real local 大阪「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは - reallocal|移住やローカルまちづくりに興味がある人のためのサイト【インタビュー】

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは

インタビュー
2025.05.27

カフェや飲食店に入ったとき「なんとなくこの席が落ち着く」と感じた経験が誰しもあると思います。それは一体なぜなのか……。どんな要素がそう感じさせているのでしょうか。
大阪府池田市にある古民家カフェを舞台に「なぜその席を選んだのか」を訪れるゲストに問いかけながら、居心地の良い空間づくりについての研究が行われました。
カフェの開業を考えている方も、ぜひお店づくりの参考にしてみてください。

 

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
大阪公立大学の学生によるプロジェクト。和室を生かしたカフェ空間についてゲストの声をもとに研究が行われた。

 

研究の舞台は“昭和初期建築の洋館付き住宅”

今回の研究が行われたのは池田市にある薬膳カフェ「MANA HOUSE」。薬膳食材を使った料理や薬膳茶の提供、物販も行っているカフェです。

このカフェが営まれている建物は昭和初期に建てられた洋館付き住宅で、大阪R不動産により入居者募集が行われていた賃貸物件でもあります。

研究が始まるきっかけとなったのは、この物件に入居した小説家・松宮宏さんからのお声がけだったそうです。

 
「研究室で行っている長屋プロジェクトに松宮さんが参加してくださったこともあり、以前から交流がありました。そんななか『池田市の古民家で薬膳カフェを開きたいので、研究室の学生にカフェのしつらえをお願いしたい』とお声がけをいただき、研究室内の 4 人で参加させていただくことになりました。」

 

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
大阪R不動産で入居者募集を行っていた昭和初期建築の洋館付き住宅。

*リノベーションの企画・設計施工はアートアンドクラフト。詳細はこちら▷暮らしや夢に彩りを|池田の洋館付住宅

 

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
研究に参加した大阪公立大学 居住空間設計学研究室の学生たち。左から中井愛子さん、才賀咲花さん、岩村樹花さん、林幹太さん。

 

ポイントは 「どの場所にいても居心地が良い&多焦点空間」という考え方

古民家をカフェへと改装する事例は、近年よく見られるようになりました。この建物も、もともとは住宅として建てられたもの。住まいとして使われていた空間を “居心地の良い”カフェへと生まれ変わらせるために、どのような工夫が必要だったのでしょうか。


「『MANA HOUSE』の客席は二間続きの和室空間です。2室の和室をひとつの空間にしてカフェスペースとして活用にすることは、当初からご相談いただいていました。」

「実際に現地を確認してみると『襖を取り払っても奥の和室が暗いこと』『二つの和室で格式に差があること』といった課題が見えてきました。」

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
縁側に面した和室は彩光がよく明るさを確保しやすいのに対し、隣の和室は仕切りの襖を取り払っても自然光が届きにくく、室内の明るさに差が生じてしまう。
「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
手前の和室には床の間や違い棚といったしつらえが施されているが、奥の和室には押入れしかなく庭も見えにくい。二つの和室の間には空間の「格式の差」が感じられる。


「まず、室内の明るさを均一にするため照明を増やすことから始めました。フロアライト、ペンダントライト、スタンドライトの3種類を各所に取り入れ、和室の空間に調和するように和歌山県の工房でつくられた和紙のシェードを採用しました。」

 

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
手漉き和紙 工房あせりな(和歌山県海草郡紀美野町)の和紙でつくられた照明のシェード。

 

「次に格式の差を和らげるために、庭が見えない方の和室に“アイキャッチ”となる場所を設けることにしました。」

「押入れだった部分の襖を取り外し、アート作品などを飾るディスプレイスペースとして活用することにしました。ルーバー状の格子の取り付けなどは、自分たちでDIY施工を行いました」

 

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
もともと押入れだった場所を活用したディスプレイスペースには、入居者である松宮宏さんの小説や知人のアーティストによる作品が展示されている。
「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
賃貸物件であることから後々取り外しが容易にできるように、ルーバー状の格子に棚板を差し込むだけのシンプルな構造にしてある。

 

和室×座席配置。多様な人の居心地をどうつくる?

床材については、カフェに改装する際に畳からフローリングなど別の素材に変更されることも多いなか、「MANA HOUSE」の客席には和室本来の畳がそのまま使われています。一方で、カフェの利用者は年齢層も幅広く、多様なニーズに応える必要がありました。

「年齢層の高い方にはイス座の需要が高いのですが、ユカ座も和室ならではの体験として好む人や、イスに座れない幼児を連れた人に選ばれる傾向にあります。どちらの座席も共存することが望ましいと考えました。」

今回の研究では、イス座とユカ座が混在することで座席選択にどのような影響があるのかをアンケート調査によって分析し、古民家カフェにおける「和室という空間」に適したイス座とユカ座の組み合わせ方が明らかにされました。

 

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
研究過程でのイス座とユカ座を混在させた客席。
「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
イス座とユカ座の混ぜ方が異なる4パターンの座席配置で、計4回アンケート調査を実施。各回の座席配置は前の座席配置の調査結果を反映し、その都度変更が行われた。

 

「4回の調査を行うなかで、どの座席配置でもユカ座よりイス座の選択割合が多いことがわかりました。しかし床の間などがある格式の高い和室をユカ座、隣の和室をイス座とすると、ユカ座の選択割合が多くなる傾向が見られました。」

「また同じ部屋の中にイス座とユカ座を混ぜると、ユカ座の選択割合がかなり少なくなることが分かりました。」

「研究結果からイス座とユカ座を共存させる際のポイントとして、①座席の密度を低くし部屋ごとに分けること②格式の高さに合わせてイス座とユカ座を配置することが、どちらの座席様式も選択される重要な操作であると結論づけました。」

 

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
「MANA HOUSE」で行われた研究発表会では、カフェに訪れていたゲストたちも発表内容に頷きながら耳を傾けている様子が印象的だった。

カフェに設置しているテーブルとイスについては、最初はテーブルを40㎝、イスを20㎝の高さにしていましたが『ランチの薬膳カレーを食べる際に低くてしんどい』というお声を何回かいただき、テーブルだけ9㎝の嵩上げを行い49㎝にしました。」

 

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
「MANA HOUSE」しつらえ計画プロジェクトの活動内容。
「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
小さな和紙の照明が吊るされたエントランス横の飾り棚。
「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
ガーデンチェアは今回のプロジェクトで学生たちが製作したもの。座面はなんと、洗面器を型として成形したモルタル製。

 

研究成果をぜひ「体感」してみてください

試行錯誤を重ねて丁寧につくられた「MANA HOUSE」の空間には、さまざまな研究の成果が詰まっています。今回の取り組みはこれからカフェを開業しようと考えている方にとっても、きっと多くのヒントになるはずです。

「和室といえばユカ座のイメージが強いですが、今回の研究を通してイス座の空間としても十分に受け入れられてきていると感じました。カフェをつくる際の空間づくり、イス座とユカ座のバランスの取り方など、ぜひ参考にしていただけたら嬉しいです。」

「また『今、自宅の和室は物置になっている……』という方も、もう一度和室の魅力を見直すきっかけにしてもらえたら嬉しいです。」

 

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは
研究を繰り返しながら丁寧につくられたしつらえが“居心地の良さ”を生み出している。研究成果がお店づくりのヒントになれば幸いです。

研究に興味を持ってくださった方、カフェ開業を考えている方、暮らしの中の和室を見直したい方も、ぜひ「MANA HOUSE」で研究成果を体感してみてください。

名称

薬膳カフェ「MANA HOUSE(マナハウス)」

URL

Instagram  https://www.instagram.com/manahouse_ikeda/ 

住所

大阪府池田市室町1-24

営業時間

水・木・金・土曜10:00~16:00(ランチタイム11:00~14:00)

定休日

日・月・火曜

アクセス

阪急宝塚線「池田」駅 徒歩4分

備考

イベントやワークショップ開催日をInstagramにてご案内しています

「なぜそこに座ろうと思ったのですか?」心理に問いかけ導き出した“居心地の良さ”とは