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ハンドメイドの革靴を日常に送り込む ツムジ靴店 – 芦屋の横顔 vol.3 –

インタビュー

2020.09.04

2019年秋に再び人の営みを取り戻した芦屋の石造り団地「旧宮塚町住宅」。そこに入居したテナントの紹介を通して、いわゆる住宅街というイメージとはまた違う「芦屋の横顔」を探るシリーズの第3弾。

革靴マニアでもなく特別リッチなわけでもない、いわゆる普通の人が日頃から履けるハンドメイドの革靴を制作する「ツムジ靴店」のオーナー・職人の辻陽介さんにお話を伺った。

ハンドメイドの革靴を日常に送り込む ツムジ靴店 - 芦屋の横顔 vol.3 -
ツムジ靴店の辻陽介さん。旧宮塚町住宅の店舗兼工房にて。
手の届くハンドメイドの革靴

ハンドメイドの革靴と聞くと、ハイブランドや高級オーダースーツを着こなすセレブかファッションマニアのための靴で、自分には関係ないと思う人がいるかもしれない。

しかしそんなイメージを塗り替える、手の届く価格(¥31,900〜)でハンドメイドの革靴を提供しているのが「ツムジ靴店」だ。

「自分の奥さんみたいな、革靴に興味がない一般の人に革靴をもっと身近に感じて欲しい」と語る辻さん。そのせいかツムジ靴店の革靴には、スニーカーをよく履く人が「今日は革靴にしようかな」と気軽に日常づかいできそうな雰囲気がある。

ハンドメイドの革靴を日常に送り込む ツムジ靴店 - 芦屋の横顔 vol.3 -
辻さんが履き込んでいるツムジ靴店の革靴。
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ツムジ靴店の革靴はストラップシューズや、チャッカーブーツなど4つの定番から選べる。

ツムジ靴店では、革をカットするところから仕上げまで、すべての工程を辻さんひとりで行う。

おもしろいのは、「販売価格から逆算する」という靴づくりへのアプローチ。あくまで一般の人が買いやすい価格(奥さんが妥当だと思う価格)をゴールに設定し、そこに向けて革靴の仕様を決めているという。

革靴の価格は、製法や材料の品質をどうするか、足に合わせた木型をいちから製作するかといった工程・素材の選び方で大きく変化する。しかしツムジ靴店の革靴は、高品質の一枚革を贅沢に使用し、手間を惜しまず多くの手作業によって作られていて、どこで価格を抑えているのか不思議で仕方がない。

ハンドメイドの革靴を日常に送り込む ツムジ靴店 - 芦屋の横顔 vol.3 -
1年ほど履き込んだチャッカーブーツのサンプル。贅沢に大きな革を使用している。
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発色の良いイタリアの革でオーダーすることも可能。

この価格と品質のギャップを埋めているのは、辻さんが靴職人文化の残る東京浅草で約15年の靴職人経験を積むなかで蓄えた技術と知識だ。「価格は手の速さで抑えています。ギリギリの価格です」とはにかむが、どこか自慢げにも見えた。

技術を最大限活かした革靴を

辻さんがツムジ靴店を始めた理由は3つある。ひとつめは浅草の靴職人の世界では仕事に波があり「1〜2週間休み」ということがあること。ふたつめは1日12時間以上の座り作業を30〜40年間続けるには体がもたないこと(辻さんは一度ヘルニアの手術をしている)。最後のひとつは、メーカーの下請職人では技術を磨いても評価されないことによる価値観のズレだった。

3つ目の理由は業界ならではの構造によるものだ。簡単に言うとメーカーが靴職人に求めるのは「検品基準」をクリアする靴を作ることであり、どんなに技術を磨いて良い靴を作っても製品としての価値も職人への評価も変わらないという。辻さんはこの価値観に違和感を持つようになった。

またこれら3つの理由に加えて、夫婦そろって関西出身でゆくゆくは地元に戻りたいと話し合っていたという事情もあった。関西で靴の修理屋に就職するか、それともブランドを立ち上げるかを天秤にかけて、ブランド立ち上げを選んだそうだ。

ハンドメイドの革靴を日常に送り込む ツムジ靴店 - 芦屋の横顔 vol.3 -
ツムジ靴店の店内の様子。展示スペース横に工房を併設している。

関西に戻ってきた辻さんがブランド創業の地にまず選んだのは、関西で靴産業の盛んな神戸市長田区だった。靴製造に使う機械のメーカーが長田にあり、メンテナンスを考えるとメーカーの近くに工房を構えた方が良いと考えたからだという。

長田に工房を構えた2018年末からは、三宮のカフェで受注会を開いたりイベントに出店していたが、ブランド単独で出店した方がお客さんからの反応が良いことに気づいた。そこから、店を構えて自ら販売するスタイルがツムジ靴店には合うのではないかと考え始めたそうだ。

辻さんが旧宮塚町住宅のテナント募集を知ったのは、ちょうどその頃。「店舗と工房を併設できること、様々な質の高い店が集まるエリア性、建物や入居しているテナントが面白い、人が集まる場所になりそう」など、条件がぴたりとハマった。

信念が伝わる革靴
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製造途中の革靴の中底。シンプルな器具と手だけで美しく仕上げられている。

ツムジ靴店が旧宮塚町住宅に移転してから、もうすぐ1年が経つ。辻さんにツムジ靴店の展望について聞いてみると、「革靴はリピート買いするものではないから、新しいお客さんとどれだけ出会えるかがポイントになる。発信力に磨きをかけて信念を伝えていきたい」と教えてくれた。

革靴製造には「釣り込み」という工程がある。靴の顔になる縫製した革(アッパー)を引っ張りながら中底に張り合わせる重要な工程で、機械で行う「機械釣り」とワニという道具と手だけで行う「手釣り」の大きく2種類に分けられるそうだ。

どちらも熟練の技が必要だが、手釣りの方が感覚に頼る部分が多いためより難しく、ツムジ靴店の革靴は手吊りで作られている。そのことを知り、取材後に自分の靴をじっくり観察してみた。

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「手吊り」の作業を少し再現してもらった。

毎日のように見ているモノでも、知らないことはたくさんある。取材を通して辻さんから得たことは、革靴を観察するための視点と、価値を判断するための基準だ。

みなさんもまずはツムジ靴店のサイトやinstagramをのぞいて、辻さんの言葉にふれてほしい。しかしやはり一番良いのは、旧宮塚町住宅の店舗に足を運び五感を通してブランドを体感することだろう。

文・写真/則直 建都

名称

ツムジ靴店

URL

Instagram

HP

住所

659-0062 兵庫県芦屋市宮塚町12-24旧宮塚町住宅13号室

営業時間

12:0017:30ごろ

定休日

不定休(急用の場合のみ休み。遠方からお越しの際はメールにてご確認を)

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