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穏やかな休日のための音楽 1

地域の連載

2021.01.10

コロナ禍の中、我々山形ブラジル音楽協会は活動を完全に抑えられた昨年でしたが、唯一出来たことといえば山形新聞の「日曜随想」に、5週に一度拙文を寄稿させて戴いたことくらいでしょうか。「穏やかな日曜日のための音楽」をテーマとして、主として山形に縁のある南米のアーティストの作品を、計11枚紹介いたしました。しかしコロナの感染状況は未だ先行きが見えず、当会の活動も先行きは不透明です。そこで今年1年間、せめて今度はこちらのWeb上でこのテーマを引き継いで、「穏やかな休日のための音楽」を紹介していきたいと思います。

アルゼンチンの音楽といえば、誰もが思い浮かべるのがタンゴやフォルクローレではないでしょうか。しかし勿論彼の地の音楽も多種多様であり、隣国ブラジルの音楽に強い影響を受けた音楽を志向するアーティストもいます。そんな音楽家の最高峰が、残念ながら2019年に亡くなった、ギタリストで作曲家のアグスティン・ペレイラ・ルセーナ(Agustin Pereyra Lucena)です。

穏やかな休日のための音楽 1

アグスティンは、1948年、ブエノスアイレスに生まれ。ブラジルのジョアン・ジルベルトやバーデン・パウエルに魅了されてギタリストを志したそうです。1970年にデビュー・アルバム「アグスティン・ペレイラ・ルセーナ」をリリース。そのジャケットには「イパネマの娘」など、ボサノヴァの詩を創造した偉大なるブラジルの詩人(外交官でもある)で、その頃度々ブエノスアイレスを訪れていた、ヴィニシウス・ヂ・モラエスが賞賛のメッセージを寄せています。

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ヴィニシウス・ヂ・モラエスと

その活動はアルゼンチンや隣国ウルグアイに止まらず、ヨーロッパやカナダでも公演を行いました。特にノルウェーには長期に滞在し、地元の音楽家と活動。北欧に本格的なボサノヴァを紹介したアーティストとして評価されているそうです。また勿論ブラジル音楽の著名な音楽家との共演も数多く、昨年にはブラジルを代表する打楽器奏者、故ナナ・ヴァスコンセロスと1971年に共演したアルバムも復刻されています。

穏やかな休日のための音楽 1

またアルゼンチンで同じくブラジル音楽を志すアーティスト達の師として多くのアーティストを指導しました。山形にも2回来ていただいたベト・カレッティも彼の指導を受けた一人です。そして2010年アグスティンは、最初にして最後の来日を果たします。

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ベト・カレッティと

さて皆さんご存知ないと思いますが、私は以前、今はなき山形コミュニティーエフエム(通称VigoFM)で「バール・ナ・エスキーナ」というプログラムを持っていました。大体10年ぐらい続いたプログラムです。その中で、以前から愛聴していたアグスティンの音楽を特集しました。するとしばらくして、どのようにして伝わったのかはもう定かではありませんが、アグスティン本人から以下のメッセージを頂戴し、番組内で紹介いたしました(2005127日放送)。以下はそのメッセージです。

(原文)

I found out about your very interesting program “bar na esquina” of Brazilian music through my friend and I was very happy to know that you have played my music! Let me take this opportunity to send my greetings to all of the listeners and Brazilian music fans who follow your program and to thank you for recognizing my work, especially since I am not a native Brazilian. I have always been inspired by the great composers of Brazil when writing my own music and my Argentinian roots have also become a very important influence in many of my compositions, such as Planicie and Rutas. I hope you continue to accompany me and I will always be happy to know that I have friends and followers on the other side of the world! Best wishes to you.    Agustin Pereyra Lucena

(以下は私の拙訳)

私は私の友人を通じて、貴方の興味深い番組「バール・ナ・エスキーナ」を知りました。さらに貴方が番組で私の音楽を流してくれたことを知り、とても幸せに感じました。この機会を利用して、貴方の番組をお聞きの皆様やブラジル音楽ファンの皆様に、ご挨拶をさせていただきます。また、私の音楽を認知していてくれることに感謝を致します。なぜなら私はネイティブなブラジル人ではないのですから。私はつねにブラジルのたくさんの作曲家から触発されてきましたし、更に私のルーツがアルゼンチン人であることも、多くの私の曲にとても重要な影響を与えてきました。例えば「プラニシエ」、「フータス」などがそうです。貴方がこれからも私と共にあることを望むと共に、地球の裏側に私の友人や支持者がいることで、私はいつも幸せでいることができるでしょう。心からの感謝を。
         アグスチン・ペレイラ・ルセナ

このメッセージを頂いた5年後に、アグスティンは来日を果たします。実は主催の方から山形公演の打診もありました。しかし残念ながら平日の公演の依頼であったため(我々は土日しかライブの主催ができません)、やむなく断念せざるをえませんでした。思いは届かず、今考えても本当に残念でなりません。そして20195月にアグスティンは帰らぬ人となり、いつか山形公演をと願っていた我々の夢は、完全についえてしまいました。

穏やかな休日のための音楽 1
日本ツアーのフライヤー

今回紹介するのは、彼にとって4作目となる1975年の名盤、「Ese día va a llegar」というアルバムです。北欧での活動を終えて、アルゼンチンに帰国し制作された作品で、硬質でいて繊細なギターの演奏が出色です。自身のオリジナル中心に、彼がもっとも影響を受けたギタリスト、バーデン・パウエルの曲や、ジョアン・ドナートの曲などを取り上げています。自身のルーツたるアルゼンチン音楽の持つ叙情と、ボサノヴァの郷愁が一体となった優美な(でも格好いい)作品です。新年の穏やかな休日にのんびりと聴いてみてください。

穏やかな休日のための音楽 1

試聴リンク:https://youtu.be/BiZGQ3GaxRg