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すじこおにぎり考

地域情報
2025.09.20

すじこおにぎり考

「そろそろンマイすじこ食(く)だいナ…」という言葉が家族の口からこぼれ落ちるタイミングというのが時折くる。すじこ調達担当の私は「まだがよ…(またですか…)」と感じなくもない一方で、私自身もすじこラバーであるから、家族がせっかくくれたその絶好の機会にはなんだかんだ言わずに乗じることに決めている。

「すじこ」とは紅鮭やトラウトサーモンの魚卵の、「いくら」ほど粒は大きくなっていない、もっと未熟な粒のものの塩漬けされたもので、ここ東北・山形に生きる私たちの食卓にとっては昔から親しいものである。私の幼い頃つまり半世紀近くも前からごはんのおかずとして人気だった気がするし、お弁当のごはんの上にちょんと乗っかって真っ白なごはんが赤く染みついたイメージが今も鮮明に脳裏に浮かんだりもする。数あるおにぎりの具の中でも最上位のものとして昔から君臨していたような記憶があるし、2025年の今もなおこの山形ではやはり具ランキングのトップに君臨しているように思われる。だからだろうか、私は駅西の「森のたんぼ」でおにぎりを注文するとなれば数ある具たちの中から必ず(!)「すじこ」を頼んでしまうし、スーパー「エンドー」ですじこの巨大なおにぎりを見つけてしまうと必ず(!)買ってしまう。

すじこ調達担当として家族のために「おいしいすじこを選ぶ」という重大な責任を果たさねばならぬ私は、市場に出入りしている友人を頼り、さまざまある品々の中でも特に品質に優れたものを探ってもらい、それを買う。産地、メーカー、魚種、魚卵の大きさ、スジの大きさ、塩の味つけ、……などにより色々ランクがあるという。やや鮮やかな色の、見た目にも美しい、いかにも大切に丁寧に仕込まれましたよ、という感じ佇まいの、スジの立派なもので、塩味のあまり強くないものなどはやはりとてもおいしいようである。それはたいてい値段も立派で買うときにはそれなりに気合いがいるが、こちらはもう「家族が平和に生き抜くためにどうしても必要な、絶対に欠くことのできない支出なのだ!」とハラを括ってしまっている。

身近な人たちは皆すじこ好きである。「良さげなすじこ買うけど一緒にどう?」と連絡を入れれば、たちまち年老いた親、義理の親、義理の兄弟などから「要る!」と返事がくる。また、親戚たち、友人たち、隣人たちまで、あの人もこの人も、すじこ大好き人間であることが日々判明してゆく。贈り物や手土産にして喜ばれないということがないのだ。先日は、ふだん特に頻繁に連絡しているわけでもない、山形育ちだけどもうずっと東京で暮らしている歳の離れた姉から「おいしいすじこ送って!」とメールが届いたのでクール便ですぐ送ったら「最高〜!」というメールすぐに返ってきた。

歳老いて血管が詰まりそうになってなお食べたいもの。遠く離れて久しいのになお忘れられないもの。思い出したら無性に食べたくなってしかたのないもの。どうやらそれが「すじこ」である。そして、すじこ愛がすごく深い人たち。どうやらそれが、私にとっての、山形人の定義、ということになりそうである。

Text & Photo by 那須ミノル