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【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん

インタビュー

2022.04.26

名古屋市内にありながら伝統的な町並みを残している緑区有松エリアで、「少し先の産地の未来」像を見据えて「ありまつ中心家守会社」を設立した浅野翔さんにインタビューさせてもらいました!

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
photo@衣笠名津美

名古屋市の南端、緑区有松。
江戸時代から続く伝統工芸「有松鳴海絞り」で知られ、歴史が薫る町並みや絞りの技、祭りなど、ものづくりの伝統と文化的、歴史的な価値が長く大切に守り続けられています。

 

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
東海道沿いに約800mに渡って残る趣ある町並みは国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。古くから継承されてきた染めの技法「絞り」とともにその価値が認められ、2019年に文化庁の日本遺産に認定された。(photo@岡松愛子)
【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
家々の軒下には伝統工芸「絞り」の技法で染め抜かれたのれんが。絞りの手ぬぐいや反物はその昔、東海道を行き交う旅人たちの格好の土産物として人気を呼んだという。(photo@岡松愛子)

 

2014年からフリーランスのデザインリサーチャーとして、まちと人をつなぐコミュニケーションや幅広いサービスのデザインを手がける浅野さん。2018年には「少し先の産地の未来」を考え、持続可能なまちづくりに取り組もうと2人の共同代表とともに「ありまつ中心家守会社」を設立しました。

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
「ありまつ中心家守会社」の事務所にてインタビュー。浅野さんは大学院を修了後に実家のある名古屋市の鳴海に戻り、フリーのデザインリサーチャーとして活動をスタート。(編集部撮影)

有松に隣接する、同じく東海道沿いの宿場町・鳴海で育った浅野さん。生まれは兵庫県の西宮市で名古屋市には3歳の頃に家族とともに転居してきたのだそう。

阪神タイガースの三輪車に乗りながらサッカーは名古屋グランパスエイトのファン。そんな少年時代を笑って振り返る浅野さんですが、西宮市と名古屋市、二つのまちにルーツを持つ生い立ちが自身の働き方や生き方にも影響を与えたといいます。

「8歳の時に起きた阪神淡路大震災はかなり衝撃的でしたね。すでに名古屋に住んでいましたが、被災地はまさに自分の生まれた場所。1ヶ月ほど経って母と様子を見に行くと、祖父母が暮らしていた長屋は傾いて住めなくなっていたし、祖父母の家に行くたびに遊んでいた運動場には仮設住宅が建ち並んでいた。これほどたくさんの人たちが暮らしていた建物がみんな壊れてしまったのかと、大きなショックを受けたのを覚えています。」

そのことがひとつのきっかけとなり建築の道を志した浅野さん。その後、京都の大学に進学します。

「どうしても関西に行きたい思いが強かったんです。建築を学ぶからには建築家を目指したい気持ちもあったのですが、2010年頃はコミュニティデザインとかまちづくりという言葉が注目されていた時代だったこともあり、建物を作ることよりも、なぜまちに建物が必要なのかみたいなことを考えるほうへ少しずつ興味が移っていきました。」

仲間とともに卒業制作に打ち込んだ浅野さんでしたが、合同展示を終えていよいよ打ち上げというまさにその日に東日本大震災が発生。

「夢を持って勉強してきた建築やまちが、災害で一瞬にして消えてしまう脆弱なものだと思い知らされました。打ち上げの日というタイミングで、こんなことをしていていいのかという気持ちにもなりました。震災からひと月ほど過ぎて被災地を訪れてみると、広い範囲にわたって建物も何もかもがなくなっていた。津波の被害は想像していた以上でしたね。」

 

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
8歳の頃に見た阪神淡路大震災、大学卒業直前に起きた東日本大震災、二つの震災から受けたインパクトは大きく、その後の生き方にも影響を与えられたと語る浅野さん。(編集部撮影)

 

そんな中、感銘を受けたのは1日も早く生活を立て直そうと前向きに頑張る現地の人々と、それを懸命にサポートする人たち。絶望的な状況にあっても自分らしい生き方を探る被災者たちの強い姿に深く感じるものがあったといいます。

「人間のたくましさを目の当たりにして、僕がやりたいことは一人一人が持つ創造性や可能性、力強さを引き出し、それを形にしていける環境やツールを作ることだろうと思ったんです。」

その後、大学院在学中に交換留学でフィンランドへ。さまざまな国から集まる学生と交流する中でそれまで触れたことのなかった価値観や概念に出会い、自らの考え方、目指す方向にさらに大きな刺激や影響を受けました。

「日本と違い、学歴よりも職歴や社会経験を重んじるフィンランドでは、一度社会に出た人や子育てが一段落したお母さんなどが改めて大学で学び直すということが珍しくなく、同級生たちは年齢もバックグラウンドもバラバラなんです。そのおかげで自分だってきっとどんなことも、何歳からでもできるだろうって楽観的に考えられるようになった気がします。」

大学院を修了して名古屋へ戻り、一度は就職活動を始めた浅野さん。一方で、実家にほど近い有松のまちではその後の働き方を決定づけるようないくつもの出会いがありました。

「名古屋に戻ってほんのひと月ほどの間にたくさんの人とつながりました。そこで建築家の友人からの紹介で出会ったのが染色加工を代々受け継いできた久野染色工場の久野浩彬専務でした。当時は、100年も続いてきた企業として地域に貢献もしたいし、職人としての技術も磨かなければならない。社長になれば経営のことも考えなければいけない。それらを一人で担うのは大変だけど誰かが一緒に取り組んでくれればなんとかできる。そんな思いを聞かされました。僕は経営工学も学んでいたし、まちづくりのことなら役に立てるかもしれないと感じて、就職せずフリーランスのデザインリサーチャーとして活動する道を選びました。」

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
型彫り、くくり、染め、湯のしなど、完成までの工程は基本的に分業で行われる「有松絞り」。まちには今も多くの工房や工場が残る。染め体験などに挑戦できる場所も。(photo@岡松愛子)

 

まちの課題を解決するにはどんな仕組みやインターフェイスをデザインする必要があるのか。浅野さんはデザインリサーチャーとして、伝統工芸の絞りを中心に有松というまちが持つ特徴を活かした取り組みを探っていきました。

「絞りというのはその工程のほとんどが今でも手作業。だからこそ関わりしろがいくつもあるんです。例えば染めの体験など、何度も参加したくなる体験や、アパレルなどの専門家と適切なコミュニケーションをとるために久野染工で何ができるだろうと話を繰り返し、実験的な試みを進めてきました。僕らデザインリサーチャーは作り手とユーザーとの緩衝材や通訳のような役割を果たし、そのプロセスの中でさまざまなコミュニケーションをデザインしていきますが、有松というローカルエリアでのまちづくりをそのひとつのモデルとして、やがては外に向けて発信できたらという狙いもありました。」

有松で活動をするなかで名古屋市の職員を退職して大好きな有松のまちのためにできることを探しているということで出会ったのが、後に共同代表として会社を運営することになる武馬淑恵さんと、地元で長く続く山上商店三代目、「cucuri」代表の山上正晃さんでした。

 

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
大好きな有松と絞りに関わる仕事がしたいと公務員を退職。浅野さんと出会い、温め続けてきた想いをついに実現した武馬淑恵さん。(photo@岡松愛子)

 

「山上さん、武馬さんと出会うなかで、地域の方や市役所職員の方などとともにまちにはどんな人がいて何をしているのか、そしてどんな課題があるのかなどを知ろうと自主的な勉強会を始めました。月一ペースで続けているうちに、こうして集まって話してばかりいても何も始まらないよねってことになって、とにかく自分たちでできることから動いてみようということで会社を立ち上げました。」

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
2018年8月「ありまつ中心家守会社」を設立。共同代表の山上さん(左)、武馬さん(中央)と。 「ありまつ中心家守会社」では有松の工場で染色体験できるツアー事業「アリマツアー」を展開。日本遺産の選定を受けた2019年度からは、まちづくりワークショップ「プレー!アリマツ」など、まちの関わりしろを活かした企画でまちと人とのコミュニケーションをデザインしている。(photo@岡松愛子)

「有松で長く商売をされていて地域での信頼も厚い山上さんがコミュニティマネージャー。武馬さんはまちの中と外をつなぐコミュニケーションマネージャー。僕は企画やインターフェイスのデザインを考えるブランディングマネージャー。それぞれの個性や立場でバランスよく役割が分かれている感じですね。」

家守会社の主な目的はまちの空き家対策。歴史あるまちであるが故、他所の人がいきなり飛び込むにはハードルが高いという有松で、外から来た人を自然にまちとつなげることができる仕掛けとして定期的に開くマルシェイベント「アリマツーケット」も主催。

 

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
有松天満社一帯を中心に定期的に開催されるものづくり文化に触れる体験型のマルシェイベント「アリマツーケット」には、まちの内外から幅広い世代の人々が集う。(photo@岡松愛子)
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まちづくりワークショップ「プレー!アリマツ」の参加者とまちの魅力を探る様子。(photo@岡松愛子)

 

さらに30年先の有松を考えるワークショップ「プレー!アリマツ」や、実際にある空き家を対象に、活用案を考え提案するまち歩き型のフィールドワークなども行ってきました。

 

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
2020年度は30年後の有松を自由に想像し、実際に起こりうるかもしれない〝まちのニュース〟を提案するワークショップを行った。少し先の未来をみんなで考えることで地域住民や、有松を応援する人々の関わり方を模索した。(photo@岡松愛子)

 

「実際に起こりうるかもしれない少し先のまちの未来をみんなで考えることと、そこから見えてくる課題をすくい上げ、解決を目指して取り組むこと。そこが僕自身にとってまちづくりとデザインリサーチとの融合点だと思うんです。」

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
ワークショップ「プレー!アリマツ」の模様。(photo@岡松愛子)

今後は、会社がまちへ貢献できることとして、空き家対策から浮き上がってくるさまざまな課題を行政に対してフィードバックするようなこともやっていけたら、とも。

そして家守会社が目指すもう一つの目的は「地域振興」。安易に観光地化を図るのではなく、若い世代が主役となって地域に関わっていける仕組みづくりこそが、持続可能なまちづくりには必要不可欠だという浅野さん。

「Uターンでも移住でもきっかけは何だっていい。シンプルに〝このまちが好き!〟という想い、そして自分自身が〝一番楽しむ人〟であることが重要なんじゃないでしょうか。そんな気持ちで向き合えばまちとの関わりしろは自然に見つかると思うんです。それはきっと有松に限らずどこでも同じ。これからの有松に関していえば、若い人たちに魅力を伝えていくことが僕らの大きなミッションだと思っています。」

有松が今夏、3年に一度の芸術の祭典、国際芸術祭「あいち2022」の会場にも選ばれたことで、これまでとは違う若い世代の人たちから注目される契機になると期待。

さらに浅野さんは、今年6月、3年ぶりに開催される「第38回有松絞りまつり」の広報部長を務めています。これまで有松を訪れたことのない若い世代や、往年の有松絞りファンが家族や友人と参加したいなと思えるような情報発信を始めているそう。

「空き家見学ツアーも企画中で、それを機に実際にまちで何かを始めてくれる人が集まったり、応援してくれる地元の人が出てくればいいなと。人とまちとのコミュニケーションをつくり続ける、そういう地道な取り組みの積み重ねがまちづくりの基本だと思うんです。
コロナで2年中止になっていた有松絞りまつりも今年は開催します。ぜひ有松に遊びに来てください!」

 

【名古屋市緑区有松】「少し先の未来」を見据え、持続可能なまちづくりに取り組むデザインリサーチャー・浅野翔さん
3年ぶりに開催される「有松絞りまつり」。広報部長に選ばれた浅野さんはさっそく若者の目にも届くようビジュアルイメージを刷新。イラストは愛知県出身の漫画家・イラストレーターのスケラッコさんによるもの。instagram(@fes.shibori)なども活用して広報活動にも取り組んでいる。
屋号

合同会社ありまつ中心家守会社

URL

ありまつ中心家守会社:https://yamori.armt.jp
有松絞りまつり:https://shibori-fes.nagoya
アリマツーケット:https://arimatsu-ket.com
プレー!アリマツ:https://play.armt.jp

住所

愛知県名古屋市緑区有松1060 冨田ビル205

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