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ぼくらの越前水仙カメラ~2年目の冬。ゆるやかなつながりでこの風景を残していく~

ローカルフォトスクール

2022.02.13

カメラを片手に地域に眠っている魅力や課題を皆で見つけるローカルフォトスクール、福井での取り組みです!

こんにちは!福井での暮らしも8年目、reallocal福井ライターの牛久保です。昨年度から始まったローカルフォトスクール「越前水仙カメラ」は、2年目を迎えました。
※今までの経緯は以下の記事をご覧ください。
行ってみた!「越前水仙カメラ」で学ぶローカルフォト
ぼくらの越前海岸水仙畑ものがたり

ぼくらの越前水仙カメラ~2年目の冬。ゆるやかなつながりでこの風景を残していく~
毎回楽しくスクールが開催されています。(写真:堀越一孝)

正月花として親しまれている越前水仙の出荷ピークは過ぎましたが、越前海岸の水仙畑は今、水仙の香りに包まれています。

今年度はスクールの開催される水仙の開花時期だけではなく、水仙畑の遊歩道の整備や、夏の暑い時期の草刈りなどで農家のみなさんや越前水仙カメラのメンバーと会う時間が増えました。

水仙畑で作業の合間にみんなで食べたすいかの味。急斜面から見下ろす日本海と空の青さ。水仙の香りをふくんだ風の匂い。春夏秋冬この場所に通ったことで、景色や人との関わりが薄いレースのように幾重にも重なり、様々な色彩を帯びて見えはじめ、気が付けば「私はこの風景をどう残していきたいのだろう」と思いながらファインダーを覗く自分がいました。

ぼくらの越前水仙カメラ~2年目の冬。ゆるやかなつながりでこの風景を残していく~
農家さんの背負う竹籠は60年物。今この竹籠をつくれる人はこの場所にいません。(写真:牛久保星子)

2年目を過ぎた「越前水仙カメラ」について、改めて主宰者の福井市文化財保護課の藤川さんと、フォトグラファーの堀越さん、福井市の園芸技師として水仙畑に携わっている中村さんに話を伺いました。

ぼくらの越前水仙カメラ~2年目の冬。ゆるやかなつながりでこの風景を残していく~
右から藤川明宏さん、堀越一孝さん、中村麻由美さん。すっかりおなじみの3人です。(写真撮影:牛久保星子)

ローカルフォト「越前水仙カメラ」のきっかけ

――2年目に入って「越前水仙カメラ」の全貌がようやく見えてきた気がするのですが、主宰者側のみなさんはどんなことを考えていましたか。

(堀越) 正直、「写真とカメラでまちを元気にする」取り組みである「ローカルフォト」って、やる意味や必要性がわかりづらい事業なんです。だから最初、藤川さんから「ローカルフォトを越前海岸でやりたい」と相談された時は驚きました。地域課題を写真で解決することができると信じた人がいないとこの事業は進まない。核の部分をしっかり理解してくださる人がいてはじめて成立する取り組みなんです。

(藤川) 一昨年、越前海岸の水仙畑の文化的景観をこれからどうやって盛り上げていこうか悩んでいた頃、たまたま出かけた滋賀県長浜市余呉町の「丹生谷文化財フェスタ」で長浜ローカルフォトの作品に出会いました。菅並という集落で写真展をしていて、田畑や家の前にその集落の人たちの写真がドーンと並んでいたんです。

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民家の前や畑の中に展示された写真たちが集落を彩りました。よく見ると堀越さんの姿が!(写真撮影:藤川明宏)
ぼくらの越前水仙カメラ~2年目の冬。ゆるやかなつながりでこの風景を残していく~
畑の中に巨大な写真展示!(写真撮影:藤川明宏)

(藤川) 畑に展示された写真をみて、「なんじゃこりゃー!」って衝撃を受けて。写真展で集落が活気づいているのを目の当たりにしました。そして何よりその写真に写っている人達が生き生きしていた。そういうのを越前海岸の水仙畑からも発信できると思ったんですよね。

越前海岸は過疎化が進んでいるんだけど、ここに暮らす人たちはフレンドリーで若々しく生きている人ばかりです。でもそういうことは普段わからないし、伝わらない。リアルなこの場所の人達の姿をローカルフォトで伝えていくことによってたくさんのプラスの効果があるって思いました。

文化的景観の伝達と、ローカルフォトとの親和性の高さ

(藤川) 今まで水仙の写真は撮りつくされてきたのですが、基本的には人が写っていない綺麗な水仙の風景写真ばかり。でも、私が文化的景観の選定に携わり、実際に調査して知ったこの場所の魅力は、それだけじゃない。もっとこの地域の風土がにじみ出るような、農家の人たちが暮らしの中で水仙と向き合っている姿が心の中にあったんです。

(堀越) 藤川さんがローカルフォトに可能性を感じてくれたのは、藤川さんが実際に現場で水仙畑と農家さんを見ていたからですよね。写真の撮影を通じて、藤川さん以外の人も水仙農家と関係をつくり、表に出てきていないローカルヒーローたちを知り、光を当てる。ローカルフォトはそこに暮らす人達の誇りを取り戻し、シビックプライドの醸成ができるんです。

農家さんは得てして孤独だと思います。水仙農家さんも広い畑の中でぽつんと作業している。この前の講評会でみんなの前では言わなかったけど、藤川さんの撮った写真がすごく象徴的でした。これが藤川さんがこれまでずっと見てきた農家さんの姿であり、この場所をつくる文化的景観なんだなと思いました。

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一面の緑の斜面にある水仙畑でひとり作業する農家さん。(写真撮影:藤川明宏)

(堀越) クライアントの方には申し訳ないんですけど、ローカルフォトの結果ってすぐには見えないんですよ。「ほらー、まちがこんなに元気になったでしょ!」っていう、わかりやすさはありません。

(藤川) すぐに結果が出ないという話で言うと、文化財のサイドっていうのは一気に結果が出るものを求めてないんですよ。まちづくりとか観光の部署は、すぐに効果が出るものに手を伸ばしがちですが、それらには一過性で消えてしまうものもあるかもしれない。文化財はもう少し気長。今の情景を取材して撮って発信するだけではなく、それがアーカイブされることが文化財として価値がある。後世に記録として残っていくことが大事で、そこがまたローカルフォトと文化的景観の親和性が高いと思っているところなんです。

2年目のローカルフォト「越前水仙カメラ」の視点は 

――今日のゲスト講師で滋賀県高島市を拠点におくフォトグラファーのオザキマサキさんが「撮れるときに撮る」という話をしていたのが印象的でした。今日のこの一瞬は今しかない。これを10年後見た時にどう思うんだろうとか、今日喋った人とこれからどういうつながりができるんだろうとかそんなことを考えました。

(堀越) 越前水仙カメラは他の地域のローカルフォトと毛色が違うと思ったので、昨年度と少しアプローチを変えました。

今回オザキさんをお呼びしたのもそのひとつです。オザキさんは目の前にあるものを優しくすくい取ってくれるフォトグラファー。越前水仙の目の前に今あるものをみんなへ伝えるという視点を入れました。

今年から「越前水仙カメラ」の範囲が南越前町の糠(ぬか)地区まで拡がったこともアプローチを変えた大きな要因のひとつです。糠地区も越前水仙の群生地ですが、今、鹿の獣害で壊滅的な状態になっています。

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以前は水仙が咲き誇っていた畑。糠地区は鹿が葉を食べた影響で、シーズンになっても花が咲かない状態が続いています。(写真撮影:中村麻由美)

この糠地区の現状を見た時に、目の前で起きていることを記録したドキュメンタリーのような写真も必要だという意識が生まれました。オザキさんという、目の前にあるものを何年も撮り続けたり、テーマを決めて真摯に向き合っている人を撮るフォトグラファーに来ていただくことで、越前水仙に対しての向き合い方がみんな変わるかなという思いがあったんですよね。

ぼくらの越前水仙カメラ~2年目の冬。ゆるやかなつながりでこの風景を残していく~
オザキさんの写真は小さな日常の一瞬を自然に切り取っています。(写真提供:オザキマサキ)

そして従来のローカルフォトの側面は、実践者としての長浜ローカルフォトのメンバーにも来てもらうことでカバーしようと。2年目、いろいろ考えましたね~。

ぼくらの越前水仙カメラ~2年目の冬。ゆるやかなつながりでこの風景を残していく~
長浜ローカルフォトメンバーとオザキさん。とても明るく楽しい方たちでした!(写真撮影:堀越一孝)

あとは関わり続ける人を呼びたかったというのもあります。長浜のみんなやオザキさんは距離的にも比較的近いので来やすいかなと。これはコロナの影響を受けた時代性もありますね。オザキさんは講師としてきてもらいましたが、きっと今後も関わってくれると思うんです。今日も朝4時半から先に来て撮っていたとおっしゃっていましたから。そういう一緒に活動できて仲間になりうる人という狙いもありました。

これからの「越前水仙カメラ」はゆるやかなつながりで

(中村) 堀越さんに何を残したいって言われて、私は「人」を残したいと言ったんです。1年目は狙い撃ちで農家さん全体の40人くらいのうちの3、4人を撮りましたが、全員撮って残したいなという想いが強くなって。何年か先の未来を撮るのもあるけれど、今これだけ頑張って水仙切っている農家さんのありのままの姿を残したいなと今年は思いましたね。

(堀越) 今年度はそれぞれの感性に任せている部分が大いにあります。難易度は少し高いけれど、自分が何を撮りたいのかまずそこを考える。それぞれが自分で決めた視点から撮った残したいモノで地域をアーカイブしていければと思います。

ぼくらの越前水仙カメラ~2年目の冬。ゆるやかなつながりでこの風景を残していく~
メンバーの撮った1枚。こんないい表情が引き出したのは凄腕小学生です。(写真撮影:倉橋築子)

藤川さんに、これから越前水仙カメラのメンバーは固定化しますかという問いかけをしたんです。その時に「ゆるやかなつながりでいいんじゃない」って言われて。それは、誰に対してこれをやらなきゃいけないっていうアクションが明確じゃないから、ある意味すごくむずかしいことです。

これからはスクール以外の時間が大切になると個人的には思っています。参加したみんなが自発的にどう動いていくか。ゆるやかにという言葉は優しいけれど、とても実験的な取り組みになりつつあります。

(藤川) 水仙畑も借りましたからね。取材・撮影だけではなく、実際に農家をやってみるという体験もできるようになった(笑)。いつでもメンバーになったら来られますよ。

ぼくらの越前水仙カメラ~2年目の冬。ゆるやかなつながりでこの風景を残していく~
スクール外のとある日。自由撮影会をしました。(写真撮影:堀越一孝)

(堀越) 今スマホでみんな写真撮っているけれど、数十年後この時代の写真は残っていないと思うんです。目的のない写真だから。数は多くても残すこと、伝えることができるものは少ないと思うんです。

だから僕はローカルフォトでは何のためにやっているのかという理解と、何を残すといいかという自分の中での咀嚼をし続けてほしいと考えています。最初から地域の為にってやっていると重荷になってしまうけれど、「写真が楽しい!」ってやっていたらそれがいつの間にかすごく貴重なものになっていたというのが僕は素敵だと思いますね。それが越前水仙カメラではできそうな気がしています。