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車のまち山形とエネルギーの未来/楽しい暮らしのエネルギー10【最終回】

2019.06.11

車のまち山形の費用

最近、高齢者の自動車事故が大きな社会問題になっています。山形のように高齢化も進んでいる車中心のまちでは他人事ではない大きな問題です。

しかし、この車にはもう一つエネルギーという大きな問題があります。この連載も今回で最後になりますが、今回は車から見た山形の環境やエネルギーです。

家庭が一年間に支払うガソリン代を2018年の家計調査(総務省)を見ると、山形市の平均は全国の県庁所在都市の中で4番目に多く92,659円、661ℓ。東京は20,342円、140ℓですから7万円の差があります。ガソリンだけでなく、自動車の保険や車検など維持費全体となるともっとかかっていて、山形市は年間26万円、東京は11万円ですから、15万円の差です。

ガソリン代が上がると、車を頻繁に使う山形市民の家計の負担はぐっと重くなります。しかし、車に乗るということはガソリンの消費によって排出される二酸化炭素によって環境への負荷を与えているということも忘れてはいけません。

車のまち山形とエネルギーの未来/楽しい暮らしのエネルギー10【最終回】
山形市民の自動車維持費用(家計調査2018年、二人以上の世帯)


自動車と再生可能エネルギー

輸送交通のエネルギー対策は世界的にも大きな課題です。自動車に使うエネルギーをいかに減らすか、いかに再生可能エネルギーに転換するかということになります。

減らす方法は低燃費車やハイブリッド車など日本は得意として世界をリードしてきたと言えます。おそらくそれで燃費は半減しつつあると言っていいでしょう。しかし、世界の情勢は半減では不十分で、限りなくゼロにしていくという流れになりつつあります。そのために必要なのはやはり再生可能エネルギーなのです。

では、どんな再生可能エネルギーを車に使うのか。今まで、菜種やトウモロコシなどの農作物からバイオ燃料をつくりエンジンを回すというような方法が欧米を中心に進められてきました。

また、日本では水素を燃料とする燃料電池車の開発が進められてきました。この場合、水素を太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーでつくられた電気で製造することによってはじめて再生可能エネルギーの自動車と言えるようになりますが、そこがまだ焦点が定まっていません。

電気自動車と再生可能エネルギー

そこで今世界的に進められ用としているのが電気自動車です。電気自動車に搭載された蓄電池に太陽光発電や風力発電でつくった電気を充電すれば、再生可能エネルギーで走る車になるわけです。このことは太陽光発電を進める上でも非常に好都合なのです。

太陽光発電はこれまで電気が余る時には、送電線を通して電気を売るという方法で普及が進められてきました。しかし、普及するにしたがって日中の発電量が多くなってきて、それを蓄電池に充電して夜間などその他の時間帯にも使えるようにすることも考えなければならなくなってきました。

しかしながら、蓄電池そのものはまだまだ高価で簡単には導入できるものではないのが現状です。ところが、電気自動車やPHVだと、蓄電池のコストアップは固定式の蓄電池よりも小さいのです。そして、蓄電池に貯められた電気で走ることもできれば、車の蓄電池を家につないで家の中で使うこともできるのです。もちろんそうは言ってもまだ電気自動車も高いですが、世界中のメーカーが開発に乗り出しているのでコストダウンを期待したいところです。

そこでもう一つの課題となってくるのが、蓄電池の容量です。高い蓄電池をたくさん載せればたくさん走れますが、コストも高くなってきます。そういう意味では長距離は公共交通機関を使って、近場は電気自動車でという使い分けも必要でしょう。通勤で車を使っていると、日中太陽光発電が発電しても充電できませんから、晴れた日は自転車やバスで職場に行って、電気自動車を充電させるというのも必要かもしれません。

車のまち山形とエネルギーの未来/楽しい暮らしのエネルギー10【最終回】

車のまち山形とエネルギーの未来/楽しい暮らしのエネルギー10【最終回】
ドイツのゼロエネルギーマンション(写真上)に置かれた電気自動車のカーシェアリング
車のまち山形とエネルギーの未来/楽しい暮らしのエネルギー10【最終回】
電気自動車と住宅の太陽光発電(日産自動車ホームページより)

公共交通と山形の都市計画

再生可能エネルギーと電気自動車の普及には期待したいですが、そもそも車の利用を減らし、車を運転できない人にも暮らしやすい街をつくるということも真剣に考えなければなりません。それでも車は便利だし、地方都市では車のない生活は考えられないという人も多いでしょう。

しかし、最近多発する高齢者の運転事故を見れば、車の運転をあきらめる時のことを考えた人も多いのではないでしょうか。その時どうするか、その代替手段など、地域の問題としてみんなで考えておかなければなりません。車社会は高齢者だけの問題ではなく、車を持たない子供や旅行客にとっても不自由を強いるもので、これは今期待されているインバウンドにとっても大きな壁になるでしょう。

最近話題の車の自動運転にも期待したいところですが、まだまだ乗り越えなければならない課題はたくさんありそうです。今は地域としてバスなどの公共交通機関をもっと整備することを考える必要があります。

ヨーロッパに行くと小さな地方都市でも路面電車やバスがたくさん走っています。深夜帯でも本数を減らして運航しているなど、市民の足としての利便性もよく考えられています。居住地の近くに停留所があるよう公共交通機関を整備するには、住宅があまり分散していては効率的に配置できません。

ところが今の山形は市街地に建てられた住宅がそれほど経たないうちに空き家となってどんどん増えているのも関わらず、郊外に新しい住宅がどんどん建てられていくという流れです。住宅の資産としても、資源としてももったいないことですが、公共交通の整備も難しくさせます。

車のまち山形とエネルギーの未来/楽しい暮らしのエネルギー10【最終回】
ドイツの路面電車

山形のまちづくりと交通

今は私も車中心の生活になっていますが、最初に東京から山形に移り住んだ時、この車社会に違和感を感じました。

車は便利なのだけど、どこへ行くにも車になって歩かなくなる。街を歩きながら、街の風景をゆっくり眺めたり、街行く人々の表情に触れることが減ってくる。少し遠くに出かけても、車の移動で森の中や川の様子はあまりよく見えない。自然豊かなはずの山形なのに、自然と触れ合っている実感が沸いてこなかったのです。

最近、山形市内をベニちゃんバスが回り始めました。スピードは少し遅めで、少し遠回りをしますが、街の様子がよく見えます。飲みに行くときは、ベニちゃんバスを使うと駐車場や代行のことを気にせず行けるというのはすがすがしさがあります。

エネルギーの問題は直接的には発電などの技術によって解決される部分はありますが、私たちの暮らしや福祉、都市計画といった地域社会をどうデザインしていくかもエネルギー問題と密接な関係にあります。

これでこの連載は終了となりますが、地球温暖化の問題はますます現実味を増し、再生可能エネルギーの導入はますます進みそうです。山形の豊かな自然をどう活かすのか、それは新しい技術や大きな会社もさることながら、山形の自然の中で暮らす人の手にかかっています。

次はそんな山形の自然をエネルギーにする「ひと」を紹介しながら新しい連載を企画しています。乞うご期待。

車のまち山形とエネルギーの未来/楽しい暮らしのエネルギー10【最終回】
ベニちゃんバス

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