real local 湘南酒と共に文化を育む。湘南唯一の酒蔵「熊澤酒造」 - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【店】

酒と共に文化を育む。湘南唯一の酒蔵「熊澤酒造」

2025.05.10

湘南唯一の酒蔵「熊澤酒造」は、明治5年の創業。150年以上茅ヶ崎市香川の地で酒を造り続けています。本社敷地内には酒蔵だけでなく、レストランやベーカリー、ショップやギャラリーもあります。また、茅ヶ崎ではたらき、暮らす人たちのための地域に根ざした保育園「ちがさき・もあな保育園」や、お酒の原料であるお米を栽培し、茅ヶ崎の原風景を取り戻すことを目指した「酒米プロジェクト」。暮らしをちょっとだけ楽しくする をテーマとした「暮らしの教室」など様々な活動をされています。酒蔵でありながら、色々な方が集い、地域文化を育む中心地となっている「熊澤酒造」。今回は六代目蔵元、代表取締役の熊澤 茂吉さんにお話を伺いました。

酒と共に文化を育む。湘南唯一の酒蔵「熊澤酒造」

熊澤酒造の仕事

基本的には「酒屋が酒をつくって販売する」その範囲内で事業をしています。お酒を作るのにはお米も必要。だから農業をしてお米をつくりますし、造ったお酒をお客さんに届けるために直売所や飲食店を運営しています。一見様々なことをやっているように見えるかもしれませんが、「酒を作って売る」という一つの営みをしていると思っています。

酒と共に文化を育む。湘南唯一の酒蔵「熊澤酒造」
香川にある本社入口。中には自然の溢れる空間の中に、酒蔵、レストラン、ベーカリー、ギャラリーが並びます。

木々の様に、折れた分だけ強くなる

我々の特徴かもしれませんが、なにか大きな危機が訪れたとき、生き延びるために新たなアイデアが生まれ、面白いことが起こるんです。僕が入社した時も倒産の危機にありましたが、そんな時に今の主力となっているビールが生まれました。

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蔵元直売所地下室には湘南ビールを筆頭に、大仏ビール、妻ビールなど思わず手に取ってみたくなる銘柄がずらり。

飲酒運転の厳罰化等と共に酒類の売り上げが伸び悩んでしまった時も、ビールの酵母を生かしてパンづくりをはじめました。なので、コロナ禍も僕にとっては「チャンスだ!」と思い、新たな取り組みとして酒の原料である米を作るために農業を始めましたし、蒸留という手段を使って、ジンやウィスキーにも力を入れました。逆境を乗り越えたからこそより強くなる。枝葉が折れた分だけ成長していく木々と同じかもしれませんね。

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ベーカリーに並ぶ焼きたてのパンは開店直後から次々と手に取られていきました。
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蒸溜によって作られたジン
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有料広告を出さないという会社の方針の中、自社のものを自分たちで発信するために定期発刊されたフリーペーパー「熊澤通信」もコロナ禍を機に誕生しました。

基本は「歴史」をなぞらえる

我々の事業は新しいことをしているように見えるかもしれませんが、僕自身はゼロから一を生み出す能力は弱いと思っています。逆に、過去の忘れられたものを掘り起こしてもう一回やるのは得意です。調べてみると百年ほど前に焼酎を製造していたこともわかりました。先ほどお話ししたジンやウィスキーなどの蒸留酒も、実は百年ぶりの復活だったわけです。

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蒸留して作られたウィスキー
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敷地内にはウィスキーの熟成倉庫も
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敷地内にあるギャラリー、ショップ「okeba」。もともとの桶作りの場所だったところを「モノづくりの場」という、歴史をなぞらえてオープンされています

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祖母に聞くとその昔、酒を買いに来たお客さんがその場で飲み始めて、結局夜な夜な宴会になっていって、そこで我々がつまみを用意したり、締めのお茶も自分たちで栽培したりしていたそうです。そう考えるとレストラン事業も、すでにやっていたわけです。どの事業も新しく見えても、実は先代の歴史をたどっているものが多いです。
他にも調べたらアイスクリームの機械が出てきたりして。歴代の当主が過去に色々なチャレンジや失敗をしてきたからこそ今があるのだと感じています。

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mokichi caféにていただいた「リンゴと酒粕チーズケーキ」と「熟成粕ココア」

「それは湘南唯一の蔵元としてやるべきかどうか」

その事業をやるかやらないかは、「湘南唯一の蔵元としてやるべきかどうか」という基準で決めています。鎌倉市長谷にある文化財、旧神奈川県鎌倉加圧ポンプ所を舞台にしたレストラン(MOKICHI KAMAKURA)もそうでした。あの場所の歴史をたどってみると、鎌倉は昔から水資源がなく、国を挙げて水を引こうという政策があり、このポンプ所を基点にポンプアップした水が湘南地域へ送られていたそうです。この水源から湘南文化が生まれていったということを知り、我々としては「守るべき場所だ」と思い、ここでの事業にチャレンジしました。

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本社敷地内には水を汲み上げるための井戸も残されていて、歴史を感じることができます
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本社敷地内の中庭には大きなメタセコイアの木も

ポンプ所の後は地域の体育館として親しまれていた場所でもあったので、まちの方から「思い出の場所をより良い形で残してくれてありがとう」という声もいただき、とても嬉しかったです。
湘南の歴史を知り、大事にしようと思う人たちがいれば湘南らしさというのは残っていくように思います。
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さまざまな形で暮らしに寄り添う場所

長年事業をやっていく中で、熊澤酒造は様々な方の暮らしの一部になってきたなと感じています。
スタッフも地元の方をはじめ、さまざまな方が働いてくれています。移住をしてこのお店を見つけて働き始める方もいれば、最近は幼い頃から両親に連れてきてもらっていて、いつかここで働くことが夢だったという若い方も増えています。そういう方が入社してくれるのはとても嬉しいですね。中には親子で働いている方もいます。

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2018年からは、「ちがさき・もあな保育園」プロジェクトも行っています。NPO法人「もあなキッズ自然楽校」理事長の関山隆一さんとともに、「森のようちえん」のスタイルで運営する企業主導型保育園です。最初は「保育園がみつからず子供を預けられない」というスタッフの声から始まりましたが、現在は関連企業のお子さんだけでなく、地元の方も多く通ってくれています。中には朝子供を送りに来て、カフェでリモートワークをして、帰りにまたお迎えに行く方もいます。お客さん同士が親しくなっているシーンも見かけるようになりました。

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mokichi café店内は広々とした空間。取材当日もお仕事をされている方がいました

日々の暮らしの中に新たなヒントを得るためのきっかけとして、「暮らしの教室」も開催しています。私を含めた湘南地域で「場」を運営する4人が手を組みそれぞれ運営している4会場で開催しているのですが、各々が気になるテーマのゲストを呼び、話を聞くという会で、ゲストはもちろん、参加者としてお越しいただく方もバラエティに富んでいます。
今までに累計140回以上開催をしていますが、暮らしの教室をきっかけにお店のことを知り、常連さんになった方もいます。普段は出会わないであろう様々な方が集まり、その交流からも新たなヒントが生まれていると感じています。

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地元野菜の直売する「モキチグリーンマーケット」は定休日の火曜日以外毎日行われています

これからに向けて

新しい事業をはじめるときなど、「これからのこと」を考えるときには50年~100年ぐらいのスパンで考えるようにしています。お店ひとつにしても、それが50年後、100年後どうなっているか、そう考えてみると間違ったことはやらない気がしています。

ありがたいことに今まで飲食店は閉店がありません。長い時間軸の中で考えて、丁寧につくりあげていけばどんな環境であっても、可能性はあるのではないかと思っています。
ここに酒蔵があることで、暮らしが豊かになり、独特の文化が生まれていく。酒を作ることは常に文化と共にあると思います。

酒と共に文化を育む。湘南唯一の酒蔵「熊澤酒造」

URL

https://kumazawa.jp

住所

〒253-0082
神奈川県茅ヶ崎市香川7-10-7(MAP

営業時間

レストラン・ショップ情報をご覧ください
https://kumazawa.jp/mokichi/

アクセス

https://kumazawa.jp/mokichi/access/

名称

熊澤酒造

業種

酒類製造販売、飲食店等