Uターン次女の就農日記(11)/猛暑の洗礼
2023年4月。山形にUターンした。山形に戻るのは、高校卒業以来。
Uターンするまでは、大学卒業から6年間、公務員として働いてきた。29歳のアラサーにして、脱・公務員からの就農。退職前、周囲からかけられた声の中で多かったのは「頑張ってね」という応援と、「辞めるなんてもったいない!早まるな!」という声。後者は、主に身内や親戚から(笑)。どちらの声もありがたく頂戴して、約10年ぶりに山形に戻ってきた。
公務員を辞めてから早や2年が経過し、就農して3年目の年を迎えた。
今年は近年でも特に、夏場の記録的な猛暑と雨不足に、ひどく頭を悩まされた年だった。
なかでも7月は、35℃を超える猛暑日が連日続いたうえに、約1ヶ月以上まともに雨が降らなかった。なんと、山形での観測史上、最小の降水量を記録したらしく、各地で農作物への被害も報告された。周りの農家からも、「苗木の半分以上が枯れた」「桃がおがらない(大きくならない)」と悲痛の声が聞こえた。

我が家でも、桃の収穫に向けた作業を行なっていたが、ラジオから「今日も暑いですね」とお決まりの言葉が聞こえるたび、なんだか嫌になってラジオを切ってしまう日もあった。
夏場の時期は、摘果(てきか)といって、サイズの小さいものや変形したもの、傷がついているものなどを除き、大きな実が取れるように着果数を調整する作業を行う。
また、並行して、桃に袋をかけていく。1つ1つの実に袋をかけて、害虫や風雨の影響を防ぎ、綺麗な果実が取れるように作業をしていく。

連日ニュースから聞こえる、「今日は38℃の予報です」という想像もできない気温に、ガックリと肩を落とす日が続いた。うだるような暑さの中でも、たくさんの農作業が待っている。早朝や夕方に作業時間をずらしながら、なんとか外での作業を乗り切った。

雨が降らない毎日に、我が家の父は、日を重ねるごとにイライラしながら、険しい顔つきでアメダスや天気予報と睨めっこしていた。それでも、雨はいっこうに降らず、いつしか諦めの表情に変わっていった。
雨が降らないため、父は毎日タンクに水を汲んでは、トラックで畑まで運び、水を撒く。それを1日に何往復も繰り返していた。自然の雨には到底及ばない水量ではあるが、少しでも足しになればと汗だくになりながら作業する。雨が降っていれば、本来はやる必要のない作業。通常の農作業をやる間もなく、1日が終わってしまう日もあり、作業が積み重なっていき焦りも増していった。
一ヶ月ほど雨が降らなかったのち、やっと、まとまった雨が降った時は、心の底から安堵した。人生で、これほど自然の恵みを意識したことはないかもしれなかった。

そして、待ちに待った、桃の収穫。残念ながら、例年よりも小ぶりの桃が多かった。それでも枯れずに実ってくれた桃は、とても愛らしくて、頑張ってよかった、と心から思わせてくれた。
しかし、サイズの小さい桃は、自ずと値段が下がる。いつも以上に大変な作業を繰り返しても、現実は収穫できたもので値段が決まっていく。「あんなに頑張ったのに…」と、やるせない気持ちになる時もあるが、こんな厳しい環境下でも、これまでと変わらずサイズが大きくて、良い果物を出荷している農家もいる。決して、自然環境のせいではなく、自分の腕次第で良いものがきちんと作れる、という事実を突きつけられた夏でもあった。

気候変動の激しい昨今。これまでと違う自然環境の中で農家をやっていくことは、とても大きな挑戦である。この経験を活かすも殺すも自分次第、と胸に刻んで、来年に向けて1日1日を積み重ねていきたい。












