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【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん

インタビュー
2025.11.26

南九州市川辺町を拠点に農産物の生産・加工から販売までを一貫して行っている「有限会社エスランドル」(以下:エスランドル )。「食の可能性を探求し、お客様に感動をお届けします」を経営理念とし、野菜の特徴を最大限に引き出す加工技術でさまざまな商品を開発しつつ、OEMなど幅広く事業展開しています。代表取締役の上釜勝さん、専務取締役の上釜文子さんに今までの背景を辿りながら、新しくスタートするコンサル事業に対する想いを聞きました。

【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん
画像提供:有限会社エスランドル 会社ロゴマーク

時代を見極め、一つの道を探求していくために下した決断

勝さんは加世田(南さつま市)出身で、会社員として働きながら「らっきょう」と「かぼちゃ」を育てる兼業農家のお父さんの背中を見ながら育ってきました。中学時代から古い建物に興味を抱き、高校卒業後は県外の学校で建築デザインを本格的に学ぶことになります。社会人になってからは東京を中心に建築の世界へ。特に店舗を中心にした建築デザインをメインに、実績を重ねていきます。当時のことを勝さんはこう振り返ります。

「建築デザインだけでなく、実際に大工の現場で大工作業もしていました。昔から気になることがあれば探求心が出る性格でして。そのためか、大工を含む職人さんたちには可愛がってもらいました。」

「店舗工事の現場は夜間に行うことも多く、寝る間を惜しんで作業に夢中になっていたのを覚えています。お客様に店舗を引き渡す際の喜ぶ顔を想像しながら作業するのが何よりも楽しくて、その感覚は今の自分に大きくつながっていると思います。」

【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん
写真提供:有限会社エスランドル 上釜勝さん

仕事が順調に思えた矢先、お父さんが体調を崩したことをきっかけに、2001年のタイミングで鹿児島へUターンし、建築士として独立します。建築デザインの仕事を続けつつ、他分野のつながりも広げ、その中で文子さんと出会い、結婚。そして、2004年に家業を継ぐ決意をし、建築デザインと農家を兼業した会社「有限会社エスランドルデザイン事務所」(拠点:鹿児島市)を立ち上げたのです。

しかし、兼業農家の厳しい現実を知るお父さんはその決断に大反対だったのだとか。2006年頃からは建築デザインの需要が減少していると感じ、さらにリーマンショックといった世界的不況の中で、ある答えを導き出したのです。それは「農業の道を歩む」ことでした。

「建築士の仕事を一旦休み、ゼロから農家として学び直すことにしました。周囲からは驚きと心配の声が多かったです。“そんなに甘い世界じゃない!”“建築の世界から抜けてうまくいくはずがない!”と。でも、このままだと何もかもが中途半端になり、どちらの世界でも生き残っていくのが難しいと感じたことから導き出した答えでした。」

【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん
写真提供:有限会社エスランドル 上釜文子さん

失敗を糧に、動き続けたからこそ生み出される良質なモノ

「元々、父の代までは農産物はJAなどを通して市場に卸していたのですが、妻が友人にかぼちゃをプレゼントしたときの反響が大きかったのもあり、小売店に直接販売する戦略に切り替えることにしたんです。」

そこで、まず行ったのが商標登録。元々育てていたかぼちゃとらっきょうを「極利かぼちゃ」「白宝らっきょう」として商標を取得し、販路を拡げていくことになります。特に、極利かぼちゃは1ツルに1果残しの露地栽培にすることで、メロンと同じ糖度になるため、そこにかかる手間暇かかった経費なども価値に含め、市場の2~3倍の値でバイヤーにアプローチしたといいます。

文子さんとともにスーパーや百貨店にて試食販売を行い、消費者やバイヤーへの対面コミュニケーションを欠かさなかったのだとか。そこから多くのファンが愛され、都市部の百貨店でも取り扱いが増えていく商品となっていったのです。

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写真提供:有限会社エスランドル 極利かぼちゃ
【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん
写真提供:有限会社エスランドル 白宝らっきょう

しかし、順調と思える中でも課題も浮き彫りになってきます。百貨店に卸す場合、スーパーと違い、保管場所が少なく少量しか送付できないため、自分たちが大量のかぼちゃを保管する必要があったのです。さらに、2008年にはゲリラ豪雨に見舞われ、約1000玉のかぼちゃを処分しないといけない事態に直面。そこから次のステップへ進むことになります。

「一つひとつ手間暇かけて育てたかぼちゃを大量に捨てたときは悔しい気持ちでいっぱいで、あの感覚はずっと忘れられません。だからこそ、同じ経験を二度としないために加工技術を学ぶことにしました。」

その後、鹿児島農業大学校や鹿児島加工研究指導センターへ通いながら、加工を一から学び、婦人会が使う加工場にて独自の加工技術を磨くなど試行錯誤を繰り返す日々が続きます。そして、味のバラつきなど失敗から得る学びを積み重ね、人工甘味料や合成保存料などの添加物を一切使わないオリジナルの漬け液をつくり、それまでのイメージを払拭するらっきょう漬けが誕生することになります。それが2008年の鹿児島県新加工品食品コンクールでは県知事賞を受賞したのを機に、食品加工事業の道筋が見え始めてきたのです。

【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん
写真提供:有限会社エスランドル 白宝らっきょう漬物

2010年からは拠点を南九州市川辺町へ移した後、会社名を「有限会社エスランドル」に変更し、食品加工場を新設することに。当時、野菜の加工はベーストやビューレが主流で冷凍保管が必要だった背景から、その中で乾燥加工に着目したといいます。

そこで同じように生野菜の販売の難しさを味わっている他の農家から一部青果を買い取り、完全無添加の乾燥加工にチャレンジするようになったのだとか。営業に苦労しつつも、都内のスイーツ屋から高い評価をいただき「農産加工の会社」としての評判が広がり、OEM(※1)の相談がくるようになったそうです。

「その当時は約35品目販売しており、毎日製造ラインを変えて稼働し、さらに食品在庫を抱えるリスクもあったので、一度整理をしました。そこで気づいたのが、それまで多様な品種の対応をしてきたノウハウを活かせるのがOEMだったということ。そこから、モノを売るだけではなく、技術を売る方向にも動き出しました。」

「大事にしているのは品質だけではありません。お客様とのやりとりにも重きを置いています。ある原料の風味をどのように出していくかを一つ考えていくにも、細かくお客様の要望や気持ちをヒアリングするようにしています。心の通ったキャッチボールをすることで、単なる加工業者ではない、良い関係性が生まれ、ご納得いただく商品開発につながっていくのではないか。そんな想いでお客様と向き合っています。」

(※1)他社ブランドの製品を製造すること。

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写真提供:有限会社エスランドル 会社外観
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写真提供:有限会社エスランドル 農産物パウダー
【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん
写真提供:有限会社エスランドル 農産物乾燥物
【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん
写真提供:有限会社エスランドル ジンパリ

領域を超え、お互いに価値を認め合い、ともに成長できるような橋渡し役に

2017年からは鹿児島大学と連携し、らっきょうの栄養成分などの共同研究を行っています。その結果、らっきょうの水溶性食物繊維「フラクタン」に新構造が発見され(※2)、先日その論文が公開されたといいます。

「らっきょうは体に良いと昔から言われ続けてきましたが、その根拠が曖昧だったので、それが課題でした。しっかりとした根拠があることで、らっきょうの可能性も広げられますし、販路拡大にもつながります。今後は海外への展開も考えています。」

(※2)新構造は腸内で分解されにくく、奥部まで持続的に届く可能性が示唆。スーパーフードとしての科学的根拠が示されたという。

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写真提供:有限会社エスランドル 鹿児島大学との研究成果発表会の様子

また、新型コロナが蔓延した2020年以降、他農業者や販売会社、他の得意分野のある加工会社などとの連携に力を入れているそうです。

その一つが、知覧茶農家の荒茶を活用し、茶商(※3)と連携した商品開発です。大手コンビニエンスストアで「知覧茶どら」が発売され、瞬く間に人気商品になったのだとか。このような業種を超えた取り組みがきっかけで、新たな商品開発などの相談も増えてきているといいます。

「2019年にさまざまな得意を持つ企業さんに“今後一緒に何かできないか?”と声をかけて回っていたんです。普段はライバル関係かもしれませんが、今の時代、何があるかわかりません。そんな時にお互いの得意を持ち寄ることで、新しい何かを生み出せるのではないかという考えからの動きでした。結果、新型コロナという大変な時期も助け合いながら、ともに乗り越えることができました。」

「知覧茶どらが発売されたときは川辺のコンビニに行列ができてびっくりしました。聞けば、地域の方やお茶農家の皆さん、市役所の皆さんが声かけをしてくれていたみたいでして。実際に商品が売れている光景を見てくれたことで、お茶農家さんのモチベーションアップにもつながったと思います。」

「より良い商品を開発していくことと同時に、そのことが日本の農業の発展につながる“橋渡し役”となれることを常に意識しています。会社名であるエスランドルはフランス語の造語で“希望に向かう”という意味があり、商品だけでなく、人とのつながりを大切にし、パートナー企業・事業者とお互いに価値を認め合い、手を取り合ってともに成長したいというのが当社の経営理念であり、ビジョンでもあります。それがこの21年で少しずつ体現できていると実感しています。」

(※3)摘んだばかりの茶葉を蒸したり揉んだりして乾燥させたお茶の一次加工品のこと。まだ茎や粉、硬い葉などが混ざった状態の「半製品」であり、一般的に普段飲まれるカタチの整った「仕上げ茶」とは異なる。課題として、生産者の高齢化と担い手不足による生産量の減少、国内消費の低迷(特に急須用のお茶)、そして、それらに伴う荒茶価格の低迷が挙げられる。

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写真提供:有限会社エスランドル 知覧茶生どら
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写真提供:有限会社エスランドル 他にもコラボした商品がいくつもあるのだとか

遠回りの中で探究したものを誰かの糧に

エスランドルとして今年から小さな食品会社のそばで寄り添いながら進める現場伴走コンサルティング「Hope&Table」を始めたという勝さんと文子さん。その背景を次のように力強く語ります。

「農業の道を歩み始めて21年。たくさん失敗しましたし、たくさん遠回りをしてきました。“もっと早く、もっとスマートにできたこともあるのでは?”と思うこともあります。でも、その遠回りが私たちにとっては良い経験でしたし、それを挑戦する誰かの糧になればと思うようになったんです。」(勝さん)

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写真提供:有限会社エスランドル

「食品加工事業を始めた最初の10年は苦労ばかりでした。単に商品をつくればいいわけではなく、その先の流通やルールなど考えないといけないことはたくさんあります。それらを知らなかったからこそ遠回りをしたんだと痛感しています。自社の強固な基盤を築けたのは、積み上げてきたデータと科学的な根拠があったからです。その知識を自分たちだけのものにせず、広く共有していくことで、仲間とともにより良い食品づくりの輪が広がり、食を支える人たちの力になれると信じています。(文子さん)

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写真提供:有限会社エスランドル

テーマは「食の未来を共に育てる  ― 安心 × 魅力 × 売れる ― 」。

食品づくりには、「安心して食べられる品質」「お客様に伝わる魅力」「しっかり売れ続ける仕組み」がそろって初めて、本当の価値が生まれると二人は語ります。

その上で、以下の3つのプランを提案していくのだとか。

●プラン1:見える化スタート
在庫の現金化や固定費の見直しなど、まずは“今ある資源で現金を生む”ところからサポート。理念づくりや社内コミュニケーションの整理も行い、会社の安心の土台を整えます。

●プラン2:品質×ブランド実践
pHや水分活性などの品質管理を、日々の現場で使える形で習得。商品の魅力をまとめる「魔法のカルテ」を作り、商談やSNSでも伝わる商品へ育てます。

●プラン3:飛躍!ブランド構築
品質・販路・SNS・AI・補助金支援を一年かけて整え、無理なく売上が伸びる“売れる仕組み”のある会社へ導きます。

【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん
画像提供:有限会社エスランドル

21年の変遷を経て、新しくコンサル事業を展開する二人にはずっとブレない「探究心」が根底にあり、その周囲に少しずつ喜びや幸せが広がってきているように感じます。最後に今後の展望について聞きました。

「このままでは日本の食文化が失われてしまうのではないかという危機感を感じています。その危機感もコンサル事業を展開しようと思った一つの理由です。農業をしていても誰でもきちんと誰でも稼げる仕組みを発信し、農産物の価値を高めていくことが結果として、日本の食文化を守ることにつながると思っています。タッグを組んだ人たちが今後どのように変化していくのか楽しみでしかありません。」(勝さん)

「気候変動や人口減少、戦争など世界中の人々が未だ経験したことのない未知の時代に突入する中で、そこにどのような可能性があるか探究し続けること、チャレンジしていく勇気をもつこと、学び続けることは私たち二人にとってずっと変わらない軸だと思います。失敗しても無駄ではありません。そこをどうクリアしていくかが大事なので、その気持ちを忘れないようにしたいです。」(文子さん)

【鹿児島県南九州市】農業の発展につながる橋渡し役として、食の可能性を探究し、希望の道筋をともに見出す / 有限会社エスランドル 上釜勝さん・文子さん
写真提供:有限会社エスランドル
屋号

有限会社エスランドル

URL

https://esrendre-foods.jp/

住所

鹿児島県南九州市川辺町田部田5329-2