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「ここに来れば安心、そう信頼してもらえる存在でありたい」柏倉美輝男さん

2021.10.15

東北で現在最も長く営業をつづけているペットショップが山形市にあること、ご存知ですか。木の実町のペットサロン「Pet Harbour NOAH’S」です。その店の店主である柏倉美輝男さんを訪ね、ペットショップが誕生した背景や店を引き継いだ柏倉さんご自身の人生、そして仕事を通してどんなことを大切にされてきたのか、お話をお聞きしました。

「ここに来れば安心、そう信頼してもらえる存在でありたい」柏倉美輝男さん

66年営業をつづける、東北一の
老舗ペットショップのはじまり

「もともとここは、わたしの両親が1955年に『柏陽犬舎』という名でひらいたお店です。犬猫専門のペットショップとして、いまも残るお店の中では東北で一番古いようです。日本全体にまで広げてみると、日本橋にあった『ワシントンケンネル』さんが日本第一号店と言われています。

残念ながらもうこのお店はありませんが、ペットショップ業界の先駆者ともいうべき大きな存在です。動物に残飯を与えていた時代に、当時は珍しい海外のペットフードを取り扱う革新的なお店だったので、動物を育てる人たちからの関心を集めていました。私の父もその店との出会いを通して開業を決意したそうです」

「ここに来れば安心、そう信頼してもらえる存在でありたい」柏倉美輝男さん
店内には数々のペットフードが並ぶ

柏倉さんが生まれたときというのは、すでにお店が開業したあとのこと。なので、物心のついた頃から動物に囲まれた暮らしが当たり前だったそう。また、デパートや催事に犬や猫を連れて出店すると、あっという間に飼い主が決まる、といった場面などもよく覚えていると言います。

家業を引き継ぐも、
前向きになるには時間がかかった

やがて柏倉さんが経営のバトンをお父さんから受け取ったのは33年前、22歳のときのこと。東京の専門学校を卒業後、故郷の山形へUターンし、両親が経営していたこのお店を継ぐことになりました。

「ちょうど学校卒業くらいのタイミングで父が体を壊し、『店を回せる状況ではないから戻ってきてくれ』と呼ばれたんです。それから山形に帰り、店の仕事を手伝うようになりました。それまでは東京で美術の学校に通っていたので、当時目指していた夢と、巡ってきた仕事とのあいだには正直大きなギャップも感じていました」

幼い頃から両親が働く姿は見てきた。けれど、動物について専門的に学んできたわけでもなく、経験もない。それでも命を預かる仕事。対面するお客様のまえで失敗も許されない緊張感は相当大きかったのだとか。

「仕事の要領をつかむまでは時間もかかり、本当に大変でした。心が折れそうになったこともあります。それでも少しずつ前向きになれたきっかけは、店内装飾や商品セレクトで自分なりに工夫ができると気が付いたこと。そのときにようやく、大学時代に蓄積してきた感性とこの仕事とが結びつきはじめました」

なるほど、改めてお店を見渡してみると、商品棚の賑やかな雰囲気や、外に駐車された社用車のラッピングもどこかユニークで印象に残るものばかり。

「ここに来れば安心、そう信頼してもらえる存在でありたい」柏倉美輝男さん

「ここに来れば安心、そう信頼してもらえる存在でありたい」柏倉美輝男さん
両サイドプリントされている犬と猫の十戒。見かけたら訳してみると面白いかも。

「『かつて同じ夢を追ってきた人たちから見ると物足りなく映る仕事でも、自分が満足できる瞬間があって、やりがいを見出せるようになったのならそれでいい。いままで夢中になってきたことといま向き合っていることはちゃんとつながっていて、無関係ではないんだ』、そう気付いてから、なおいっそうこの仕事にやりがいを感じています」

資格は未来のため、そして
もっと仕事を楽しむため

いま店は、柏倉さんと女将さん、4人のトリマーさんという6人体制。店内を眺めれば、たくさんの資格証が飾られています。

「スタッフがいつか独り立ちできる日のために、資格はできるだけ取得するように伝えています。自分のお店を開くとなれば、愛犬飼育管理士の資格が必要になりますから。スタッフには、資格はじぶんのキャリアビジョンを広げるためにも大切なものだと伝えていますし、学んで知ることが増えれば仕事をもっと楽しめるようになるとも思っています」

「ここに来れば安心、そう信頼してもらえる存在でありたい」柏倉美輝男さん

「トリマーの資格も取得することでカットやシャンプーといった技術面の向上ができるし、犬種の特性を知ることにもなる。学べば学んだだけ世界が広がる、面白い仕事なんです」

「ここに来れば安心、そう信頼してもらえる存在でありたい」柏倉美輝男さん

今という時代のなかでも
命と向き合うことの難しさは変わらない

さて、このコロナ禍によって、在宅で過ごす時間が増え、遠くに外出する頻度も減り、ペット需要が高くなったとも言われます。柏倉さんは、そんないまの状況をどのように感じているのでしょうか。

「たしかにペット需要は伸びているんでしょうね。この1年で価格も大きく上がっています。ただ、ブリーダーの数も年々減っていますから、その意味では動物を飼いたいという需要が高まっている一方で、実際に飼うことのハードルも上がっているのではないかと感じますね」

動物を飼うことの難しさ。その背景のひとつには動物愛護や保護の問題もあるといいます。

「昔なら捨て猫を拾ってきても、『うちでは飼えないから元いた場所に返してきなさい』なんて言えましたけど、今はそれをやると動物虐待として法に触れてしまいます。そこで保護団体の存在が重要になるわけですが、そういうところにだって行政からお金が下りるわけではないので、しっかり経営していかなくちゃいけない。けれどそれも一筋縄ではいきません。動物の命をどう守るかというのは、本当に難しいことです」

保護対象となる動物のほとんどは猫。その現状を知る柏倉さんは、猫を飼うお客様にはちょっとしたレクチャーをすることにしているそう。

「去勢手術しない猫の場合、わずか2年で1匹から80匹に繁殖します。そうなれば『飼育崩壊』につながります。よくニュースで目にする事件が他人事ではなくなるということです。そうならないためには放し飼いしないことが1番大切。そのほうが、迷子になることもないし、愛猫が保護という形で間違って拉致されることもない。そういうことを丁寧に伝えるようにしています」

店を継いでからずっと
大切にしつづけていること

「愛犬が亡くなるまで20年ほど、ずっと通ってくださったお客様もいます。何代にも渡って動物を飼われている方のなかには40年近くもお付き合いが続いているお客様も。でも、どんなに長いようでも、飼い主さんと動物たちが一緒に過ごせる時間は限りあるものですから、そのうちの『貴重なひとときを頂戴致します』という気持ちで働いています。

なにかあったときにはここに来れば安心だと、そうお客様に信頼してもらえる存在であれたら嬉しいです。動物と同じように飼い主さんとも丁寧なコミュニケーションをとっていくことを、これからも心がけていきたいですね」

「ここに来れば安心、そう信頼してもらえる存在でありたい」柏倉美輝男さん
柏倉さんが更新しているブログ「店長の犬猫な日々」
http://blog.livedoor.jp/meteor1965/

取材・記事制作/
東北芸術工科大学デザイン工学部
グラフィックデザイン学科
荒井優希
(real local Yamagata インターン中)

写真協力/柏倉琉生 @_kashiwa_
https://www.instagram.com/_kashiwa_/