【鹿児島県大崎町】『捨てられないものたち – 循環のまちで見つけた わたしとものの物語 – 』〜 ものを見ることで、人が見える。人が見えることで、まちが見える 〜
大崎町で暮らす11人の「捨てられないもの」から、それぞれの記憶や人生を辿った書籍『捨てられないものたち』。一つのものを入り口に、その人が歩んできた時間や大切にしていることを見つめた一冊です。企画・編集を担った株式会社KESIKIの九法崇雄さんと、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会の大保拓弥さんに、本づくりの背景と、そこから生まれた変化を伺いました。

資源の循環だけでなく、まちの人の幸せと営みに目を向ける
2021年4月に設立された『一般社団法人大崎町SDGs推進協議会』(以下:協議会)。
そこから資源リサイクル率の高さで知られる大崎町を舞台に、企業や地域の人たちと連携しながら、循環型のまちづくりを進めてきました。
協議会で活動する大保さんは、これまでの歩みをこう振り返ります。
「これまで資源をどう循環させていくか、さまざまな取り組みを進め、県内外で発信してきました。でも、事業を続ける中で、資源循環だけでなく、その先にある、まちの人たちの暮らしや幸せまで含めて考えていくことや、どうしたらまちの人に喜んでもらえるかを考えることが大切なんじゃないかと感じるようになりました。」

まちの一人ひとりが日々どんな暮らしを送り、何を大切にしているのか。まちの人たちと一緒にこれからを考えていくためには、まずその声に耳を傾けることが必要なのではないか。そんな思いが芽生えてきたといいます。
そんな中、2024年10月から約半年をかけて開催されたのが、「あなたとおおさき未来デザイン会議」でした。
「これからの大崎町の3年間をみんなで一緒に考える」をテーマに、町内でさまざまな活動や仕事に関わるメンバーが集まりました。参加者同士でこれまでの人生や未来について語り合い、新しい技術や考え方を学びながら、自分たちがまちでやってみたいことを少しずつ企画にしていきます。

最終回となるDAY5では、そこで生まれた企画を参加したまちの人たちへ伝えるだけではなく、思いにも耳を傾けました。
自分たちだけで答えを決めるのではなく、まちの人たちと話しながら、一緒にこれからの大崎町を考えていく。そんな時間が、約半年にわたって重ねられました。

この「あなたとおおさき未来デザイン会議」に講師として参加した一人が、株式会社KESIKIの九法さんでした。
九法さんが担当したレクチャーのテーマは、「人を巻き込むストーリーのつくり方」。
企画の背景にはどんな思いがあるのか。その先にどんな未来をつくりたいのか。自分たちの考えを言葉にし、誰かが「自分も関わってみたい」と思える伝え方について、参加者とともに考えました。
鹿児島県出身の九法さん。幼少期を鹿屋市で過ごしましたが、大崎町を訪れたことはほぼなかったといいます。
その後、東京を拠点に企業や地域のさまざまな取り組みに関わる中で、大崎町が資源循環の先進地域として注目されていることを知ります。


そして2025年度、新たに始まったのが「CIRCULAR VILLAGE DESIGNING」です。
大崎町を舞台に、これからの循環のあり方を地域の人たちとともに考え、実際に形にしていくプログラム。2025年10月には、町内外から参加者が集まり、3日間の「3-Day Designing Camp」が開催されました。



参加者は「ものの循環」だけではなく、「きおくの循環」「つながりの循環」という3つの視点に分かれてまちを歩きました。地域の人たちの話を聴きながら、それぞれが町で感じたことを持ち寄り、これからの大崎町に必要なアイデアを考え、実際に手を動かして形にしていきました。




九法さんも、このプログラムを通して何度も大崎町へ足を運び、町の人たちと関わるようになります。
その中で、一つの思いが生まれていきました。
「大崎町は資源循環の町として知られています。でも、資源循環という言葉だけでは、そこで暮らす人たちの顔や、その人がどんなことを大切にしているのかまでは見えてこない。仕組みや、それを成し遂げた人だけではなくて、まちで暮らす一人ひとりが何を考えているのか。何を大切にしているのか。そういうことをちゃんと見ていきたいと思ったんです」
資源の循環だけではなく、そのまちで暮らす人の幸せや営みに目を向ける。
そんな視点が、少しずつ生まれていました。

捨てられないものから、人生を聴く
「CIRCULAR VILLAGE DESIGNING」を構想する中で、九法さんたちには、プログラムを実施して終わるのではなく、大崎町に何かが残っていくものをつくりたいという思いがありました。
まちの外から人が訪れ、数日間を大崎町で過ごす。その時間だけで完結するのではなく、プログラムが終わったあとも、まちの中で何かが続いていくようなものを残せないか。
それを考えていく中で、編集や本づくりに携わってきた九法さんにとって、「本」という形は自然な選択肢の一つだったといいます。
ただ、資源循環の先進地域として大崎町を紹介するのではなく、もっとまちで暮らす人たちの姿が見える一冊にしたいと考えていました。
「CIRCULAR VILLAGE DESIGNING」の企画を考えるため、大崎町の中心地にある商店街を訪れたときのこと。長く続く店に入ると、古い道具や、いつからそこにあるのか分からないものが目に入ります。
「まちの人と、その人が大切にしているものとの関係を描いたら、人とものとの関係性を考え直せるんじゃないか。ものを循環させる仕組みを考えるよりも前に、そもそも人がものとどう付き合っているのかを知ることが大切なんじゃないか。そう思ったんです」


ものを捨てるのか、残すのか。
その選択の前には、一人ひとりがものと過ごしてきた時間があります。
そこで生まれたのが、「捨てられないもの」を入り口に、まちの人たちの話を聴くという企画が生まれ、本づくりがスタートしたのです。
取材には、大保さんも聴き手として関わりました。
「最初は『捨てられないもの』というテーマで話を聞いていたんですけど、全員が大切だから残しているわけではありませんでした。今も使っているものもあれば、もう使っていないものもある。なんとなく捨てられなかったり、どこかにしまっているだけで、実用的ではないかもしれない。でも、話を聴いてみると、そこにはその人にとって大切なエピソードが詰まっているんです。一つのものについて尋ねるうちに、それまで本人もあまり口にすることのなかった記憶や、その人が歩んできた時間が少しずつ言葉になっていきました。ものって、人生だなって感じました」
九法さんは、こう話します。
「普段、何を捨てるか、捨てないかなんて、そんなに意識していないと思うんです。でも、意識していないからこそ、そこに豊かな物語が眠っていたんだと思います」


まちの人と、まちの未来を一緒に考えるきっかけに
今回の本づくりで大切にしたのは、外から大崎町を眺め、その姿を一方的に伝えるのではなく、まちで暮らす人たちにも本づくりに関わってもらうことでした。
まちで顔を合わせたことがある。
名前も知っている。
仕事や地域の活動を通して、関わったこともある。
大保さんもほとんどの取材に同席し、聴き手の一人として「捨てられないもの」にまつわる話に耳を傾けました。その時間をこう振り返ります。
「改めてその人がこれまでどんな時間を過ごし、何を大切にしてきたのかを聴く機会は少ないと思います。だからこそ、まちの人と一緒に、まちの人に話を聴く。その過程自体が非常に大切だったと感じました。まちで本をつくるという経験が、次の表現や文化につながっていけばうれしいです」


九法さんにも、より多くの人が「自分たちの本」と感じられる一冊にしたいという思いがありました。
「これまで雑誌づくりや編集の仕事に長く関わってきました。その中で、一冊の本を、関わった人たちがもっと自分たちのものとして感じられるつくり方ができないかなと、ずっと考えていたんです」
本づくりを担う関係者だけではなく、まちで暮らす人たちも、その過程に関わっていく。
まちで暮らす人と一緒に、まちの人の話を聴く。
話す人だけではなく、聴く人もまた、その人の人生に触れ、自分自身の記憶や経験を重ねていきます。
「この本はまちの人たちみんなのものでもあります。みんながそれぞれに関わりながら、一緒にこれからの未来を考えるきっかけになったらいいなと思っていました」


本づくりをきっかけに、関係を編み直す
本づくりを通して、大保さん自身にも変化がありました。
その一つが、大崎町にある飲食店「白鶴」店主との関係です。
大保さんは高校進学を機に大崎町を離れ、県外の学校へ進みました。入寮する前夜、家族がお祝いをしてくれた場所が白鶴でした。
「次の日から寮生活だったので、何とも言えない気持ちだったんですよ。焼き鳥もあまり食べられなくて。でも、『いつか大人になったら、白鶴のカウンターで飲みたい』って思っていました」
当時、すでに店主は店に立っていたといいます。しかし、お互いを認識していたわけではありません。
大人になり、大崎町へ戻ってから白鶴を訪れるようになった大保さん。今回の本づくりでは、店主の「捨てられないもの」について改めて話を聴きました。
ものにまつわる記憶をたどる中で、店主が白鶴を引き継ぐまでの経緯や、店に足を運んできた人たちとの関わりを知っていきます。
「話を聴く前も、白鶴にはよく行っていました。でも、店主がどんな思いで店に立ってきたのかを知ると、同じ店なのに見え方が変わったんです。自分が高校進学の前夜に過ごした時間も、白鶴に積み重なってきたたくさんの記憶の一つだったんだなと思いました」

取材をしたその夜、大保さんは白鶴へ向かいました。
そして、高校時代から思い描いていたカウンターでお酒を飲みます。
その後、大保さんが隔週で開いているパン屋に、なんと店主が看板をつくり、持ってきてくれたというのです。
「店主が笑顔で『看板つくったよ』と持ってきてくれて。これまでの関係性だったらなかったことだと思うんです」
一人の話を聴き、その人が過ごしてきた時間を知る。
すると、これまで知っていたはずの人や、いつもの場所の見え方が少し変わっていく。
「そういう関係性がまちの中に増えることで、私たちの暮らしが豊かになるんじゃないか。それが、この本のすべてな気もしています」


大保さんの話を受け、九法さんも、人の話に耳を傾けることで生まれる変化について言葉にします。
「人の話を聴く時って、自分の経験となぞらえながら聴くことがあると思うんです。これまで少し遠い存在だった人との共通点を見つけたり、実は大切にしているものが重なっていることに気づいたり。その重なりを探すことでもあるのかなって」
誰かの話を聴く時、自分自身の記憶や経験もたどっている。
その中で、それまで知らなかった共通点が見つかり、人との距離が少しずつ変わっていくのかもしれません。
本づくりをきっかけに、これまで知っていた人の新たな一面を知る。そして、その後の関係にも小さな変化が生まれていく。
白鶴で起きた出来事は、本をつくる過程で大保さんが感じた変化の一つでした。


ものを見ることで人が見える。人を見ることでまちが見える。
こうして、大崎町で暮らす11人の「捨てられないもの」と、それにまつわる物語を収めた書籍『捨てられないものたち – 循環のまちで見つけた わたしとものの物語 – 』が、2026年6月に完成しました。
6月20日には、大崎町で出版記念イベントが開かれ、会場には約50人が集まりました。



当日は、本の制作背景や内容を紹介するだけではなく、参加者自身が「自分にとって捨てられないもの」を持ち寄り、そのものにまつわる記憶を話し、互いに聴き合う時間が設けられました。
「本をつくった僕たちだけが話すのではなくて、来てくれたみなさんにも、自分のことを話してほしかったんです。これまでの取り組みの中でも、お互いの話を聴く時間を重ねてきました。実際にやってみると、それまで知らなかったその人の一面が見えてくるんですよね」
大保さんはそう振り返ります。


会場には、年代も普段の立場も異なる人たちが集まっていました。
普段の肩書きや役割は違っても、その時間に話すのは、自分にとって「捨てられないもの」のこと。
なぜ今も持っているのか。
そこには、どんな記憶が残っているのか。
一つのテーマを囲み、それぞれの話に耳を傾けました。
「それぞれの思い出に、優劣なんてつけられないんですよね。普段は立場や年代が違う人たちも、一つのテーマを通して同じように自分の話ができる。それがすごく象徴的でした」
九法さんは、本づくりやイベントを通して感じたことをそう話します。


「ものを見ることで人が見える。人を見ることでまちが見える」
大保さんは、本の「おわりに」にそう記しています。
「大崎町というと、環境やリサイクルの取り組みを思い浮かべる人も多いと思います。でも、今回ものを通して話を聴く中で、その人が大切にしていることや、これまで過ごしてきた時間に触れることができました。まちって、そこに暮らす一人ひとりの営みが重なってできているんだと改めて感じました」


最後に、この本をこれから手にとる人たちに対するメッセージを、それぞれ尋ねました。
大保さんは、自身の経験を重ねながら話します。
「読んだ人が『自分にとって捨てられないものって何だろう?』と考えるきっかけになったらうれしいです。そこから誰かと話したり、久しぶりに連絡を取ったり、新しい関係が生まれたりするかもしれない。この本が、そんなきっかけの一つになったらと思っています」
九法さんも続けます。
「家族でも友達でも、少し距離が離れてしまった人でもいい。この本をきっかけに、その人と話してみる。その人の知らなかった一面を知ったり、少しだけ距離が縮まったりする。本を読み終えたあと、それぞれの暮らしの中で新しい会話が始まったら、うれしいですね」

『捨てられないものたち』制作メンバー
著者:大崎町SDGs推進協議会
企画・編集:九法崇雄
装丁・デザイン:久保雄太(TSUZUKU)
撮影:小野慶輔
執筆:上泰寿
進行:KESIKI INC.
制作協力:田中海音、中塚陽子、宮本佳苗
取材協力:大崎町のみなさま
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