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山形移住者インタビュー /山形交響楽団 山中保人さん 「ここにいていいんだとやっと思えた」

移住者の声

2021.07.21

#山形移住者インタビュー のシリーズ。今回のゲストは、2018年から山形交響楽団で首席ヴィオラ奏者として活躍されている山中保人さんです。

山形移住者インタビュー /山形交響楽団 山中保人さん 「ここにいていいんだとやっと思えた」

生まれは神奈川県川崎市。国立音楽大学附属音楽高等学校を卒業後、ウィーン国立音楽大学に進学。最優秀の成績で卒業し、同大学院を経て、ドイツの劇場にて活動していた山中さん。長かった海外生活を終え、帰国のきっかけになったのは山形交響楽団でした。

はじめての日本での仕事、しかも縁もゆかりもない山形という土地。長く生活できるのか不安もあったけれど、今はもう山形にしっかりと根を下ろす覚悟。一体、どんな心境の変化があったのでしょうか。

インタビューはちょっと遡って、山中さんの「音楽人生」のはじまりから────

山形移住者インタビュー /山形交響楽団 山中保人さん 「ここにいていいんだとやっと思えた」

なぜはじめたのか覚えていない

母が言うには4歳のころ、ヴァイオリンをやりたいって言ったらしいです。母がよくピアノを弾いたり、音楽を聴いていたのでその影響で言ったんだと思います。気づいたらやっていたという感じで、どんな気持ちでやっていたのかもあんまり覚えていないんです(笑)。

ただ小学生の頃には、お恥ずかしい話ですが、いつかオーケストラをバックにチャイコフスキーなどのかっこいいコンチェルト(協奏曲)を弾く人になりたいなと、漠然と思っていました。今思えばそういう実力じゃなかったと思いますけど。

音大附属高校に入学後、「食べていくならヴィオラがいいんじゃない?」と勧められて高校からヴィオラに転向しました。僕は背が高くて、自分でいうのもなんなんですがおっとりしていて、目立ちたがりなキャラクターでもないので、ヴィオラへの転向を勧めてくださった先生にとても感謝しています。

山形移住者インタビュー /山形交響楽団 山中保人さん 「ここにいていいんだとやっと思えた」

ヴィオラはヴァイオリンよりもひとまわり大きく、音は何と言えばいいのかな。ヴァイオリンのように超絶技巧的で華やかな音色ではないのですが、あたたかな音色があって、お客様に対して聞かせ方が違うというところに惹かれました。あと弾いている人の楽しみかもしれませんが、旋律を弾くことはあまりなく、旋律を支えたり、ハモリのメロディを弾いたりと影で支える存在。オーケストラの中で目立たないけど、いないと寂しいみたいな感じなんです。

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日本に戻るという選択肢はないと思っていた

ウィーン国立音楽大学で7年ほど過ごしたあと、日本に戻るという選択肢はまったくありませんでした。僕の勝手なイメージだったんですが、日本で就職するには日本の大学を出て、日本での基盤がないと無理だろうなと。ウィーンからドイツへと活動拠点を移したのも自然な流れだったと思います。

そして数年が経ち、あるとき山形交響楽団のオーディションがあることを知り、受けたことが帰国のきっかけになりました。実はその前に山形交響楽団にエキストラという形で弾かせてもらったことがあり、楽団員の方が音楽に一生懸命取り組んでいらっしゃるのがとても好印象で。ここで弾きたいと思いましたし、ちょうど結婚してそろそろ日本に帰りたいなと思っていたこともあって、さまざまなタイミングが重なったのだと思います。

ドイツで過ごした街は人口規模が小さく、そういう意味で山形に違和感なく帰ってこれたというか。風景は違いますけど、ドイツにいたときとそんなに変わらない生活。ゆったりした気持ちでいられるのも似ているなと思います。温泉があって、美味しい食べ物があって、日本酒もあって、ドイツにいたとき妻と話していた日本で一緒に経験したいことを叶えることもできて。

振り返ってみると、海外にいるときの僕は日本人ですし、ここにいていいのかなっていう気持ちがずっとありました。もちろん同僚たちは、国籍に関係なく親切にしてくださっていましたが、言葉や文化の面もあって、根を下ろすという感じもなく、いつもふわふわしたような感じだったんです。それが山形にきて、やっとここにいていいんだなっていう感じがしたんです。

ドイツでは3年を過ぎると新たな環境での仕事をしてみたくなり、拠点を変えていたので、山形も3年過ぎて動きたくなるかなと思っていたのですが、街もいいですし、それで勢いで家を建てました(笑)。

山形移住者インタビュー /山形交響楽団 山中保人さん 「ここにいていいんだとやっと思えた」

お客さまが聞いてくださっての音楽だから

山形交響楽団は、主に山形や東北エリアを中心にスクールコンサートを開催しています。創設者である指揮者の村川千秋先生が、子どもたちに本物の音楽を聞かせようということではじめたオーケストラですので、そういう活動がとても多いんじゃないかなと思います。僕たちの演奏を子どもたちがすごくキラキラした目で見てくれていたりして、そういうのを見ると弾いてよかったなと思います。それから、オーケストラをバックにソロで弾かせてもらう機会にも恵まれて、山形で小さい時の夢も叶いましたね。

去年はコロナの影響でしばらくの間、お客さまを入れたコンサートができませんでした。久しぶりにお客さまを入れてのコンサートが終わったとき、拍手を聞いた瞬間にみんな泣きそうになったんです。中には自主的にプラカードを作ってくださった方もいて、やっぱりお客さまが聞いてくださっての音楽なんだなと改めて思いましたね。

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20年も一緒に過ごしているヴィオラは、現代の巨匠として知られる製作家ステファノ・コニア氏が手掛けたもの。出会いも運命的だったそう。

目指すのはいつも、あの先生の音のように

ピアノや他の楽器もそうだと思いますが、同じ楽器でも弾く人が変われば、音が変わります。それは圧のかけ方だったり、指の肉づきや体格だったり・・。今でもやっぱり目指しているのは、ウィーン音楽大学で指導していただいたジークフリート・フューリンガー先生の音。とても好きで、先生みたいな音を出したいという目標があります。

僕がウィーンにいたころに演奏していた音源を今聞くと、のびのびとしていて今よりもいい音だなと思ってしまうこともあります。それは先生にコントロールしていただいていい状態で弾けていたからなのか、若かったからなのかは分かりません。「いい音で弾くぞ」という気持ちがあるときほど、いらない力が入ってしまうこともあります。なるべくウィーンで習ったときのことを忘れずに、ずっとできていたらいいなと思います。

そしてもう一つ山形でやりたいのは、ヴィオラをいい楽器だなと思ってくれる人をいっぱい増やすこと。フューリンガー先生に帰国の報告に行ったとき、『じゃ日本で僕が教えたことを広めてくれるね?』って言ってくれたんですね。そのためにも少しでもヴィオラのよさをわかってもらえるような演奏ができるよう僕自身が努力して、そのなかで弾いてみたいという人が増えてくれたらうれしいです。
山形交響楽団の活動以外でどのような形でヴィオラのよさを伝えていったらいいか、今はまだ分かりませんが、少しずつそういう活動をしていけたらいいなと思います。

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山形交響楽団 第295回定期演奏会

■日時  
2021年9月25日/午後7時開演(午後6時開場)
    9月26日/午後3時開演(午後2時開場)

■チケット情報 2021年7月26日発売【全席指定】

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Text:昼田祥子
photo:伊藤美香子