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【加賀】まず女性から。地域に「温かなお金」が巡るインパクトを。/「かがじょ基金」

寄付募集

2022.12.23

SNSのタイムラインに、目が覚めるようなビビッドピンクのグラフィックが流れてきた。内容は「かがじょ基金」という、加賀市で活動する財団法人が運営する基金への寄付を募るというもの。ネーミングや「若年女性」にターゲットを絞っているところなどから、「フェミニズム的な基金なのだろうか」と勝手に推察していたが、どうやらそう単色なものではないらしい。

自己責任文化が根強い北陸においてなぜ「寄付」なのか。なぜ「若年女性」なのか。最近耳にする「コミュニティ財団」とは何なのか。様々な疑問を「かがじょ」を運営する「公益財団法人あくるめ」事務局の3人にうかがった。

【加賀】まず女性から。地域に「温かなお金」が巡るインパクトを。/「かがじょ基金」

【加賀】まず女性から。地域に「温かなお金」が巡るインパクトを。/「かがじょ基金」
左から岡島さん、小杉さん、山田さん。事務局がある「おんせん図書館 みかん」の前で。

「コミュニティ財団」って何?

ーあくるめ財団さんは元々「加賀の若者に投資する財団」というイメージでしたが(過去の記事はこちら)、今回の「かがじょ基金」をきっかけに「コミュニティ財団」となることを目標の一つにあげられています。そもそも「コミュニティ財団」って何なんでしょう?

小杉:コミュニティ財団の解釈は色々とありますが、「複数の個人、企業、グループ等から出資金を得て立ち上げた市民立の財団」という定義を全国コミュニティ財団協会が設けています。

もともと「あくるめ財団」は、うちの代表理事一人の想いから立ち上がった財団なので、「自分たちが何もしなくてもお金はあるんでしょう」と思われがちです。けれど目的はそこではなくて「自分たちの街は自分たちで変えていける」という可能性を示せるのがコミュニティ財団だと私は思っています。

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公益財団法人あくるめの事務局を務める3人は、全員県外からの加賀市移住者。

小杉:個人の財団からコミュニティ財団になった事例は全国でもまだないのですが、その第一号に私たちがなってみようと。これからは一人の寄付に頼り切る財団ではなく、たくさんの人から共感をいただいて成り立つ財団にしていきたい。それが「かがじょ」立ち上げの一つのきっかけになっています。

−このところコミュニティ財団が新たに立ち上げられたというニュースをよく耳にします。

小杉「コミュニティ財団」という仕組み自体はもう30年程前からあって、全国にいくつも存在しているのですが、北陸や四国だけその動きがあまり無かったんです。そこに注目した全国コミュニティ財団協会が「北陸や四国にも必要だろう」ということで、近年話題の「休眠預金活用制度(※)」で国の予算をとってきたという背景があります。あくるめはこの制度を活用する実行団体として採択された、北陸では最初の財団なんです。今まで財源がなかったところに大きな財源ができたということもあって、今県内でもコミュニティ財団の設立が広がりを見せているのだと思います。

(※)休眠預金活用制度…休眠預金等に係る資金を民間公益活動を促進するために活用することにより、国民生活の安定向上及び社会福祉の増進に資することを目的として2018年から始まった制度。

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小杉真澄さん/新潟県出身。大学卒業後、新卒で教育系NPO法人に就職。 中退した高校生の居場所づくりなどのプロジェクト立ち上げを経験。そこで出会った若者にとって、より生きやすいフィールドを探し求め2019年3月より活動拠点を東京から石川県加賀市へ移す。2020年よりあくるめ財団に参画

「困っている姿」を人に見せられない文化的背景

ー特に石川県はコミュニティ財団がゼロだったという背景には何があるとお考えですか。

小杉:様々な要因はあるのだと思いますが、「困っている姿」や恥ずかしい部分」を他人に見せない、という文化的な背景は一つ関係しているのかもしれません。財団に限らず、NPOも石川県はすごく少ないんです。どちらも、まず「困っている」という声をあげる人がいないと始まらないという意味で共通するところがあります。

あとは災害が少ない土地だった、ということも関係していると思います。私は新潟県出身ですが、新潟は新潟中越地震を機に、ボランティアセンターなどが立ち上がりました。そもそものNPO法というのも阪神淡路大震災をきっかけに設けられた法律です。なので同じ石川県内でも、能登の方は度々災害を経験しているのでNPOの活動が比較的活発なのかもしれません。

山田さん災害に限らず、危機的状況に瀕した地域、つまり「変わらざるをえなかった地域」ほど、ジェンダーバランスが是正されたり、ダイバーシティが進んだという事例を、私たちも勉強会で多く学びました。
そういう意味では、加賀市はまだ「土地の力がある」というか、地域としてコミュニティが成立しているがゆえに保守的なままでいられるのかもしれません。今、ちょうどその変わり目にあるように感じています。
逆に言えば、まだ余力がある内にいち早くその予兆に気づいて、「地域のために投資していける地域」になることができれば、一気に好転して先行事例になりうるのではないでしょうか。

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山田 真名美さん/東京都出身。大学卒業後、アパレル×WEB企業に入社。2016年に結婚を機に加賀市に移住し、地域おこし協力隊として移住促進に携わる。同時期にローカルメディア「加賀ぐらし」を開設。2017年、あくるめ財団の立ち上げメンバーとして参画し、現在は事務局長を務める

大切なのは、お金の「出所」と「流れ」

―基金なので、もちろん「お金」で様々な活動を支援することになります。その意義はどんなところにあるとお感じですか?

小杉:そうですね、非営利の活動をしているときにぶつかる一番の壁って、やっぱり「お金」なんです。なぜかというと「社会に良いことは手弁当で」という「無性の精神」を求められるというか。けれど言うまでもなく、何をするにもお金は必要です。
ここで肝心なのが、そのお金の“出所”であり“流れ”だと思うんです。地域の人から共感を得たお金を、スピード感をもって地域に投資していく、還元していく。この流れをつくることがすごく重要で。私たちは「お金が地域を回っていくインパクト」を、きちんと感じていただけるようにしていきたい。

これからますます財政が縮小していく中で、「国の税金が全てやってくれる」と思うのは限界があります。「自分のお金は自分で」という考えをもっと開いていくというか、「誰かのために使っていく」ということの意味や意義を、この三年間で一緒に考えていきたいと思っています。

なぜ「かがじょ」は「若年女性」がターゲットなのか

ーでは「かがじょ基金」自体についておうかがいしていきたいと思います。かがじょ基金では「15歳から25歳までの若年女性」と言うところにターゲットを絞っておられます。

小杉:「なぜ若年女性なのか」というところは、加賀を本拠地に置くNPOについて調べていた際に、高校生に始まるこの年代をターゲットにしている団体が一つもなかったことを起点にしています。加賀は「子育てにやさしいまち」として推し出していますが、高校生未満で支援がピタリと止まってしまっていて、そこから先の「高校生から大人への接続」を誰もカバーしていないことが判明したんです。
そこで、高校生世代を取り巻く環境について専門家を招いて勉強会を重ねる中で、若年妊娠や不登校、性差別など「同じ環境の中でも、女子にかかっている負担が大きいようだ」ということが見えてきました。この「困っている子たちがいるなら、何とかしよう」「知たからには解決したい」というのが、かがじょの一番根っこにあるものです。

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ー私自身、かがじょ基金のインスタライブで初めて知ったのですが、「消滅可能性都市(※)」って、総人口ではなく“若年女性人口”の割合で決まっていたんですね。やはりそこも支援対象を若年女性としたことに影響しているのでしょうか。
(※)消滅可能性都市…2010年から2040年にかけて、20 ~39歳の若年女性人口が 5 割以下に減少する市区町村。「消滅可能性」は「持続可能性」の対義語。

小杉:もちろん生物学的に見ても、「人口の再生産ができるか否か」というのは性別によってはっきりと分かれることです。だからこそ若年女性の流失を食い止める、というのは加賀市にとって大きなテーマになっています。同時に、妊娠出産を選択しない女性も、様々な理由で妊娠出産が難しい女性もいる。これまでは彼女たちへのサポートが全くなかったというところにも、今回手を入れていきたいと思っていることの一つです。

#加賀女じゃないよ、JOJOJOだよ

ー「加賀女じゃないよ、JOJOJOだよ」という「かがじょ基金」のキャッチコピーに、フェミニズムとはまた違った広がりを感じました。コピーの真意についてお聞かせください。

小杉:「かがじょ」というと「加賀女」という漢字をイメージされるかと思うのですが、「女/男」という性別で分けること自体に違和感があって。その「女」という概念も崩したくて、「女(じょ)じゃない、JOJOJOだ」と(笑)。このハッシュタグも、共感寄付をしてくださった「かがじょ先輩(寄付者の呼称)」とのキックオフミーティングを開催した際に自然と生まれた言葉なんです。誰の中にもあるマイノリティな部分や、白黒はっきりつけられないような感情を、あえて「?」となるような「JOJOJO」と呼んでいこうと。

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左目は200人の共感寄付を達成した際に入れたもの。右目は目標金額を達成した時に入れる予定だとか。

小杉:私たちは何も「女性が困っているんだから助けろ」と言い立てたいわけじゃありません。「女性のSOSに気づける街/女性の多様な生き方が尊重されている地域は、実はみんなにとっても生きやすい地域なのではないか」という仮説が、私たちの信じるものとしてあります。
今回の「かがじょ基金」は若年女性をターゲットとしていますが、それは「まずは女子から」という、「順序」の話であって。女性はコミュニティを支える要であり、地域においてその影響力は大きいからです。今後はマイノリティや男性ならではの生きづらさといういうところにも対象を広げていきたいと考えています。

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「おんせん図書館 みかん」の中。様々な人が自分の本を貸し出す「一箱本棚」が並んでいる。

「当事者」じゃなくて、「支援者」に

山田あくるめ財団の立ち上げ当初から掲げていたビジョンとして「若者の一人一人の小さな思いを支援して、子ども達の笑顔につながる活動を通じて元気な地域にしたい」という想いがあったので、「お金を投資するなら子供達へ」という想いは「かがじょ基金」にも通底しています。
「次の世代に何を残していくか」というのは、年代や子供のいる・いないに関係なく、共通のテーマであるはずで。「若者に投資」するという部分でみんなで一致団結するって、すごく良いのではないかと思ったんです。

今回活動する中で「自分は男性だし中年だから『かがじょ』からはかけ離れている」といった声もいただきましたが、自分が当事者かどうかというよりも、自分の子供や、次の世代が“当事者”になりうる可能性について考えてほしい。つまり「当事者」じゃなくて「支援者」になっていただきたいのです。

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ーでは、高齢の男性でも「かがじょ先輩(支援者の呼称)」になりうる?

山田:もちろんです!実際に、上は70代のおじいちゃんまで、「かがじょ」寄付者の3分の1は男性です。クレジット決済での寄付が難しいからと、事務局まで現金を持ってきてくださる方も。「かがじょ」に限らず、「寄付する」ということが加賀でもっと当たり前のことになっていったらいいなと思っています。

今こそ「地域の大人」の出番

小杉:実際今回のリサーチで見えてきたことの一つとして、「第三の居場所」と「第三の人」は性別に関わらず、若者に足りていないのだと実感しました。また、性教育については学校で踏み込めない範囲もある、そこも男女問わず教育がなされるべきだと。「人/場所/知識」この三つの不足感は若年層に共通していたことです。

けれど、ヒアリングさせていただいた方の多くが「当時はそれが問題なのだということすら気づいていなかった」とおっしゃるんです。SOSをあげていいんだという発想自体なかったと。それはそうで、学校も大人も子どもたちには変えられません。けれど、そこにもう一人だけでも“相談できる第三の大人”がいたら、当時の彼女たちは別の選択肢を持てたのではないでしょうか。

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小杉:逆に言えば、家庭」や「学校」だけに問題を押し付けるのではなく、私たちは私たちとしてできることを、そのネットワークを築いていきたいということなんです。

アンケートでも「周囲の大人の価値観が変わって欲しい」とか「互いの価値観を理解し合いたい」といった声が多く寄せられました。それってまさに、「学校」でも「家庭」でもない、“地域の大人”の出番というか。若者たちの抱える問題や声を、私たちがプラットフォームになることで見える化して、「地域の大人に対して、若者からこんな期待がありますよ」「いっちょ一肌脱ぎましょうよ!」と言えるのが、まさにコミュニティ財団なんだと思います。

地域を巡れ、“ラテンバイブス”!

ー「かがじょ」の活動量は本当に目まぐるしくて、たった3人の事務局で回しているとは思えないほどです。どうしてそんなに頑張れるんでしょう。「かがじょ」の原動力の源泉について教えてください。

岡島:私は福井県の出身で、同じ北陸なので“出る杭は打つ文化”というか、「すいません」がずっと口癖だったんですね。そんな時期に加賀の東谷地区に通うようになって、そこで地域の方が寛容的に迎えてくれて、自分のことを認めてくれた。「いいじゃん!やりなよ!」って背中を押してもらえた経験があったから、私は加賀に移住してきました。
「人生をここで」と、好きで移住してきた地域で、昔の自分が抱えていたような悩みを抱えている子たちがいるのなら、私は自分たちでやれることをやりたいと思ったんです。

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岡島万智さん/福井県出身。大学卒業後県内にて管理栄養士として働く。2015年頃から加賀市東谷地区の地域の人々に魅せられ通うように。結婚を期に東京で暮らしていたが、「いずれは加賀に拠点を置きたい」と移住を決断。2021年よりあくるめ財団に参画

小杉:私の場合は、「加賀でないといけない」というこだわりは正直に言えばないのかもしれません。でも現に今こうして住まわせていただいていて、その地域が「消滅可能性都市」だと言われている。しかもその定義が「若年女性の流失」とハッキリ明記されているのに、なぜそこに取り組まないんだろうと。「子育てだけ支援していても、じゃあ妊娠出産を選択しない女性たちはどうなるんだ⁉︎」とか、そういう違和感のようなものが、私にとって一番の原動力なのかもしれません。「悪気のない排除」というものは、私の中でずっと気になっていたテーマだったので。

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山田:私は一昨年まで「高校生マイプロジェクト」という加賀の高校生を対象とした事業に関わっていたのですが、「国公立に進学するのが最善の選択だ」という声がすごく多かったんです。それ以外の進路、例えば専門学校や、手に職をつけるための就職という選択肢が、思い浮かぶ環境ではなかった。その「進路の選択肢の狭さ」が、子供達の将来の可能性を狭めてしまうことに繋がってしまうのではないかという危機感を感じました。

若い人が自由に選択できて、それを「いい選択したね」と認めてもらえて、もし失敗しても「よく頑張った」と言ってもらえる。それだけでもいいんじゃないかと。加賀は若年人口が少ないからこそ、“面白いやつら”に育って言ってほしいと願っていますね。

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小杉:かがじょに限らず、「地域で何かやろう」って言う若い子がいる時に「やってみろ」って少し自分のお金を出してあげたりすることってそんなに難しいことだろうか、と私なんかは思っちゃうんです。

企業さんも地域が元気じゃなかったら、そもそも商売は成立しないし、地域に魅力がなければ若者は来ない。だかこそ「いいじゃん!」「それやんなよ!」って大人が背中を押してあげられる、これを私たちは「ラテン・バイブス」と呼んでいるんですけど(笑)、それができたらこの地域はヤバい(素晴らしい)ことになると思ってます。

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(以上インタビューより)
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コミュニティ財団って、サーキュレーター?

3人へのインタビューを終えて、頭に浮かんでいたのは自宅のサーキュレーター。部屋がなかなか暖まらないことを理由に回してみたら、暖気が巡る巡る。エアコンの設定温度は変わらないのに、だ。

もしかしたらコミュニティ財団とは、サーキュレーターのようなものなのかもしれない。地域から共感を得た“温かなお金”を集め、それを勢いをもって地域に巡らせていく。サーキュレーターが様々な位置、角度にあればあるほど空気が巡るように、様々な目的・ターゲットをもったコミュニティ財団が多ければ多いほど、その地域は“温まる”のではないか。

「お金は“巡っていること”に価値がある(内田樹)」。かがじょ基金の寄付受付は今年いっぱい(2022年12月31日まで)。最終的に500万円規模の基金になるという高い目標を掲げている。共感いただけたなら、ぜひあなたも「かがじょ先輩」になってほしい。(寄付はこちらから

名称

かがじょ基金

URL

https://akurume.com/kagajo

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