました。

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「山形国際ドキュメンタリー映画祭2023」会場マップ。こうして見ると、山形市の街中にはアイコンとなる建物が多いことを実感。Illustration:Yuika Kato(@yuikakatc

映画祭期間中、住んでいる人にとっての日常と、この期間だけのちょっとした非日常が交差する街の様子もなかなかおもしろいなと思います。たとえば、上映前にある喫茶店へ立ち寄ったときのこと。奥の席には外国の方と日本の方の4人組。そのうちの一人が明らかに監督っぽく、何やらものすごい勢いで話しています。カウンター席の人は例の黄色い紙にペンで何か書き込んでいます。すると常連と思われるおじさんが入店。黄色い紙は持っておらず、静かに新聞を読んだりお店の人と会話したりしています。こんな風景もまた、この映画祭ならではといった感じがするのでした。

【EVENT REPORT】山形国際ドキュメンタリー映画祭2023|浴びるように映画を観て、街を歩いた1週間。
七日町にある喫茶店〈煉瓦家〉にて、鑑賞後の1杯のコーヒー。映画祭期間中は、市内にあるお店の存在と協力がなくてはならないものになっている。

Information
山形国際ドキュメンタリー映画祭公式サイト
https://www.yidff.jp/home.html

スライドショーで振り返る|山形国際ドキュメンタリー映画祭2023
https://www.youtube.com/watch?v=_MWn7QqMol8