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【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.5

連載

2023.06.29

山形市長町にある〈エンドー〉は、地域密着型のスーパーである。創業は昭和40年。以来、地元の人々に親しまれ続け、日々、さまざまな顔が集う。そこにある時間と、ここにしかない風景。今日のエンドーでは、どんなことに出会えるだろうか。

【山形/連載】地域密着型スーパー〈エンドー〉へようこそ Vol.5

突き抜けたユーモアと愛情たっぷり。
エンドーをデザインする、ということ

エンドーの入り口には、オリジナルキャラクターの顔出しパネルがある。「げそ天」の赤提灯が下がり、幾つもののぼりが立つ。店内には屋台風のメニューと角打ちのようなイートインスペースがあり、一升瓶ケースに段ボールを被せただけの斬新な椅子がある。食料品店のはずなのに、Tシャツなどのグッズが豊富にある。店内の一角に「じいちゃん自家製コーナー」があり、常に旬のラインアップである。雑誌クオリティのTAKE FREEのカタログがシーズンごとに刷新されて並ぶ。地域の夏祭りも主催する……。こうして特徴を列挙してみると、あらためて一風変わったスーパーであることがわかる。エンドーにはさまざまなチャンネルがあるので、何が最初の接点になるかは人それぞれ。その中で、必ずふれることになるのが「デザイン」だ。
地域のスーパーにこれほどデザインが投資されている例は稀である。かつて遠藤商店だったエンドーは、今や“げそ天のエンドー”として広く市民に認知され、メディアにもしばしば取り上げられるようになった。そこに至るまでの道のりを共に歩んできたのが、エンドーの要であるデザイン部分を担う〈杉の下意匠室〉というデザイン事務所である。エンドーのポテンシャルを最大限に引き出し、ともに果敢にチャレンジし続けることを繰り返すうちに、そこにはクライアントとデザイナーを越えた関係性が生まれていた。

というわけで、今回の主役は「エンドーのデザイン」。いつもは影の存在に徹しているアートディレクターの鈴木敏志さんとイラストレーターの小関司さんに話を伺いながら、紹介していきたい。

 

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駅から徒歩1分とあって、羽前千歳駅を出るとすぐに「げそ天」の赤いのぼりが見えてくる。その一方、お店の看板や外観は元のまま。新旧のデザインが混ざり合う様子は、エンドーというお店そのものを象徴している。

−エンドーさんとの出会いについて、教えてください。

鈴木:エンドーさんとの出会いは5年前に遡ります。僕らのデザインを見かけたことから連絡してくださったんですけど、当初は「お店の包装紙を作ってほしい」というご依頼だったんですよ。

小関:当時、店主の遠藤(英則)さんは、県外の就職先を辞めて山形に戻り、お店を継いでまだ間もない頃でした。そこで自分も何かしなきゃっていう意識から、まずはデザインを取り入れてみようという考えに至り、それが包装紙だったんじゃないかなと。それで僕らは、包装紙だけ作っても意味ないですよ、みたいな話をしました。

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最初に依頼のあった包装紙は初回のツールとして作成済み。当時はげそ天を包む包装紙だったが、現在はサイズが大きくなり、写真のようなギフトボックスなどに使われている(写真提供:杉の下意匠室)。

鈴木:そこまで直球だったかは覚えてないですけど(笑)、今後のお店にとって、それを作ることだけがベターではないかもっていうのは、たしかにお伝えしました。デザインっていうのは、単体で作っても上手く機能しなかったら意味ないじゃないですか。それで包装紙だけ作っても、っていうところがあったんだと思います。そこからは、お店にかかわる全体の部分を一緒に考えていくことになったんです。

小関:全体の部分というのは、お店の空間づくりやレイアウトも引っくるめてですね。手を加えるべきところと残すべきところ、それぞれを吟味しながら〈井上貴詞建築設計事務所〉さんと一緒に考えました。当時のお店には、不要なものがゴチャっとたくさんあったので、まずはそういうのを片付けたり、什器を移動させたりしました。なので、僕らが最初にやったのは「一緒に掃除すること」でしたね。

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エンドーにとって、お店のリニューアルをすることは大きな決断だった。根底にある「いいお店にしたい」という思いを全員が共有することで目標が定まり、そこからは地域密着型スーパーとしての挑戦が始まった。
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写真左上から時計回りに:お店の看板や外観はそのままに。店主の遠藤さんの父・英弥さん手づくりの漬物が並ぶ「じいちゃん自家製コーナー」。宅配エンドーのステッカーと四つ葉マーク。コロナ禍で中止となった「立呑みエンドー」の代わりに誕生した大ヒット企画「宅呑みエンドー」は、土曜のみ数量限定で現在も継続中。

−リニューアルの第一弾で登場したのは「げそ天」でした。そこに至るまでには、どんな経緯があったのでしょうか。

鈴木:「げそ天」は山形のソウルフードでもあるので、きっかけとしては面白いなってことで着目したんですが、もともと遠藤さん自身がげそ天を打ち出そうとがんばっていたんですよね。それで提案させてもらったのもあるんですけど。

小関:初めてお会いしてから2ヶ月後に次の打ち合わせがあって、僕らの中ではその時点で「げそ天計画」がだいぶ固まっていたんですよね。今後のお店を考えるうえで、インパクトがあることを考えないといけないだろうとは感じていました。ただ、包装紙の話から急にげそ天の話に方向転換したことで、少なからず困惑されていた部分はあったと思います。

鈴木:これじゃあ、げそ天屋みたいじゃん、ってね。うちはスーパーでお惣菜もお魚も得意なのに、げそ天だけで勝負して本当に大丈夫だろうか?みたいな話はあったと思います。店内でお酒を提供することについては、遠藤さんのお父さんが「うぢ、居酒屋になんのが?」っていってました。結果的に今はスーパーであると同時にげそ天屋でもあり、居酒屋にもなっていますが(笑)。

小関:でも僕らの目的としては、エンドーをげそ天屋にすることだけじゃなくて、げそ天がエンドーを牽引していくんですっていうのが根っこにありましたよね。

鈴木:そう。げそ天がおいしければ違うお惣菜にも興味湧いてくるだろうし、イカがおいしいんだったら他の魚もおいしいだろうってなるはずだし。それぞれが全部おいしいのは事実だから。

小関:そこが共有できたからこそ、僕らの得意とする手段とエンドーさんに備わっている熱量みたいなものが上手く交わって、少しずつ今のような形になっていったんだと思います。

 

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オリジナルキャラクターの「げそ男」と「筋子」。げそ男は「げそおとこ」と読む。商品を宣伝するためのキャラクターではあるけれど、かなり深いところまで設定が掘り下げられている(画像提供:杉の下意匠室)。
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「宅配エンドー」のカタログに収録されていた4コマ漫画。エンドーのホームページでも読むことができるので、気になる人はぜひチェックしてみてください(提供:杉の下意匠室)。
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店主夫妻による顔出しパネルのお手本。ここでは2人組のお客さん同士が「撮りましょうか?」と協力し合っている場面を見かけることもある。エンドーを訪れたときは、記念に1枚どうぞ(写真提供:杉の下意匠室)。

−そこからオリジナルキャラクターの誕生、立呑みイベントに宅呑みセット、宅配サービスといったように、エンドーの快進撃が始まったわけですね。これらはどのような考えのもと実現されたのでしょうか。

小関:こうしてあらためて振り返ってみると、それぞれに必然性があったんだなっていうことを感じますね。

鈴木:それがかっこいいなと思う。無理してなんかやろうとか、全部狙ってやったわけじゃないから。「宅配エンドー」を始めたのは2020年で、ちょうどコロナ禍に突入した頃。外出自粛のせいでウーバーみたいな需要も増えていましたし、そこで宅配を始めようということになったんです。

小関:もともとエンドーさんでは、近所のお年寄りや体の不自由なお客さんには、買い物した荷物を車で届けるということをされていたんですよね。それってすごく良いサービスだなあと思って、当初は近所だけだった部分を山形市全体にエリアを拡大して、その延長でカタログも制作しました。

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左:コロナ禍に誕生したエンドーの2大企画。お酒とおつまみのセット「宅呑みエンドー」は、包み方にも心つかまれる。昭和の酔っ払いが手にぶら下げている様子が目に浮かぶ。右:このときの「宅配エンドー」カタログは付録付きの特別版。中面の文字が大きめなのは、お年寄りのお客さんへの配慮から(画像提供:杉の下意匠室)。
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コロナ禍の外出自粛時に大活躍だった宅配時のラッピングカー。ブルーのボディに赤いロゴが目を引く。「宅配エンドー」のモチーフとなっているのが、サザエさんに登場する気が利くみんなの御用聞き、「三河屋のサブちゃん」である(写真提供:杉の下意匠室)。

鈴木:緊急事態宣言下ではお店にお客さんが来れなくなったので、それまでやっていたイベント「立呑みエンドー」も当然できなくなり、その代わりに「宅呑みエンドー」という晩酌セットが生まれたんです。当時はあらゆるお店がテイクアウトメニューを考えていた時期でもありました。

小関:キャラクターが誕生した理由は、げそ天と筋子を売るためです(笑)。イラストなので子どもや若い人たちに受け入れられやすいものではあると思いますが、決してそこだけに向けているわけではありません。エンドーに来るお客さんの年齢層は幅広いので、子どもからお年寄りまでわかりやすいものを目指しました。げそ天ロゴの「天」には、それが凝縮されているかなと思います。

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杉の下意匠室〉のお二人。アートディレクターの鈴木敏志さん(右)と、イラストレーターの小関司さん(左)。エンドーを訪れるとだいたいこの席に座っているのをよく見かける。
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杉の下意匠室という屋号のとおり、事務所となる建物は大きな杉の木の下にある。紅花の生産が盛んな山形市内の高瀬地区にあり、こちらの巨樹は「高沢の開山スギ」として県の天然記念物にも指定されている。

−エンドーにおけるデザインの在り方や、お二人が考えるデザインというものについて、お聞かせください。

鈴木:僕らが考えるデザインというのは、新しいことはやるんだけれども、そこにあるものに対して寄り添っていくようなイメージです。

小関:主役であるクライアントとデザインすることの行為が、隔離してしまっているのが嫌なんです。そのものを動かすためにデザインがあるべきなのに、デザインだけが一人歩きしてしまっているような状態。だから立ち位置としての理想は「黒子」なんじゃないですか。

鈴木:おいしそうなパッケージなのに、実際は期待外れっていうのが最悪ってことですよね。だからエンドーさんの場合も、遠藤さんの想いや言葉があってこそ。僕らが勝手に考えて作ったもので売れたとしても、それって本物とはいえないですよね。一緒に作っていくんだけど、主役はやっぱりエンドーさんなんです。

小関:こうして長く仕事をさせてもらっていると、ひとつのチームになっているというか、人に恵まれているなあとも感じます。僕らの仕事のやり方としてはですが、そういうのがすごく楽しいなって思うんです。それに遠藤さんって、ものすごくハングリーな方ですよね。やる気もすごいし、突破力があるというか。

鈴木:行動力とフットワークの軽さと瞬発力を持っている方だと思います。NHKのある番組を見て、東京の根津にある鮮魚店の方(Vol.2参照)にアポ無しで突撃しちゃうぐらいですから。

小関:たしかに。グイグイ系ですよね。

鈴木:かなりグイグイ系。だから僕、ちょっと苦手です(笑)。

小関:(笑)。でも、だからこそ今のエンドーがあるんですよね。

鈴木:はい、それは間違いないと思います。

 

 

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エンドーに電車で来たことがある人はお気づきだろうか。こちらはJR羽前千歳駅に唯一設置されている、杉の下意匠室によるエンドーのポスター。過去にはこんなポスタービジュアルが。ときどき更新されるので、駅を訪れた際はお見逃しなく。(画像提供:杉の下意匠室)。

 

INFORMATION
エンドー
住所 山形県山形市長町2-1-33
電話番号 023-681-7711
営業時間 10:00-19:00(日・月曜休)
https://gesoten.jp/

 

写真:伊藤美香子
文:井上春香