小さな相談から、信頼を重ねて生まれた二人の場所 / KATATSUMURI BASE
鹿児島・宮崎を中心に空間デザインや住宅リノベーションなどを手掛ける株式会社ナインズ。今回訪れたのは、同社がご両親の住まいをガレージへと再生した「KATATSUMURI BASE」です。施主である上村さんご夫妻に、ナインズとの出会いから信頼関係を育み、二人のための場所が生まれるまでを伺いました。
「ここのつ」から始まった、ナインズとの出会い
上村さんご夫妻とナインズとの出会いは、美山にある「cocoNotsu(ここのつ)」(運営:ナインズ)でした。
もともとカフェなどを巡ることが好きで、美山にもよく足を運んでいたというご夫妻。
「ここのつ」がオープンしたと聞き、初めて訪れた時のことを、上村さんはこう振り返ります。
「空間のデザインやお店の雰囲気など、すごく好みだったんです。二人で『とても魅力的だね』と口を揃えて盛り上がったのを覚えています」
そこで、ナインズ代表の筒井敏郎さんとも言葉を交わしました。
空間を気に入ったことはもちろん、直接話をしたことで、上村さんの中には一つの感覚が生まれます。
「この空間をつくり出した人たちだったら、私たちの求めている感覚と合うんだろうなと思ったんです」
この時点では、KATATSUMURI BASEをつくる計画があったわけではありません。
当時、ご夫妻が考えていたのは、ご主人が薩摩川内市で運営するクリニックにまつわる新しい空間についてでした。
その構想を筒井さんに話したことをきっかけに、ナインズとのやりとりが始まっていきます。
その中で、上村さんの記憶に残っていた言葉があります。
「最初にお会いした時に、筒井さんが『小さな仕事でもやりますので、何でもご相談くださいね』とおっしゃってくださったんです。そのときのやりとりを鮮明に覚えています」
その言葉があったからこそ、その後は自宅のトイレや、クリニックのキッズスペースなどについても相談するようになりました。
また、さまざまな理由で実現には至らなかった相談でも、ナインズは現地を確認し、実現できる方法を検討してくれたといいます。
一つの大きな仕事から始まった関係ではありません。
「ここのつ」で感じた「この人たちなら感性が合いそう」という直感。
そこから一つひとつ相談を重ねる中で、上村さんご夫妻とナインズとの関係が少しずつ築かれていきました。

両親が暮らしていた家を、これからの二人の場所へ
KATATSUMURI BASEとなった建物は、もともと上村さんのご両親が暮らしていた家でした。
約20年前、上村さんご夫妻が現在の自宅を建てる際、隣接する場所に建てられたといいます。
その後、暮らす人がいなくなり、家は空き家となりました。
家の中には、ご両親が使っていた家具や食器、手紙など、さまざまなものが残っていました。
庭にも、お父様が大切に育ててきた植物がありました。
これから、この家をどうしていくのか。
考えた末、ご夫妻はこの場所を自分たちで活用することを決めます。
相談相手として思い浮かんだのはナインズでした。
新たに誰かが暮らすための住宅にするのではなく、方向性は最初から決まっていました。
「ここは誰も住まずガレージとして活用し、二人で楽しめる空間にというのでお願いしました」
好きな車を置くことができる。
コーヒーを淹れて、二人でゆっくり過ごすことができる。
ご両親が暮らしていた家を、上村さんご夫妻が思い描く空間へ。
KATATSUMURI BASEの計画が動き始めました。

空間だけでなく、積み重ねられた思い出とも向き合う
リノベーションを始めるためには、まず家の中に残されたものを整理する必要がありました。
しかし、ご両親が使っていた家具や手紙、置物など、特に思い出のあるものを自分たちの手で整理することは簡単ではありませんでした。
上村さんは必要なものだけを取り出し、それ以外は家に残していました。
あとはまとめて処分されるのだろう。
そう思っていたといいます。
ところが、実際は違いました。
家の中に残されたものを、ナインズチームが一つひとつ仕分けていったのです。
「丁寧に全部仕分けして、売れるものはcocoNotsuの蚤の市で出品してもらったり。そこまでしてくださるとは想像していませんでした」
まだ使えるものは、次に使ってくれる人へ。
その中から、大切なものも確認しながら整理が進められました。
自分たちだけではなかなか手をつけられなかった家財を、一つひとつ確認しながら整理してくれたこと。
上村さんにとって、それは今回ナインズに依頼して特に良かったと感じたことの一つだったといいます。
家の中だけではありません。
庭にあった、お父様が大切にしていた植物の一部は、「ここのつ」の敷地内へ移植したというのです。


すべてをそのまま残すことはできない。
けれど、すべてをなくしてしまうわけでもない。
使えるものは次の人へ渡り、植物は新しい場所で育っていく。
KATATSUMURI BASEの空間づくりは、新しいデザインを考えるところからではなく、それまでこの場所にあったものと向き合うところから始まっていました。

完成形を決めず、現場を見ながら一緒につくる
家の中が整理され、本格的なリノベーションが始まります。
デザインや空間の使い方については、ナインズからの提案を取り入れながら計画が進んでいきました。
一方で、最初の計画をそのまま形にしていったわけではありません。
住宅をリノベーションする中では、工事を進めて初めて分かることもあります。
例えば、建物に残っていた柱。
取り除くことのできない柱も、空間の一部として生かすことで、以前ここが住宅だったことを感じさせない仕上がりになりました。

ガレージのシャッターについても、構造や空間の使い方を踏まえて配置を変更。
より広くスペースを確保できる位置に設けたことで、ガレージとして使いやすい空間へと整えていきました。


そして、工事の終盤には、ご夫妻から新たな希望が生まれます。
2階から、ガレージに置いた車を眺められるようにしたい。
工事がかなり進んだ段階で出てきた希望でしたが、ナインズチームは2階から1階を見下ろせるよう、ガラス窓を追加しました。


完成形を最初から決めきって、その通りにつくるだけではない。
実際の建物を見ながら、その場所にあるものをどう生かすのかを考える。
そして、途中で生まれた施主の希望にも向き合いながら、より良い形を探していく。
その過程では、現場を担当したナインズスタッフが、施主と設計、職人たちの間をつなぎながら、一つひとつの調整を進めていきました。
また、上村さんが完成後に印象に残ったことの一つが、実際に空間で使われたフローリングや壁・床のタイルなど、本物が持つ質感の心地よさでした。
図面だけでは分からない素材の表情や、現場での細かな調整。
その一つひとつが、現在のKATATSUMURI BASEを形づくっています。







小さな相談から、思い描いた未来へ
完成したKATATSUMURI BASEには、コーヒーを楽しむためのカウンターがあります。
完成後、ご夫妻はエスプレッソマシンを置き、好きな車を眺めながらコーヒーを楽しむようになりました。

誰かのための空間ではなく、自分たち二人で楽しむための場所です。
休日には、ここで一日ゆっくり過ごすこともあります。
時計は小さなものが一つ。
呼び鈴もなく、人目もほとんどありません。
窓を開ければ周囲には緑が広がり、ウグイスの声も聞こえてきます。
好きな車を眺め、コーヒーを飲みながら、時間を気にせず過ごす。
当初思い描いていた「二人で楽しめる空間」は、そんな日々の過ごし方へとつながっています。

取材の最後には、上村さんご夫妻から見たナインズについても伺いました。
KATATSUMURI BASEの完成後も、ご夫妻とナインズの関係はゆるやかに続いています。
今でもカフェを楽しんだり、美山を散策したりする中で「ここのつ」を訪れることがあるというご夫妻。
また、空間づくりなどに関して気になることがあれば、小さなことでもまずはナインズに相談してみる。
ご夫妻にとって、ナインズはそんな身近な相談相手になっています。
相談することで、解決の糸口が見つかったり、必要な人や方法につながったりすることもある。
何か困ったことがあった時、新しくやってみたいことが生まれた時。
まずは相談してみようと思える関係が、今も続いています。
「ここのつ」での出会いから始まった関係は、KATATSUMURI BASEという一つの空間をつくった先にも、続いています。

関連記事
【鹿児島県鹿児島市】みんなでつくる、その先に。地域文化と空間をデザインし、景色をのこす / 株式会社ナインズ 筒井敏郎さん
https://www.reallocal.jp/154101
| 屋号 | 株式会社ナインズ |
|---|---|
| URL | |
| 住所 | 鹿児島県鹿児島市城山町16-18 |
| 備考 | Mail |














