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再生可能エネルギーに取組む!/ Solarworld 武内賢二さん・後編

2019.12.25

再生可能エネルギー事業に取り組む先駆者たちとの対談を通して、その活動の原点や原動力そして未来のビジョンを探るシリーズ【グリーンエネルギー・フロンティア!】。

今回のゲストは、ソーラーワールド株式会社代表取締役の武内賢二さん。聞き手は、ローカルエネルギーの研究者であり、東北芸術工科大学教授であり、そしてやまがた自然エネルギーネットワーク代表を務める三浦秀一さんです。

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再生可能エネルギーに取組む!/ Solarworld 武内賢二さん・後編
ソーラーワールド武内賢二さん。

「みんな自分で作ろうよ」という
市民運動的エネルギーの世界に感動

武内:さて、会社を辞めてどうするか。自分が本当にやりたいことはなんだろうと頭を抱えてウロウロしていたとき、一冊の本に出会います。桜井薫の『誰にでもできる太陽光発電の家』です。

三浦:パワー社の小さな本ですね。

武内:ええ。その本を書店で見つけてパラパラとめくったら「再生可能エネルギーはこうして普及させよう」とか「エネルギーはこうやれば作れるよ」「だからみんなで作ろうよ」「技術は私たちが開示するよ」という内容なんです。エネルギーはむりくり売るものではなく「こうやって使おうよ、みんな一緒にどう?」という、そのあまりのピュアなメッセージに深い感動を覚えました。

三浦:今でいうDIYの世界ですね。

武内:そうです。みんなでやろうというそのDIY的な市民運動のスタンスに心打たれて、本も読まないし読書感想文も書いたことがない私が人生初の手紙を書きました。そうしたら後日著者である桜井さんから「今度会いませんか?」というお返事をいただき、ドキドキしながら東京に会いに行きました。

再生可能エネルギーに取組む!/ Solarworld 武内賢二さん・後編
武内さんの人生に大きな影響を与えた一冊。

三浦:桜井さんは当時なにをなさっていたんですか。

武内:エルガという会社の経営者としてすでに10年、再生可能エネルギーで商売されていました。すごいですよね。私は「東京に来てあなたの会社に勤めます、入れてもらえますか」とお願いしたら、桜井さんは「キミは経験もいっぱいあるし、自分でできるんじゃない?」とおっしゃった。そこで初めて「自分で独立して仕事する」という選択肢が生まれました。とはいえ、いきなり独立は無理なので、エルガも参加していたレクスタという協同組合の連携工事の仕事などをやらせてもらいました。

三浦:連携工事っていうのは、電力会社の電線を繋げて売電することですよね?そんなことを当時すでにやってたんですか?

武内:まだ「太陽電池」というキーワードが新聞に出たばかりの頃でしたが、桜井さんたちはそれを生業に商売されていて、エネルギー分散型社会というのを本気で目指していました。エネルギーとは何か、市民運動とは何かを私はそこで一から学ばせてもらいました。

三浦:それから、いよいよソーラーワールドがスタートするわけですね。

武内:大変なのはそこからです。確かにある程度技術的なことは東京で学びましたが、経営なんて勉強したこともないし、独立開業なんて考えもしなかったから、どうしていいかわかりません。とりあえず若い頃からお世話になった地元のクルマ屋さんに「これから自分で仕事をします」とだけ伝えたら「じゃあ俺が一番最初のお客さんになってやる」と言われて、開業前なのにお客様がつきました。ありがたいけど開業ってどうやるんだろう、まずは仕入れかなと思って財布を見たらお金がないのです。「悪銭身につかず」というのは本当で、サラリーマンのときにはあれだけ羽振りのいい生活して遊んでいたというのに、銀行口座にも財布にも全くお金がありませんでした。

三浦:使ったんですね。

武内:使ったんですねえ。まるで残ってないんです。事業をしようにも、工事車両もはしごも工具もない。それで金融機関にお金を借りに行ったら、貸してもらえないどころか相手にもしてもらえない。「再生可能エネルギーをやめてラーメン屋をやるなら貸す」とか「再生可能エネルギーの会社なんてものをお前みたいな若造がやれるか!」と説教までされる始末でした。結局、お金は祖母が貸してくれました。「仕事したいけどお金がないし、銀行から借りることもできない」と言ったら100万円を貸してくれたのです。ありがたい話ですよ。そのお金で車とはしごと工具を揃えてお客様の工事をさせてもらい、そこからようやく事業がスタートしました。

三浦:それが 1997年ですね?

武内:そうです。どうしても「ソーラー」という文字のある名前をつけたくて、色々考えて「ソーラーワールド」という名前に決めました。

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ソーラーワールド事務所の「まちライブリー」には自然環境やエネルギー、政治、農林業や食といったカテゴリーをメインとした1,000冊ほどの書籍が並び、学びと交流の場となっている。

 

バイオマス熱供給システムによる
「おらほのエネルギー」の創出

三浦:武内さんは、最初はソーラー温水器つまり「熱」に取り組んでこられて、独立されてからはソーラーでも「発電」の方をやってこられました。そして現在はバイオマスエネルギーで再び「熱」に取り組んでおられますね?

武内:再生可能エネルギーの時代がやがて来ることには最初から確信がありましたが、事業のやり方としては家内工業的でいいと考えていました。しかし、だんだんと産業化こそが重要であり、雇用を創出できるような経済活動を営まなければならないと考えるようになりました。そのとき、ソーラー発電というのは、一度設置してしまえばメンテナンスの必要も少なく安定的なので、雇用創出はしにくいと思ったんですね。

三浦:周辺の仕事が生まれにくい、と。

武内:ええ。それで、再生可能エネルギーをどう産業化できるのか悩んでいるときに三浦先生からバイオマスのことを教えていただき、先進国オーストリアの現地視察に同行させてもらい、その素晴らしさを目の当たりにしてきました。

三浦:2011年2月という象徴的なタイミングでしたね。バイオマスもソーラー熱温水器も日本とはすでに次元が違うという印象を受けました。

武内:衝撃的でした。ヨーロッパでは、熱は自分たちで作ればいいという考え方で、それを行動に移し、形として実現し、産業となって雇用を生み出していました。その学びから、ソーラーワールドの新しい方向性を明確にすることができました。

三浦:マイクロ熱供給システム」ですね。

武内:そうです。ペレットボイラーで作ったお湯を貯めて、それを地域の給湯と暖房の熱源として使用する仕組みです。私たちの事務所で実際に現物を見ることができます。

三浦:一箇所のボイラーで作ったお湯をその周辺の家々の暖房や給湯に使うわけですね。

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ソーラーワールド事務所横で実際に運転中のものが展示されている熱供給システム。このリアリティが面白い!

武内:ヨーロッパでは、例えば、村長さん自ら山に入りチェーンソーで切ってきた薪をボイラーに投入し、そこで作ったお湯で集落全体を暖房したりしていました。地域の人たちがまたイキイキとやっているんですよ。地域の中の顔の見える人たちでエネルギーを作り管理し運営しているから、盛り上がっているんです。

三浦:みんなでやる事業だから運命共同体だし、みんなで暖をとるという意味でも運命共同体ですね。

武内:電力の場合、太陽光でエネルギーを賄えても、送電というところでは現在の仕組みに乗らないわけにはいかない部分がありますよね。それに対してこの熱供給であれば、配管を地面に入れるという技術的な要件はありますがそこさえクリアできればエネルギー的に自立できる可能性があります。純粋に「おらほのエネルギー」つまり「これこそが自分たちのエネルギー」だと感じられるものになり得る。私たちソーラーワールドは、ぜひここにチャレンジしたいのです。

三浦:熱供給の仕組みとして似ているものにオガール紫波がありますが、あそこまで大規模に町全体でやらなくとも、もっと小さな数軒単位の規模で同じことがやれる、という感じですね。

武内:管理も非常に楽です。燃料を投入する必要はありますが、温度設定しておけばほぼ全自動運転が可能です。24時間365日コンピューター制御なので基本的には何もせず一年中暖かい暮らしができます。状況はいつでもネットで確認できますし、どこにいても遠隔操作できます。

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三浦:5軒だろうと10軒だろうと、集落全体をスマホひとつで管理できる、と。

武内:こうしたマイクロ熱供給の仕組みを導入する動きはようやくじわじわと広がりつつありますし、これを広げないといけない、という感じです。

三浦:日本ではまだまだこの「熱」の分野は遅れていて、理解する人も少なく、専門家もほとんどいません。設備的にも今は輸入品に頼らざるを得ない状況ですが、これから国産メーカーを巻き込んで国策としてやっていかなければ産業の振興も難しいですよね。

武内:これまでは一軒のお宅に給湯と暖房とボイラーがふたつあったりしたわけですが、これからはそうではなく、どこか一箇所のボイラーで作られた熱をみんなでシェアしあう時代になるのではないでしょうか。地域の人たちで熱を作り共同管理するというのは、面白い産業にもなります。それはなんら突飛なことでも目新しいことでもなく、ヨーロッパではすでに当たり前のふつうの日常にすぎません。

地域で作り出されたエネルギーをひとりひとりが受け取るためのレールを敷く。そこにこそソーラーワールドという会社がこれからの社会に存在する価値があるだろうと思っています。
(2019.8)

text : Minoru Nasu  
photo: Isao Negishi

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