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「山形はデザインの化学反応が起こる場所」

現代美術家 原高史さん

2018.01.16
「山形はデザインの化学反応が起こる場所」
現代美術家・東北芸術工科大学デザイン工学部グラフィックデザイン学科教授 原高史さん

専門家のみなさんに山形の楽しみかたをうかがうシリーズ。

第四弾のゲストは、現代美術家で、東北芸術工科大学デザイン工学部グラフィックデザイン学科教授の原高史さんです。

ベルリン、ブラジル、キューバ、シンガポール、デンマーク、台北、香港、韓国など、世界中のビエンナーレやアートプロジェクトに携わってきた原さん。山形では、学生と一緒に地域と関わりながらデザインの活動に従事されています。

「山形はデザインの化学反応が起こる場所」
原さんの代表的なアート活動のひとつ「Signs of Memory」。地域の人々とのコミュニケーションを通して得た「ことば」をイラストと共にカラーパネルに描き、家々の窓の形に沿って貼るプロジェクト kenpoku2016

 
──今日はよろしくお願いします。山形には東京から毎週通われているということで、山形にはどんな印象がありますか?

もうずいぶんと山形に通っているのですが、まだまだ新しい発見がつきませんね。同じ日本なのに、まるで海外にいるような感覚というか。

特にここ数年で山形の市町村と一緒にプロジェクトをやる機会をいただき、地元の人や文化との関わりが増えてきました。新規事業やブランドの立ち上げに参加して、デザインやアートディレクションを行い、さらにそのプロジェクトを継続させる仕組みまでを考えることが多いです。

たとえば最近では、山形市に本社をかまえる老舗の呉服店〈とみひろ〉にデザイン室を立ち上げました。

大学との連携プロジェクトでは映像学科の今村直樹教授と共同演習で、養蚕文化をもう一度掘り起こすプロジェクトに取り組んでいます。「いとまきプロジェクト」として大学や東京の青山で展覧会を行ないました。

白鷹町を拠点に5つの蔵と広大な桑畑をつくって養蚕から仕立てまで一貫した着物づくりを進めていて、山形の自然や産業の歴史、文化について、学生と一緒に学んでいる最中です。地元の人との蜜なやりとりで、さらにじわじわと山形の魅力に引き込まれていきますね。

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山形ではグラフィックデザイン学科の先生たちと一緒に、山形の川や野池で、ルアーやフライフィッシングをする楽しみもあるそう

──山形でのデザインの活動にはどんな感触がありますか?

山形はいち個人のアイディアが形になりやすく、パッと思いついたことをすぐに実現しやすい場所だと感じます。

肩書きや経歴ばかりが問われることなく、ルールや縛りも少なく、個人で決められる範囲が広いです。若くても学生でも、いいものをつくれば社会から認めてもらえる。

その点でいうと、山形は海外と近い感覚がありますね。海外では年齢や肩書きは関係なく、「いいものはいい」ですから。これは地方のひとつの可能性かもしれません。

──「地方は未開拓なことが多く、チャンスも多い」と聞いたことがあります

うーん…それとはまた別の感覚なんですよ。

ここでデザインの仕事をしていると、自分の想像を超えた「意外なこと」が起きるんです。誰かが意図的に仕掛けるのではなく、学生、自分、地元企業や団体といった複数の要素が合わさって自然と起きる化学反応というか。そういった「反応」が起きやすい、とてもオーガニックな環境だと感じています。

「山形はデザインの化学反応が起こる場所」
原先生とグラフィックデザイン学科3年の原ゼミのみなさん

──これまでどんな反応が起きてきたのですか?

地元のプロバスケットボールチーム「山形ワイヴァンズ」に、4年前のチームの立ち上げから学生と一緒にアートディレクションとして参加しています。そのロゴを作成したとき、予想外なことが起きました。

まず学生がロゴを何十案もつくってプレゼンして、社長が「これがいい」とひとつを選びました。しかし、学生たちは若者の目線から別案を押したんです。

一般のデザイン事務所であれば、クライアントがいいと言ったものに反対することは基本ありません。しかし学生の意見にも説得力があったので、社長にその意見を柔軟に受け止めていただき、結果的にホームとアウェイでロゴをふたつ使い分けることになりました。

「山形はデザインの化学反応が起こる場所」
山形ワイヴァンズのホームロゴ(左)とアウェイロゴ(右)

チームにロゴが2つあるなんて極めて珍しいことで、ぼく一人では到底考えもつかなかったことです。ルールに縛られない、自由な表現や新しい解釈として、ひとつの可能性が見えましたね。実際にいま2つのロゴで運営されていますが、まったく問題がないどころか、おもしろいと注目していただくほどです。

山形ワイヴァンズの学生デザインチームは年々受け継がれ、これで4代目になります。毎月ワークショップをしたり、公式グッズの売上を次の施策やグッズづくりの材料費に当てたり、資金繰りも学生たちが主体となって考えています。

単発で終わらない、関係が続いていくプロジェクトに学生もぼくもやりがいやおもしろさを感じています。

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学生たちによるデザインチーム〈TEAM ASSIST〉による、山形ワイヴァンズのメガフォンワークショップ

──関係性を大切にしているのですね

「関係性」は山形で活動するうえでのひとつのテーマです。最近では山形大学と芸工大のはじめての正式なコラボレーションとして、山形大学医学部附属病院のプロジェクトをすすめています。

山形大学医学部附属病院は、芸工大から徒歩15分くらいの場所にあって、かねてから一緒に取り組むことへの可能性を感じていました。山形大学と芸工大でお互いの強みをいかして地域にいい変化を起こしたいですし、両校の架け橋となって関係性が続けられる事例にしていきたいです。

「山形はデザインの化学反応が起こる場所」
「やまがた雪フェスティバル」のロゴマーク

今年度で3回目になる山形県寒河江市で行なわれている冬の県イベント「やまがた雪フェスティバル」のメインロゴ、メインステージデザインも立ち上げから制作しました。

会場では学生が企画、デザインしたワークショップやオリジナル綿飴の販売、そして今回は学生が企画、モデルとなる着物ショーも行ないます。学生に人気のプロジェクトで、「入学したらこのプロジェクトに関わりたい」という受験生がいるほどです。

他にはデザイン工学部で今村教授を中心に山形産の畳を発信するためのプロジェクトもおこなっています。

──養蚕事業やプロスポーツチームのブランディング、病院のプロジェクトなど、学生さんは大きなプロジェクトを経験されているのですね。

「先生、うまくいきません」と泣きながら電話をもらうときもありますが(笑)、学生たちが自分の頭で考えて手を動かして、たくましくやっています。

山形の学生の素直さ、まじめさ、楽しみ方など、一緒にプロジェクトをするたびに感心と喜びが生まれます。

どれも一流のデザイナーが手がけるようなスケールの大きいプロジェクトばかりです。それを学生と一緒に考えながらつくっていくからこそ、普通の「いいデザイン」とは一味違う、発想豊かなデザインを目指していきたいですね。



≫ 後編は、原さんが山形で出会った魅力的な体験をご紹介します

 
【原高史さん プロフィール】

現代美術家、東北芸術工科大学デザイン工学部グラフィックデザイン学科教授。1968年 東京都生まれ。1990年 多摩美術大学絵画科油画卒業。1992年 多摩美術大学絵画科油画修了。2000〜2002年 バイセンゼー大学(ドイツベルリン)。2000年 文化庁芸術家在外研修(ドイツ・ベルリン)。2001年 ポーラ美術振興財団在外研修(ドイツ・ベルリン)。1990年代後半よりインスタレーション、絵画作品、プロジェクトを国内外で発表。シンガポール・ビエンナーレ(2006)、ハバナ・ビエンナーレ(2009)などに参加。デザイン、アート、プロジェクトを社会に投じる団体「comport/papic」の監修も務める。主な活動に、地域の人々とのコミュニケーションを通して得た「ことば」をイラストと共にカラーパネルに描き、家々の窓の形に沿って貼るプロジェクト「Signs of Memory」や、言葉と絵を組み合わせた絵画シリーズ「pocketbook」(キャンバス/アクリル)などがある。

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