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映画の街に暮らす(10)/山形から生まれたテレビドキュメンタリーが観たい!

地域の連載

2021.01.16

ユネスコ創造都市ネットワークに加盟した山形市は、いまや世界に誇る「映画の街」。その現在があるのは、映画とともに生きる人々がいたから。そして、映画に関わる様々な活動が蓄積されてきたから。連載「映画の街に暮らす」は、そうした記憶や想いや物語を、この街の映画文化に人生ごと深く関わってきた高橋卓也さんが語るシリーズです。

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映画の街に暮らす(10)/山形から生まれたテレビドキュメンタリーが観たい!
テレビドキュメンタリーが観たい  上映風景

近年、地方のテレビ局が制作した映像作品がドキュメンタリー映画として全国の映画館で公開される機会が増えている。

『放射線を浴びたX年後』(2012、南海放送)、『標的の村』(2013、琉球朝日放送)、『夢は牛のお医者さん』(2014、テレビ新潟)、『ふたりの桃源郷』(2016、山口放送)、『人生フルーツ』(2016、東海テレビ放送)、『山懐に抱かれて』(2019、テレビ岩手)など、ヒット作が毎年のように登場し、劇場から地域の自主上映へと裾野を広げている。
こうした作品は、テレビの報道や番組として制作したものをベースに製作者が新たな編集を加え映画として完成させ、興行流通ルートに改めて送り出したものだ。

テレビ番組といえば、山形国際ドキュメンタリー映画祭2011では、日本のテレビドキュメンタリーに注目し、歴史的にも重要な作品を全国から集めて特集「公開講座:わたしのテレビジョン 青春編」として上映し好評を博した。これは多様なテレビドキュメンタリーの番組を映画の場で共有する実験的で有意義な企画だった。

通常、テレビ番組は限定的な放映を前提として制作されたもので、他の方法で公開する場合、著作権や肖像権など様々な権利問題をクリアーした上で、社会的な意義が認められる機会でのみ「無料上映」が許されることがある。

この2011年のYIDFFオープニング作品は『出稼ぎ東京』(1965年山形放送制作)。戦後の高度成長に伴う需要で労働力不足に悩む都市に向かう出稼ぎ人でごった返す山形の駅。時代状況と人々の表情を見事に映し出した第1級のドキュメンタリーだった。

また、YIDFF2015のクロージングで上映された『セピア色の証言 ~張作霖爆殺事件・秘匿写真~』(1985年、山形放送制作)は、山形生まれのテレビドキュメンタリーの質の高さと国際性に海外の監督からも高い評価と驚きの声が届いた。
鶴岡市在住の元陸軍特務機関員が密かに保管していた「張作霖爆殺事件」の歴史的な現場写真61枚を、戦後40余年を経て山形放送が発掘。写真の数奇な運命をさかのぼり、事件の影を引きずる関係者を追跡し、隣国の要人暗殺という暴走の背景に迫っていく力作。丁寧な取材で地面を掘り起こし遂には世界に触れるような作品だった。日本民間放送連盟賞最優秀賞、ギャラクシー賞を受賞。

こうした作品に出会うと、足元にこそ発見があるとハッとする。しかしこれは氷山の一角で、他にも優れたTVドキュメンタリーが山形から生まれていたのではないか。もっと目を向けるべきだと感じた。
知ったつもりの足元に実は色んな歴史や物語が脈々と生きていて、地元のテレビメディアが、日々の取材やフィールド・ワークの中で大事なものに出会い、認識を深めて行く。そして、これを作品に纏めたいという思いが生まれる。組織の中で揉まれながらも企画を通し、作り手たちは何とか番組に育て上げる。優れた作品は全国的な賞を幾つも獲得する。しかし、民間テレビ局で一つの作品が放映される機会は再放送を含めても多くはない。

何かとても勿体ない。自分たちなりに何かできないだろうか。そんな思いで昨年からスタートしたのが、金曜上映会特別版「山形から生まれたテレビドキュメンタリーが観たい!」という山形国際ドキュメンタリー祭の主催企画だ。地元テレビ局の良質なテレビドキュメンタリーを掘り起こし、各局と連携しながら一般市民が鑑賞できる機会を作る。

会場の公共施設のホールに、映写・音響機材と共に横5m×縦3mのスクリーンを持込み映画館同様に黒幕で縁取りした画面を作り込む。いわば仮設ミニシアターの暗闇に大きく映し出された「番組」とまともに向き合う体験を共有する。そして、制作者をゲストとして迎え番組作りのお話を伺い、観客との質疑応答も行うから、映画祭の様な雰囲気にもなる。

第1回は、2020年9/18、山形放送編を開催。『想画と綴り方 ~戦争が奪った子どもたちの“心”~』(2019年日本民間放送連盟賞テレビ教養部門全国最優秀賞、日本ジャーナリスト会議賞ほか)上映と伊藤清隆チーフディレクターによるトーク。そして『ぶちかませ! 小町 ~泣き虫 相撲っ娘の挑戦~』(2019日本民間放送連盟賞テレビエンターテインメント部門全国最優秀賞)上映と佐藤愛未ディレクターのトーク。

映画の街に暮らす(10)/山形から生まれたテレビドキュメンタリーが観たい!
「ぶちかませ小町」より
映画の街に暮らす(10)/山形から生まれたテレビドキュメンタリーが観たい!
佐藤愛未ディレクターのトーク

2回目の開催は、同年11/13、テレビユー山形編。『ローカル魂 朝日連峰大縦走 原始の山を行く』(2019日本民間放送連盟 テレビエンターテイメント番組 優秀賞)上映。トークは小山瑶アナウンサー、そして『絆のカタチ ~南三陸町被災児童が作る卒業映画~』(2012日本民間放送連盟賞、ほか)上映。トークは佐藤義亀報道制作局長。

映画の街に暮らす(10)/山形から生まれたテレビドキュメンタリーが観たい!
『ローカル魂 朝日連峰大縦走 原始の山を行く』より
映画の街に暮らす(10)/山形から生まれたテレビドキュメンタリーが観たい!
『朝日連峰大縦走』トークの様子

これまでの2回の上映会、とても充実感のある新鮮な体験となった。身近な地元をじっくりと見つめ直して生まれた番組が、映画的装置の中で改めて新しい映画として見つめられる瞬間に立ち会えたと思う。知っているようで知らないヤマガタの歴史や自然や人々の表情。日常の音に紛れて存在するテレビ画面からは零(も)れてしまう作品本来の力や魅力が生々しく伝わって来るのを感じた。

そして番組制作に関わった方のお話を聞くにつけ、テレビメディアだからこその様々な利点や制約の狭間でいかに良質な作品を作り出すかという独特の工夫と戦いを改めて意識させられた有意義な時間となったし、一番嬉しかったのは、立ち会った制作者たちが大画面でテレビ番組と向き合う体験に感動してくれてことだ。ローカルなテレビ局だからこそ創ることができる作品がある。そして作品を新たに共有するという可能性は未だ未だこれから試されて良いのだと思う。

映画の街に暮らす(10)/山形から生まれたテレビドキュメンタリーが観たい!

金曜上映会特別版・やまがた市民映画学校
「山形から生まれたテレビドキュメンタリーが観たい!」YTS山形テレビ編
2021年1月15日[金]
 午前の部 10:50(10:30開場予定)
『希望の一滴 ~希少難病に光! ここまで来た遺伝子治療~』
 +トーク:庄司勉ディレクター
『妖怪を見た男 ~近代建築界の巨人 伊東忠太の世界~』
14:10(13:50開場予定)
『妖怪を見た男 ~近代建築界の巨人 伊東忠太の世界~』
 +トーク:庄司勉ディレクター
『希望の一滴 ~希少難病に光! ここまで来た遺伝子治療~』

*作品内容等 詳細
http://www.yidff.jp/news/20/201126.html

このシリーズは、今後も続けて行く予定です