なくなるはずだった「まちの居場所」を屋上へ。鎌倉R不動産がつくる「dig kamakura」を訪ねて
鎌倉駅西口から御成商店街を歩いてすぐの場所に、しばらくのあいだ、人工芝の小さな空き地がありました。ベンチやテーブルのように使える什器が置かれ、通りがかった人が腰を下ろしたり、子どもたちが思い思いに過ごしたりする。特別な目的がなくても、自然と人が足を止める「まちの居場所」になっていました。
この場所は、もともと建物が建つまでのあいだだけ開かれていた建築予定地でした。けれど、工事が始まるまでの約10か月のあいだに生まれた風景は、ただの“仮の空き地”とは少し違っていたようです。
その場所の記憶を、新しく建つ建物の中にどう引き継いでいくのか。鎌倉R不動産が進める「dig kamakura」プロジェクトと、現在行われているクラウドファンディングについて、話を聞きました。

そもそも、dig kamakuraとはどんな場所なのか
「dig kamakura」は、鎌倉駅西口から御成商店街を進んで徒歩2分ほどの場所にある、鎌倉R不動産による建築プロジェクトです。
完成後は、小さな店舗と自由に使えるスペースが集まる場所として、2026年秋頃のオープンを予定しています。今まで店舗を持っていなかった人が出店したり、すでに知られているお店が新たな業態に挑戦したり。小さなスペースを分かち合うからこそ、出店する人、訪れる人、地元の人、観光で来た人が混ざり合い、新しい何かが生まれる場所を目指しているそうです。
その一方で、dig kamakuraを語るうえで欠かせないのが、建物ができる前の時間です。
着工までの期間、建築予定地だった空き地に人工芝を敷き、ベンチやテーブルのように使える什器を置いて、特別なルールを設けずに一般開放したところ、約10か月で延べ4,000人以上が利用する場所になりました。
建物ができる前の空き地は、いつの間にか、まちの中の小さな居場所になっていったのです。

建築予定地を、なぜまちに開いたのか
建築予定地と聞くと、工事が始まるまでロープやフェンスで囲われている風景を思い浮かべます。では、なぜ鎌倉R不動産は、あえてその場所をまちに開いたのでしょうか。
話を聞くと、最初から綿密な計画があったというより、きっかけはとても率直な感覚だったといいます。
着工まで1年ほどかかりそうだと分かったとき、毎日通る場所がロープで囲われた砂地のままなのが「素直に嫌だった」。そこで人工芝を張り、設計を担当する「VUILD」から借りた什器を置いて、誰でも立ち寄れる場所として開放することにしたそうです。
同時に、その時間は「ここがどんな場所になってほしいか」を考えるための期間にもなりました。実際に使う人の様子を見たり、意見を聞いたりしながら、建物のあり方を考えていく。空き地を、ただ建物が建つまでの待ち時間にしない。そうして始まった一時開放は、まちの人たちと一緒にこの場所の可能性を探るような時間になっていきました。

使い方を決めすぎなかったから、生まれた風景
空き地では、さまざまな使われ方が生まれました。
子どもたちの放課後の遊び場になったり、犬の散歩中に立ち寄る人がいたり、他のまちから来た修学旅行生の集合場所になったり。紙飛行機大会や椅子づくりワークショップなど、さまざまなイベントも行われました。
印象的なのは、それらの使い方を、運営側が最初から細かく決めていたわけではないことです。
「ここではこう過ごしてください」と用途を限定しすぎなかったからこそ、訪れた人たちの発想が、そのまま場所の個性になっていきました。実際に、偶然訪れた人が「自分たちなら、こんなイベントをしてみたい」と話し、それがそのまま利用につながったこともあったそうです。
朝、昼、夜。
その日、その時間によって、見える風景が変わる。
何かを買わなくても、明確な目的がなくても、少し立ち止まれる。そんな場所が、御成商店街の中に生まれていました。

「この場所を残してほしい」という声から、設計を見直すことに
もともと空き地は、建物が建つまでの期間限定の場所でした。建築が始まれば、その風景はなくなるはずでした。けれど、使う人が増えていく中で、利用者や地域の人たちから「このような場所をずっと残してほしい」という声が届くようになったそうです。
その声は、鎌倉R不動産にとってうれしい反響でした。一方で、簡単に応えられるものではありませんでした。当初の設計プランでは、予算面から、誰でも自由に使えるスペースを十分に実現することは難しかったからです。
それでも、空き地を開放したことで、鎌倉R不動産自身も「このような場所を残したい」と考えるようになっていました。
そこで、新しい建物の計画を見直します。

2階建ての建物には、小さく商いをする複数の店舗が入る予定です。そこに加えて、空き地で生まれた自由な使われ方を引き継ぐため、屋上に人工芝を敷き、什器を置いて自由に使える場所として開放すること。そして、1階の建物外壁沿いに、誰でも使えるベンチを設置することが計画に加わりました。
御成商店街を歩く人が、買い物の途中に少し腰を下ろす。子どもと一緒にひと息つく。観光で訪れた人も、地域で暮らす人も、目的があってもなくても立ち止まれる。
なくなるはずだった空き地の風景を、屋上広場と1階のベンチという形で、次の建物へ引き継いでいく。今回のクラウドファンディングは、そのために始まったものです。


「dig」という名前に込められたこと
「dig kamakura」の“dig”には、「掘る」「探す」「見つける」という意味があります。
レコードを探し出すことを「ディグる」と言うように、鎌倉R不動産が物件やまちの魅力を探し出す感覚とも重ねられているそうです。
鎌倉の土地や人、商い、日常の中にある面白さを掘り起こす。好きなことを見つける。それを誰かに伝える。新しいことを始めてみる。
dig kamakuraが目指しているのは、そんな「探求することの楽しさを広げる場所」です。
不動産というと、物件を探す、借りる、買うというイメージが強いかもしれません。けれど、鎌倉R不動産がここでしようとしているのは、物件の先にある、まちの使い方や人の関わり方まで含めて掘り起こすことなのだと思います。

民間が、まちに開かれた場所をつくるということ
話を聞く中で印象に残ったのは、民間の不動産会社が「誰でも立ち寄れる場所」をつくろうとしていることでした。
誰でも使える場所と聞くと、公園や公共施設を思い浮かべます。けれどdig kamakuraは、行政がつくる場所ではありません。民間の建物の中に生まれる、公共的な余白です。
公共施設は、市民みんなのことを考えてつくられるからこそ、誰にとっても使いやすい一方で、強いこだわりや特徴を出しづらい面もあります。一方で、民間がつくる場所だからこそ、つくり手の思いやこだわりを貫ける面白さもあります。
御成商店街には、個性的なお店が多くあります。それぞれに店主のこだわりがありながら、他のお店を紹介するくらい、商店街の中に尊敬や誇りがある。dig kamakuraも、そんな御成商店街の一員として、いい意味でクセのある、ほかにはない場所を目指しているそうです。
もちろん、自由に使える場所を続けていくには、難しさもあります。
空き地時代には、あえて「禁止事項を書いた看板を出さない」という判断をしました。利用する人を信用する姿勢が、結果的にきれいな利用につながったといいます。
ただ、完成後は複数の店舗が一つの場所を分かち合うことになります。利用者同士の調整や、安全面、近隣への配慮など、丁寧に考えるべきことも増えていきます。
完全に放任するのではなく、自由さを残しながら、必要な調整や安全管理を行う。そのバランスを探りながら、場所を育てていこうとしています。


クラウドファンディングは、場所の未来に関わる入口
では、なぜクラウドファンディングなのでしょうか。
理由の一つは、設計変更によって、屋上広場や1階ベンチなど、自由に使えるスペースをつくるための施工費や整備費が、当初の想定を大きく上回ったことです。
けれど、話を聞いていると、それだけではないことがわかります。
普通、民間の建物ができるとき、私たちは「何かができるらしい」と少し離れたところから眺め、完成したあとに使うか使わないかを判断することが多いかもしれません。
けれど今回は、つくる過程を公開し、クラウドファンディングやワークショップを通じて、まちの人や支援者が当事者として関われる形をつくろうとしています。

以前には、dig kamakuraに使用する木材に保護塗料を塗るワークショップも行われました。参加者は木材の裏側にメッセージを残し、自分が塗った建材と一緒に記念撮影をしたそうです。親子で参加した人も多く、将来、建物が完成したときに「あの建物は私がつくったんだ」と子どもたちが話せるようになったら面白い、と鎌倉R不動産の方は話してくれました。
完成した場所をただ使うのではなく、できていく過程に少し関わる。その経験が、場所への愛着につながっていく。
クラウドファンディングに参加することは、単に建物の一部をつくる費用を支援することではなく、御成商店街にこうした小さな居場所を残す意思表示でもあるのだと思います。

この場所の未来に、少し関わる
完成後のdig kamakuraでは、屋上で演奏会をしたり、仲間と食事会を開いたり、映画上映会をしたりする使い方も想定されています。
しかし、それだけではありません。
買い物の途中に少し座る。
子どもが遊ぶ。
誰かの小さな商いが始まる。
観光で訪れた人が、鎌倉の日常に少し触れる。
子どもたちが大人になったとき、「あの場所、少しだけ自分も関わったんだ」と思い出す。
過ごし方を決めすぎない場所が、まちの中に残っていること。
それは小さなことのようでいて、まちの居心地を少しずつ変えていくものなのだと思います。
dig kamakuraのクラウドファンディングは、そんな場所の未来に、少し関わるための入口です。
御成商店街に生まれた空き地の記憶を、次の建物へ。
この場所がこれからどんなふうに育っていくのか、楽しみに見守りたくなりました。
| 名称 | dig kamakura/鎌倉R不動産 |
|---|---|
| URL | https://motion-gallery.net/projects/digkamakura
|















