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山形移住者インタビュー/デザイナー・安野真由美さん「自然と都市を行き来する暮らし」

移住者インタビュー

2022.09.27

#山形移住者インタビュー のシリーズ。今回のゲストはデザイナーの安野真由美さんです。

山形移住者インタビュー/デザイナー・安野真由美さん「自然と都市を行き来する暮らし」
2022年9月にオープンしたばかりの「やまがたクリエイティブシティセンター Q1」にてインタビューを実施しました。

安野さんの生まれは山形県大石田町。高校卒業後に上京して美術系の専門学校に進学し、その後はデザイン会社などの勤務を経て独立。30年ほど東京でグラフィックデザインの仕事をしてきました。

年に数回は山形に帰省していたところ、お父さんの介護をきっかけにUターンすることに。現在は山形市の自宅でデザインの仕事をして、週末にはお母さんが暮らす大石田を訪れ、月に一度は東京に出張するという3拠点生活を送っています。

いつもポジティブでその土地ごとの魅力を発見するのが得意な安野さん。都市と自然豊かな地方を行き来するライフスタイルや、現在の山形暮らしについてお話をうかがいました。

山形移住者インタビュー/デザイナー・安野真由美さん「自然と都市を行き来する暮らし」

山形でのリモートワーク

山形に戻ったのは、ふとした思いつきでした。東京で暮らして30年くらい経ったころ、父親が体調を崩したのをきっかけに山形と頻繁に行き来するようになり、ある日突然「あ、もう戻ろう」と思ったんです。すぐに物件を探しはじめて、2ヶ月後には引っ越してきました。2010年のことです。

父も母も大石田にいたのですが、私は山形市に住むことにしました。仕事は東京にあったのですが大石田から通うのは大変で、東京と大石田のどちらにもアクセスしやすいことを考えると、山形市に暮らすのがベストだったんです。

2010年の当時はまだリモートワークや多拠点生活がいまほど浸透していなかったのですが、特に不安があるわけでもないし、ましてや自信があるわけでもなかったですね。「そのうち東京の仕事はなくなるかもしれないけど、それならそれでしょうがないなぁ」くらいに思っていました。だけど結果的にはいまでも東京の仕事を続けていますし、山形に住み始めてから新規で東京から発注が来ることも度々ありました。意外となんとかなるものですよね。

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広告、雑誌、パッケージデザインなどのグラフィックデザイン全般を制作している。1998年頃には地元の大石田駅の建て替えプロジェクトにも関わっていたそう。

毎月東京に通う生活をかれこれ10年以上続けています。コロナ前は毎月2~3回は通っていました。カメラマンやスタイリストとの打ち合わせはリモートだと少し不便に感じることがありますが、それを除けばリモートで仕事をするのはまったく苦ではありません。だけどさすがに出張が月3回以上になってくると、少ししんどかったですね。コロナ以降は打ち合わせがオンラインになり、出張は月1回くらいでちょうどいいリズムになりました。

大石田でのナチュラルライフ

山形は四季が感じられていいですね。毎週末には大石田に通って、母親の様子を見がてら農業をしています。春は山菜採り、夏には野菜をたっぷり収穫して、秋には栗やクルミ拾いと季節ごとにいろんな楽しみがあります。

近所の農家さんに教えてもらいながらいろんな野菜を育てていますが、土いじりが本当に楽しくて。春から夏にかけて緑が成長してくるときの青くさいにおいがたまりません。生命力をいただいているような、英気を養えるような感覚があるんですよ。

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「ゴーヤやきゅうりの蔦が巻くアーチの中に入ったときのにおいがたまらない」と安野さん。(画像提供:安野さん)

山菜採りも大好きです。雪解けが始まると山に入り始めるのですが、子どもの頃にしていた探検みたいでワクワクします。

東京では農業や自然とは無縁の世界に生きていたのに不思議ですよね。途中で飽きるかなと思ったけど、飽きるどころかどんどん魅力にとりつかれています。収穫した野菜を見て「きれいだなぁ」と眺めてしまうこともあるくらい。自然相手なので苦労するときもあるけど、食べるものを自分の手で育てたり採ったりするのは尊いことだなと感じています。

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大石田のご自宅の畑で育てて収穫した夏野菜(画像提供:安野さん)
文化的で個性あふれるまち

いつでも新幹線にすぐ乗れるように、山形市では山形駅から徒歩15分くらいの中心地に住んでいます。

山形市は便利で暮らしやすいですが、なによりも文化的なまちだなと思います。特に中心地では古い建物がしっかり手入れされていたり、現代に沿ったかたちでうまく活用されているのがすごく魅力的。

建物だけじゃなくて、小さな看板もそうです。私は車を持っていないのでまちをよく歩くのですが、酒屋さんやお醤油屋さんなど古い看板がまちに残っていて、どれもていねいにつくられているのがわかるし、デザインもめちゃくちゃかっこいい。まちの人々が古いものをリスペクトして、しっかり守っている精神が伝わってきます。

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山形市内では徒歩のほか自転車もフル活用している安野さん。中心地に住んでいることもあり、車がなくても問題なく生活できているとのこと。

市内には個性的なお店がたくさんあって、お気に入りがいくつもあります。銅町にある居酒屋「一ぱいや」にときどき飲みに行くのですが、お手頃な値段でおいしくて最高。常連のみなさんと山菜採りや農業の話で盛り上がるのが楽しいんですよね。桜町の「プルピエ」も好きだし、大手町の餃子がおいしい「八重子」も好き。

あとはあこや町の「コーヒーレストラン真理」は穏やかな空間も素敵でカレーも絶品だし、香澄町の「板垣だんごや」の大判焼きは生地とあんこのバランスが絶妙です。

東京とふるさとを結ぶまち

とにかく毎日超最高に楽しいですよ。年々楽しくなっています。平日は山形市で仕事しながら暮らして、週末は大石田で自然に触れて、ときどき東京へ行くというバランス。文化と自然と都市にちょうどよく関われるのは私の理想そのものだし、ひとつの場所に留まるよりも、いろんな土地を行き来できるのが性に合っているみたいです。コロナ中で気軽に友達に会えないのは寂しいですけどね。

山形市はこのライフスタイルを支える中間地点になっています。山形市周辺の町に実家がある人は、山形市を基点に東京と地元をアクセスする暮らし、けっこうおすすめですよ。

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「ないものは求めないです」という安野さん。シンプルな考え方ながらも幸せに暮らすコツなのかもと思いました。笑顔が素敵です。

これからやりたいことがいろいろあります。ものをつくるのが好きなので家具づくりにも挑戦したいし、農業にももっと詳しくなりたいです。

それに10年以上経ったいまでもこのまちについて知らないことだらけだなぁって思うんです。この前はQ1のオープニングマルシェで初めて「エンドー」のゲソ天を食べたらおいしさに感動してしまって。これは長町にあるお店にも行かないと!って意気込んでいるんですよ(笑)。まちは変化していくし、楽しみは尽きないですよね。もっともっと山形暮らしの魅力を発掘していきたいと思います。

Drompa No.1 Graphics

取材・文:中島彩
撮影:伊藤美香子